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マリーク氏との試合

 襲われたりその不安が大きくなって護衛が必要になり、護衛の訓練を見るために道場に行ったが、道場の師範代のする訓練はあまりにうまくない。


そこで彼に注文を付けると師範のとりなしで翌週に試合をすることになった。師範代が護衛対象を守り、俺たちがそれを奪取する試合だ。


猪突猛進馬鹿だから何もしなくても勝てると思っていたが、シンディは心配している。そこで冒険者ギルドのスコットに護衛に詳しい人を紹介してもらう。


イグナーツ・マリーク氏だ。マリーク氏相手に試合と練習をすることになった。



 屋外の少し広い訓練場のようなところで試合になる。

マリーク「では、こちらはこの人形を守るので、君たちが10分以内に奪い取れたら君たちの勝ち、10分間守り切れたら私の勝ちでいいですね」

シンディ「わかったわ」


そこで俺とシンディとアレックスの3人で襲ってマリークが守ることになった。マリークは馬車を持ってこさせる。ただ全体が覆われているわけではない。


ちょうど軽トラの荷台のように、荷台に載っているものが落ちない程度の囲いがあるだけだ。お互いに木製の剣を持って相向かう。


 試合開始となるとマリークはまず馬車の警笛用の銅鑼を打ち鳴らし、それから荷台にあった板を使って人形の背後に簡単な壁を作ってしまった。これで後ろからはものすごく襲いにくくなる。


マリークは人形の前で守る。いまマリークは荷台の上にいる。下から襲おうとしてもなかなか襲いにくい。


いちおう複数の方向から攻めるが、こちらがハアハアゼイゼイ言いながら剣を振り回しているのに、マリーク氏の方は涼しい顔をしている。



 攻めあぐねて疲れているところで、マリークの声がする。

マリーク「10分経過しましたね」

こちらは息が切れて疲労困憊だ。シンディもアレックスも肩で息をしている。


マリーク「どうですか? 複数で襲ってもなかなか難しいでしょう」


フェリス「護衛対象を奪い取るのは難しいですが、殺してしまうのはもう少し簡単に見えますが、そうなったらどうしますか?」


マリーク「確かにそうですが、それは多くありませんね。まず身代金を要求するなら殺すのは得策ではありません。


皆殺しにして金品を奪う犯行もあるにはありますが、官憲は意地にかけても調べてきますし、処罰は死罪しかなくなります。だからプロの強盗はまずしません。割に合わないので。


それに護衛対象を殺してしまうと、護衛の方はむしろ自由が利きます。逃げてしまうことも可能です。むしろ逃げて通報することを選びます。


ですから殺しは素人強盗かよほど深い恨みを持った場合でないと考えにくいところです」



深い恨みの方は心当たりがあって困る。子爵のゲルハーは俺を恨んでいる上に、罪をもみ消すことができる。アレックスの雇い主のブラック親方も家財を失ったから恨んでいそうだ。


もっとも見る人が見れば最初から経営がダメでいずれつぶれるところだったが、本人は俺のせいでつぶれたと思っている可能性が高い。


何でおれが悪いことをしているわけでもないのに、こんなに恨みを買わないといけないのだろう。



シンディ「火を使うのはどう?」

マリーク「実際には馬車は油を使ってもそんなに燃えやすくありません。10分で火が付くかどうかは微妙ですね。それに金品強奪の場合には燃やしてしまうと目的が達成できません」


たしかにガソリンでもあればすぐに燃えるだろうが、こちらにあるのはそんな揮発性のない、しかも精製度の低い油しかない。



アレックス「弓矢はどうですか?」

マリーク「弓もなかなか手加減が難しいですね。結構簡単に相手が死んでしまう。それに剣はつけていても目立ちませんが、弓を持っているとあまりにも目立ちます。街の外ならともかく、街中で犯罪目的で持ち歩くのは現実的ではないでしょう」


フェリス「もし車がないときはどうしますか?」

マリーク「それはかなり護衛しにくくなります。そういう時はまず危険な場所に近づかないこと。夜なども出歩かないこと。どうしても必要なら複数の護衛をつけることです」


できないことをきちんとできないと言ってくれる専門家は信用できる。できもしないことをできると言う者も多いのだ。ただできることでもできないと言われるとこちらが損するので塩梅が難しい。


いずれにしても、まともな護衛がつけばリスクが減ることは分かった。



 けっきょくもう一回試合をして、前よりは少しだけ護衛対象に触れられたが、ほとんど相手にならなかった。シンディたちはまだできそうだったが、俺の方はもうくたくたでもうしたくない。


 シンディたちはもうひと試合と言っているが、こちらはもうできそうにない。だいいちこのまま続けても勝てそうにないのだ。戦略が必要だ。さすがに今日はやめにしてもらう。


今日だけで済ませるつもりだったが、そうもいかなくなった。これで道場の師範代に勝てないと面倒なことになりそうだ。明日も試合することにする。



 帰って商会で反省会のようなことをする。

アレックス「フェリスがもう少し果敢に攻めればなあ」

そういう問題ではないと思う。基本的に戦略が間違っているのだ。その点、シンディはもう少し冷静だ。


シンディ「いやフェリスがもう少し強くてもあれは無理よ」

たぶん全体像が見えているのだろう。ただ俺が弱いこと前提で話すのはやめてほしい。


フェリス「とにかく何か方法がないか考えてみようよ」

だいたい今から俺が強くなるなんて考えても仕方ないのだ。3人で善後策を話し合うことにした。



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