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師範代に注文を付ける

 商会で組織的に護衛をすることになり、シンディに任せた。シンディは道場で護衛の訓練をすると言うので、見に行ってみた。


ところが師範代のオッツァラのする訓練は到底護衛向きに見えない。ただ襲ってきた賊を力で押し切れと言うのだ。複数で襲ってきたら完全に護衛対象はさらわれるか害されるかに決まっている。



 師範代に意見しようとシンディとアレックスに言うが、二人は乗り気でない。だいたいこういうときは俺の方が慎重で2人の方がどんどん先に進んでしまうところだ。


たぶん中の事情が分かってきて、人間関係などができてくると、躊躇するのだろう。その点俺は道場の中のことなどほとんど知らない。


ただ師範代が脳筋だと言うことだけはわかる。それでもさすがに俺にケガをさせるような真似はしないだろう。もしそんなことをすれば二度と道場に行かないのはもちろん、官憲に突き出してやる。



 道場に行って、師範代に話しかける。シンディたちは止めようとしている。

フェリス「あのー、師範代。お願いがあります」

師範代「おう、なんだ?」


フェリス「シンディが護衛をするのに、実践的な訓練を考えてもらえませんか?」

師範代「あ? いまも実践的な訓練をしている」


フェリス「この前拝見した訓練では複数で襲われたときに対応しきれないように思います」

師範代「はん、それは素人考えだな。すべて打ち倒せばいいのだ」

フェリス「しかし、1人を追い回しているときに護衛対象を狙われたり、まして人質に取られたらどうしますか?」


師範代「理屈を言うな!」


怒声が飛ぶ。まあ俺も前世で部下がまるっきり頓珍漢な理屈を言ってきて腹を立てた覚えがあるからそう言いたくなるのはわからないではない。ただやはり理を解いて反論すべきだろう。


師範代「いいか! 俺はもう何度も要人の護衛をやっているんだ。経験が違う」


そうかもしれないが、それはたまたまその程度で済むような相手しか襲ってこなかったのだろう。あるいはまったく襲撃などなかったのかもしれない。こちらはしっかり子爵配下に襲われているのだ。



フェリス「そうですか、これ以上お話してもらちが明かないようなので失礼したいと思います」

師範代「ええい、下らぬ戯言を。少ししごいてやるから剣を取れ」


剣を取ったら滅多打ちにするつもりだろう。それには乗らない。

フェリス「いえ、今日は稽古のために来たわけではありませんから」

師範代「ふん、構わないからしごいてやる」


師範代は平気で剣を構えてこちらに向かう。丸腰のこちらを滅多打ちにして稽古中の事故ということにするつもりだろう。


回りには弟子が多数いる。これだけ弟子がいる中で嘘をついても全員威圧できると思っているようだ。だが師範代に恨みを持っている弟子も少なくない。本当にそうなるかはわからない。


少し緊迫した空気が流れ、知らぬ間にシンディが俺と師範代の間に入った。なんとも頼もしい。


アレックスの方はおろおろしているが、これは元からの気質の差なのか、それとも実力からくる問題なのか。それともシンディが俺に個人的に好意を寄せてくれているのか。



 こちらで言い争っていると、いや俺は言い争っているつもりはないのだが周りにはそうとしか聞こえないように思うところ、騒ぎを聞きつけてきたのか、一人の老人がやってくる。弟子に事情を聴いてから発言する。


老人「師範代、下がりなさい。フェリス君だったか、君の言うことはわからないではないが、いまは彼の言うことがうちの道場の指導方針だ」

長身だが細身で神は白髪、胸当たりまでのやはり白いひげを蓄えてまるで仙人のような師範のマルテン・カルスだ。


老人は厳としてそういういい、シンディとアレックスはおろおろしている。師範代はとつぜん声をかけられて引き下がる。師範が来たのに気づいていなかったようだ。こいつ本当に実力があるのか?


ところでこの手の爺さんとは前世でも相対したことがある。必ずしも理屈が通じないようにも見えない。

フェリス「わかりました。それではうちではシンディに護衛の訓練が必要ですが、こちらでは私の満足する訓練はできないようです。どこかよそに頼みます」


そういうと、師範代の方はますます激高する。

師範代「他の道場に行くなど、貴様裏切り者だ! そこに直れ。成敗してやる」


さすがに師範が制する。ただ付け加えることは忘れない。

師範「静まれ! じゃが、別の道場に行くと言うのは少し穏当ではないな」

シンディ「そうよ。そんなの許されないわ」

アレックス「さすがに撤回しないと」


それはわからないでもない。師範が紹介してよそに出げいこに行くならともかく、かってに別の道場に入門すると言うのはこちらの世界では裏切り者扱いされても仕方ない。


だがいまは別に剣術指南についてよその道場に行くのではない。あくまで商会の仕事としての護衛の訓練だ。


フェリス「いえ別に剣術の稽古に文句を言っているわけではないのです。護衛の訓練としてはこちらの満足するものではないと言うだけでして。シンディの訓練の分はうちの商会からの依頼で、商会が費用を出します。あくまで商会としての判断です」

師範代「だまれ! 何だそのうちの商会って言うのは。小僧が何を言うか!」


彼は俺のことを小僧つまり商会の見習いだと思っているらしい。まあ確かに年齢からしたらそうだし、その年よりこどもに見えるからますますそうとしか思えないのだろう。だが俺は主人だ。


フェリス「いいえ、私は商会の主人です。商会の判断としてシンディの護衛の訓練は別の方に頼むつもりです」

師範代「なんだと? お前が商会の主人だあ? ままごとかなんかか?」

もうまともに話ができるレベルではなさそうだ。


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