表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
588/642

護衛イグナーツ・マリーク

 護衛が必要となり、シンディにその組織を任せると、道場に訓練に行った。しかし道場での師範代の訓練は俺の満足のいくものではない。


師範代に意見すると、雰囲気が悪くなりかけたが、師範が試合をするよう提案しそれで合意した。師範代が護衛対象を守り、俺たちが攻める内容だ。


師範代の考え方など猪突猛進でどうしようもないと思っていたので、すぐに勝てると踏んでいたが、シンディの方はもっとずっと慎重だった。誰か強い人を連れて来て実際に訓練してみようと言うのだ。


シンディ「誰か強い人を連れて来て、実際にやってみるのよ。そうしたら課題も見えてくるし、対策も打ちやすいわ」

フェリス「うーん、面倒そうだな」

シンディ「そんなこと言っていいの?」

フェリス「え? 何か問題ある?」

シンディ「フェリスは勝てるつもりのようだけど、もし負けたら師範代は何してくるかわからないわよ」


うーん、そう言われるとそんな気もする。道場に行ったらさんざんな目にあわされるだろうし、行かなかったらまた何か別の形で嫌がらせされそうだ。


敵がいろいろ多くてなんか護衛を求めて道場に行ったのに、ますます敵が増えたような気がする。悪いことしているつもりはないのに。


フェリス「まあでも負けることはないでしょ」

シンディ「あのねえ。あんた、いつもはもしものときを考えないといけないなんて言っているでしょ。全然考えてないじゃない」


確かにその通りだ。まあ考えたくなんだろうな。考えやすい方はどんどん考えるけど、考えにくい方は適当で済ましてしまう。


フェリス「うーん。そうだねえ」

シンディ「『そうだねえ』じゃないでしょ」

フェリス「じゃあどうする?」

シンディ「どうするって、考えてないの?」

フェリス「まあ詳しい人に聞くのも考えるうちだし」

シンディ「だからさっきも言ったけど、強い人連れて来て実際に試合するの」

フェリス「その強い人ってどこにいるの?」

シンディ「ギルドにいくらでもいるでしょ。護衛だって得意なのが」


ああ、そうだった。どうにも苦手分野はあまり考えが進まない。たぶん思考のコストのようなものが違うのだろう。


武力関係のこととなると同じことを考えるにしても、俺はハアハアゼイゼイいって走るように負担があり、シンディにとっては普通に歩いている程度の負担なのだろう。


だから俺はすぐに考えるのをやめたくなるし、シンディの方はいくらでも考えが進む。商売のこととなるとまるっきり逆なんだけどな。


フェリス「じゃあギルドに行って探してくるか」

シンディ「そうね」



 アレックスも連れて冒険者ギルドに行ってスコットと話す。彼とはセレル村での子ども時代以来の付き合いだ。


フェリス「……というわけで護衛を攻略する試合をするので、その練習ができるような人はいない?」

スコット「なるほどな。それならちょうどいい者がいる。護衛の経験も多い」


そこでイグナーツ・マリークという人を紹介された。40代くらいで身長はやや高く、それほど威圧感はないが程よく筋肉がついている感じだ。


この辺の人の筋肉というのも昔はぜんぜん関心がなかったが、シンディに言われてみるようになった。



マリーク「なるほど。それでしたら実際に私が護衛対象を守って、皆さんが奪う試合をやってみましょうか」

言葉遣いがなんとなく丁寧だ。護衛の経験で有力者を相手にすることが多いからだろうか。


マリーク「ただ勝ちの条件を決めないと試合になりませんね」

フェリス「え? それはどういうことですか?」

マリーク「まず前提として戦い自体は3対1では勝負になりません。ですが護衛の場合は通報するとか大きな音を出して助けが来るまで時間を稼げばいいわけです」

シンディ「相手を打ち負かすことはできないの?」

マリーク「相手が多勢の場合は無理です」

シンディ「でも剣術の技量が圧倒的なら多勢相手でも勝てるんじゃない?」


マリーク「いえ、無理です。技量差が圧倒的で多少の人数差なら勝てるかもしれませんがもっと多勢で来られたら勝てません。技量が高くてもこちらは護衛対象という、ある意味では足手まといがいますしね。まして相手は弓矢を持ってくるかもしれません」

シンディ「それなら護衛側も人数を確保すればいいんじゃない?」


マリーク「それはふつうはできません。襲ってくる側は襲う時と人数を選べますが、襲われる側は選べません。だからいつでも多数の護衛を付けなくてはならなくなります。いくら何でも費用が掛かり過ぎますね。国王やよほどの大貴族ならともかくふつうの商人の方はできません」

アレックス「でも襲われそうなときだけでも多めにするとか」


マリーク「はい。多額の金貨を持っているとか、夜道や郊外など人のいないところを行くときは護衛を多めにするのはいいことですし、実際にそうしています。ただそれにも限度があります」

シンディ「じゃあどうすればいいの?」


マリーク「危険なところには極力いかない、多額のお金を持っていることは隠す、そもそも人に恨みを買わない、などでしょうか」


2人はあまり納得していないが、彼の言っていることはもっともだ。ただ恨みについては勝手に人が恨んでくることはある。


そもそもある種の歪んだ特権意識を持っていて、それが侵されるとかってに恨んでくるのだから仕方ない。俺をつけ狙っている子爵とか、ブラックの親方とかその類だ。


マリーク「それでは勝ちの条件ですが、私の方は10分間守り切ったら勝ちということでよろしいですか?」

シンディ「その10分の根拠が知りたいわ」


マリーク「護衛側は襲われたら火薬を使うか、大音響の出る楽器のようなものを使うかして、大きな音を出して人の注目を集めます。賊はたいてい人が集まるのを嫌います。官憲が来ますから。奪取の対象を確保してからも時間がかかりますから、逃げようとしたら10分が潮時です」

シンディ「なるほど、それでいいわ」


というわけで試合を始めることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ