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親方相手の結末

 旧知のアレックスがブラック労働に巻き込まれてそれを辞めさせ、彼の元同僚とともに親方を訴えて勝訴を勝ち取った。


こういうものは勝訴しても実際に取り立てないと何も実益はないのだが、その点はさすがに頼んだ代言人のカルター氏は抜かりがなく、しっかりと取り立ててくれた。やはり実務を知っている人は強い。



 親方はあちこちにかみついたらしい。カルター氏の事務所にも押し掛けて来たそうだし、うちの社屋にも押し掛けてきた。


カルター氏の方は手慣れていて、ほとんど相手をせずにすぐに護衛が追い払ったそうだ。うちの方ももちろん護衛が対応して摘まみだした。次に来たら自警団に突き出すとの警告付きだ。


「覚えていろ」とよくある三下の捨て台詞を言って帰って行った。



 それでますます護衛の必要性を感じる。シンディと二人で台車引いていたときには、恐喝するような輩はいたが、こんな変な難癖をつけてくる者はいなかった。シンディには護衛を早く組織してほしいと伝える。


フェリス「あのさ、今回の件でもそうだけど護衛がちゃんと回るようにしてね」

シンディ「わかったわ。ちゃんと選んでおくから」


何となくあまり期待できない。だいたいこういう組織的なことは彼女はあまり得意でない。今回のごたごただってアレックスを引き入れようとしておかしなかかわりができた。


そのアレックスだってそれなりに剣術はできるが、年齢からいったら護衛などさせられない。ちょっと誰かサポートを付けた方がよさそうだ。



 それはともかくアレックスの騒動はまだ終わりでなかった。一緒に親方を訴えようとなったときに脱落した人たちがいる。彼らがおかしなことをしだしたのだ。



 1人は聞いてみると、どうせ取れないだろうと諦めていたのと、なんとなく親方に申し訳ないと思っていたらしい。ところがアレックスたちが満額ではないが勝ち取ったのでなんとなく惜しくなったそうだ。

それなら初めから加わればいいのにと思う。もし取れずに代言人の費用の方が多かったらこちらで赤字分は持つと言っていたのだから、証言の手間以外に損はなかったのだ。


親方に申し訳ないと言うのも、タダ働きさせられてあまちゃんもいいところだ。それで俺たちが親方から取れたなら、一部でいいからくれないかと言ってきた。


さすがにそれは追い返す。それは面倒や苦労を共にした仲間たちだけがもらえばいいものだ。なんで何もしないものがもらえるのか。どうしても取りたければ自分で訴えるなりすればいい。



 もう1人のことは単に聞いた話だが、代言人の費用が惜しくなって自分で親方に請求に行ったそうだ。それはそれで構わない。ただもちろん鼻であしらわれて帰ってくる。


それならこちらに頼めばいいのに、こともあろうにヤクザ者に頼んだそうだ。ただ親方の方も別のヤクザ者と付き合いがあったらしい。


それはそんな気がする。だいたい前世でもろくでもない働かせ方をしていると、労働者たちはとうぜん徒党を組んでさぼったりするようになる。それに対して労働組合の枠組みで法にのっとって処理すればいいのだが、そんなことはせずにヤクザ者に頼んで潰させるようなのは何十年か前にはずいぶんあったようだ。それと同じことだ。


親方の頼むヤクザと徒弟の頼むヤクザが手打ちして、働いた分にとうてい見合わない額が渡されたそうだ。さらに予想されたことだがそこから大半を手数料と称してヤクザ者が抜く。


けっきょく働いた分には到底それに見合わない小遣い程度の金しか渡らなかったと言う。それで済めばいいがさらにはその後もヤクザ者に付きまとわれるようになったそうだ。


だから関わってはいけないと言ったのだ。ただそっちはこちらには何も言ってこなかったので、別にこちらから関わることもないと思っていたが、ちょっと気になったので官憲には通報しておいた。



 それから親方のもとから徒弟がいなくなって、財産も取り上げられて、工事は全く進まなくなった。発注者たちは大騒ぎだ。


発注者の中には前払いだと安くすると言われて全額払ってしまった者もいるらしい。もちろん建物は完成するはずもなく、払った金を取り返そうとしても親方はもう素寒貧だ。


だいたいもともと安いのにさらに安くすると言われて疑わない方がおかしい。採算が取れるかどうかも怪しい金額だ。金のない者が自転車操業で回しているに決まっている。


要するに親方は目先の金欲しさに、将来赤字がわかっている仕事でも引き受けてしまっていたのだ。



 もう少し目端のきく発注者は段階ごとに支払いをしていたそうだ。だから施工した分しか払っていないから大丈夫だと高をくくっていたらそうでもなかったようだ。


未完成なので他の組に引き継ぐことになる。ところが引き継いだ組でさんざん言われる。


発注者「というわけ何で、悪いが未完成のものを引き継いで完成させてくれ」

そう言われて引き継いだ業者が物件を見る。

別業者「これは……、設計図もないし、いろいろと施工に不備があるし、ちょっと……」

発注者「途中までできているし安くなるだろ?」

別業者「いやー、これややこしくてよけい手間かかる上に、まともにできていないから将来ここから壊れてきますよ」

発注者「じゃあどうしたらいいんだ?」

別業者「全部壊してはじめから作り直すことをお勧めしますね」

発注者「何とかならないのか?」

別業者「いやー、なんとも。よそに聞いても同じこと言われると思いますよ」

そういうわけでいい加減なものを作られてさらに壊す手間がかかるだけ、未着工よりもっとひどいことになったらしい。


少しばかり知恵が回っても初めの方針がろくでもないとけっきょくうまくいかないようになっているらしい。



 万事そんな調子で親方の方はもう日の目を見そうにない。




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