(親方)散々な末路(中)
ワシはクルーズンで建築の親方をしている。ちょっと前までは仕事を多数受けていた。人もたくさん使っていた。
だがいつの間にかどうしようもなくなってきた。人はどんどん辞めていく。格安で仕事は取ったが下請けでやってきた頃よりよほど利益はあるのにどんどん苦しくなる。
アレックスたち勝手に辞めた元徒弟が訴えを起こしてきた。裁判所から手紙が来る。だが正直に言うとあまり難しい文面は得意ではないのだ。
配達人から中身をよく読んでおくようにと念を押される。仕方なく建築ギルドに行って中を見てもらう。するとこれは危ないと言われる。
絶対に行って主張しないと裁判に負けて全部取られるから、絶対に行けと念を押される。なんでそんなことになるんだ。ろくに仕事もしなかった連中が横柄な口をききやがって。
裁判所に言ってみると、アレックスたち元徒弟たちが並んでいる。文句の一つも言ってやろうかと思ったら、裁判所の係員に制止される。
代言人だとかいう身なりのいい男は、徒弟が誰がどれだけ働いて、どれだけのケガをして、どれだけワシが払うべきかを全員分とうとうとまくし立て、それで正しいかと聞いてきた。
それに対してワシの方はろくに働きもしなかったくせに金だけもらおうとはおこがましいとしかりつけてやったが、裁判官からはいまはそういうことを聞いているのではないと言われる。
横柄な要求をしてくる元徒弟と代言人が一方的な主張をしてくる中で、裁判官くらいは中立でいてくれると思っていたのに、裁判官まであいつらの味方だ。
あいつらがどれだけ働いてどれだけ未払いかと聞かれたが、そんなものは認められるはずもない。断固として認めないようにしていると裁判官は教え諭すように言ってきた。
この時間誰誰は職場にいましたか? まるでこども相手のような言い草だ。だがそんなことは覚えていない。はっきり覚えていないと言う。
すると記録は取ってないのかと聞かれる。そんなもの取るはずもねえ。だいたいあんな書付、少しするとどっかに紛れちまう。それならその日払いにした方が楽と言うものだ。
ところが徒弟の代言人の方は日記だとか証言だとかを持ち出して、いたはずだと主張してくる。いようがいまいが仕事になってなければいないのと同じではないか。
こちらは相手の言を遮ってそう言うが、裁判官は不規則な発言は辞めろとしか言わない。仕方なくこちらの番のときにそう主張するが、いま聞いているのはそんなことではないと言う。こちらの言いたいことは何も言えず、どこで何を言えばいいと言うのだ。
一方的にまくしたてられてその日の裁判は終わる。少し文句を言ってやろうと裁判官のところに向かうが、また係員から止められる。なんで話もできないんだ。
仕方なく徒弟連中のところに向かう。それも止められる。見覚えのないガキもいる。生っちょろくてありゃとても現場仕事なんかできそうにない。なんであんなのがいるんだ。
ともかくこちらが大きい声で呼びつけているとさっきの代言人がやってきて、話をするから静かにしろと言う。直接話せばいいものをなんでこんなのが中に入るんだ。
ともかく連中は仕事はしていないとこちらは当然のことを言うが、代言人は現場に呼び出したかどうか聞いている。それは呼び出したさ。そうでなけりゃ仕事も覚えないだろ。
そう答えると、代言人は呼び出して拘束したなら当然給料は払わないといけないと言う。おかしな話だ。なんでろくに仕事もしていないやつが給料をもらうんだ。
そう言ってもとにかく法はそういう立て付けになっていると言う。そんなもの法がおかしいのだ。そう言ってやるが、そうではないし、そう思うなら議員にでも何でも運動しなさいとだけ言われる。まるでこども相手に諭すような口ぶりだ。まったく腹が立つ。
無駄骨を折って裁判所から帰る。明日からどう仕事を回せばいいのか。そのうち役所が検査に入ると言ってくる。
裁判所からの呼び出しも再びやってくる。そんな物行っていられるかと啖呵を切ったが、行かないと負けだなどとギルドからは言われる。
何でそんなことになるんだ。仕方なく町内会長に相談する。すると代議員に相談すれば何とかなるという。それはいい。そう言えばあの代言人も議員に運動しろと言っていた。
そこでそうしてくれというと、それなりの金が必要だそうだ。背に腹は代えられない。役所の検査と裁判がなくなるならと、町内会長に言われた金を用意した。
これで一安心と思ったが、なしのつぶてだ。どうなったかくらいは言ってくれもよさそうなものだ。結局何も動かないまま、裁判の期日が近づく。
町内会長に聞いてものらりくらりと避けるばかりだ。二回目の裁判はうんざりしてすっぽかすことにする。俺が行かなきゃ裁判なんか進まんだろう。
へん、ざまあミロ。あの取り澄ました、裁判官も代言人も徒弟の連中も集まって無駄骨と分かっていい気味だ。
裁判をさぼったからと言って仕事に行くわけでもない。そんな気も起きない。まったく余計なことをしてくれたものだ。
意外に長くなってしまいました。もう一回あります。




