45. 荷台を並べてマリーク氏に挑む
護衛の訓練が必要になり、道場にそれを見に行くが、師範代のしている訓練はまともでない。意見すると、師範代と試合をすることになった。
師範代が護衛対象を守り、こちらが襲う内容だ。そのために冒険者ギルドの商会で護衛のマリーク氏に訓練をつけてもらうことになった。
シンディ・アレックスとともにはじめてマリーク氏と試合したが、彼は軽トラの荷台のようなところに立って護衛対象の周りを木の板で囲み、こちらには手出しをさせなかった。
シンディたちと3人で反省会をする。
はっきり言って3人で攻めてもまったく相手になっていなかった。それほどあちらの方が有利だったのだ。
フェリス「とにかく何か方法がないか考えてみようよ」
シンディ「あのね、あの下から攻めるのはものすごくつらかったわ」
そう考えたらそうだ。上の方に木剣を突き上げるのはかなりつらかった。常に上向きの姿勢というのも楽ではない。はっきり不自然な姿勢だ。試合は10分を2回だったがどちらの恐ろしく疲れた。
アレックス「そうか、じゃあ上からにならないように攻めればいいんだ」
シンディ「そうね、どうやってすればいい?」
アレックス「こちらも高いところに上るのはどう? 踏み台とか」
確かにそれなら攻めやすくなる。ただ正直言うとあまり試してほしくない。踏み台のような場所での作業はけっこう危険なのだ。そこに乗ってチャンバラなど危なくて仕方ない。
落ちると骨折したり、下手に頭を打てば死ぬこともある。前世での労働安全衛生での考え方だ。過去にあちこちの職場で起こった事故の事例を集めて何が危険かをリスト化している。
まあ人を襲う賊が労働安全衛生を考えるのも変な話だが、それでも全く考えないわけではないと思う。
フェリス「うーん、考え方はいいと思うけど、踏み台の上ってかなり戦いにくいよ」
いちおう言っておく。とにかく明日、踏み台の上で戦うのはなしにしたい。
シンディ「それならさ、こっちも荷台のある車を用意して、それで戦うのはどうかしら?」
確かにそちらの方が安全だ。ただやはり荷台の上で戦うとなると、落ちたとき怖い。「1メートルは1命取る」という標語があって1メートルの高さから落ちると死ぬこともある。
ただ反対ばかりするのもやりにくい。明日荷台を並べることになったら、その時点でお互いに地上に降りて戦うことにしようかと思う。
アレックス「じゃあ、明日はそれで行こう」
というわけで、反省会は終わりになる。
翌日になり、仕事を終えて夕方にまたマリーク氏のところに行く。今日は荷台付きの車でだ。そしてまた訓練をつけてもらう。
今日は昨日の相談の通り、荷台を並べる。並べた時点で、俺の方から主張する。
フェリス「きのうの反省に立って同じ高さにしました。ただ本当はこれで戦うべきですが、高くて落ちやすいところで戦うと危険なので、地上に降りてしましょう」
そう言うとマリーク氏もシンディたちも戸惑っている。
シンディ「え? でも実践的にやらなきゃ」
アレックス「そうだよ。それじゃ訓練にならないんじゃないか?」
反論されるが、ここは譲るつもりはない。
フェリス「いやあまりに危険だ。骨折などしても困る」
キッパリという。
マリーク「うーん、実際の状況を体験しておくべきではないかと」
フェリス「それでしたらはっきり分けましょう。荷台の上では力強いたたき合いや派手な動きはしない。それらをするのは地上とする。いまは高所での剣術の訓練ではありません」
3人はそれでも実践的にと言うが、ここだけは譲らなかった。それで彼らもあきらめて、訓練を分けることにした。
荷台の上では演技指導でもするかのようにゆっくりと戦いのまねごとをする。地上では昨日と同じく、息が切れるほど激しく動く。
ただ荷台を並べた場合は、その並べた方向からしか基本的には攻められないので、地上に降りたときは地面に線を引いて、そちらの方向からのみ攻めることになった。
すると今回はマリーク氏は大きな盾を持ち出して防戦一方だった。
今日も2戦してやはり2回ともマリーク氏が守り切る。だが前回よりは圧倒的ではなかったし、息もそこまで上がらなかった。やはり昨日は無理な姿勢で動き過ぎたのだ。
シンディたちは2戦してまだしたいと言っているが、こちらはやはり少し辛い。しかももう攻めあぐねているので、これ以上やっても勝てそうにない気がする。
フェリス「いや、たぶんこれ以上やっても今日は勝てないと思うよ」
そういうと二人は納得する。
マリーク「いや、今日は少し怖かったですね。実際に同じ高さに来られるとこちらの優位はずいぶんなくなってしまいます。とにかく守るときはできるだけこちらが優位になるように準備するのが上策です」
確かにいま俺たちは師範代との試合に向けて攻めることを考えているが、実際に実戦で必要なのは守る方だ。
そんなことも考えつつ、また今日の反省会に向かった。




