30. カルター代言人と説明会を開く
旧知のアレックスがブラック労働していたので、それから抜け出させた。役所には手入れしてもらうことになっている。
その前にアレックスの未払い分の給与や傷病分の補償を取り返すことになった。代言人にも相談してアレックスにも納得させた。
ついでにアレックスと一緒に働いていた同僚たちにも誘うことにした。訴訟はまとめた方が1人当たりは安く済むし、あの親方は潰してしまった方がいい。そこでアレックスが元同僚たちに声をかけるのを待つ。
何人かに声をかけたと言うので、日を決めて保護者とともにうちの会議室に集まってもらいカルター代言人と話してもらうことになった。けっこうな数になる。俺とカルター氏が概要を話す。
カルター「……というわけですので、皆さんは親方に未払いの給与とケガの補償を請求することができます。そこで共同で請求をしないかとのご提案です。もちろん依頼料は申し受けます」
その辺でがやがやとしだす。そして質問が出始める。
元徒弟「どれくらいとれるんですか?」
カルター「それはどれくらい未払いか、どれくらいのケガをしたかで人それぞれですが、法律と裁判例に基づきます」
保護者「先生に頼むとずいぶんお金がかかりませんか?」
カルター「先ほども言いましたが依頼料は申し受けます。これは代言人の組合で標準として定められている金額より今回は低いものです。またもし取れる金額が少なく赤字になれば支払いはいりません」
これでかなりいい条件で大半は納得しているのだが、一部に文句を言う者がいる。
別に全員団結する必要もなく、カルター氏に頼みたい者だけ頼めばいいのだが、文句を言う者が他を巻き込んで人が減りすぎるとあまりうまくない。
癖のありそうな親「俺らは親方に請求できるわけだ。というとことは俺らが交渉してもいいわけだな」
それができれば苦労はないと思うが、脅されるか丸め込まれるか逃げられるだけだろう。カルター氏の返事を待つ。
カルター「はい、それはそうです。ただ正直申し上げると皆さんが交渉して上手くいくとは思えません。別の代言人の方に頼むのは構いません。ただ通常はさっき申し上げたよりはおそらく高くなります。街中でちょっと相談ごとに乗ってくれる怖いお兄さんに頼むのは絶対にお勧めしません」
癖あり「相談ごとに乗ってくれるって言うのはどんなのだ?」
カルター「はい。つまりヤクザ者やその周辺の者です。基本的に反社会的な人たちです。関わり始めると相手はこちらの弱点を見つけて骨の髄までしゃぶってきます。関わらないのが最良です」
その辺でまたがやがやし始める。
癖あり「つまりあんたが言うにはあんたに頼むしかないってことか」
カルター「それがいちばんいい可能性は高いですが、絶対にそうしないといけないわけではありません。ただ先ほども言いましたが自分で交渉とヤクザ者に頼むのはお勧めしません」
どうしても仕方ないのだが、ある種の職業に就く人の言い回しはトラブルをあらかじめ回避するところがある。それが合わない人たちもいる。案の定、すぐに文句が出る。
癖あり「いいよな、あんたみたいのはおきれいな仕事して金稼げて。俺らは身を粉にして働いても、働いた分のけっこうな額を取られちまうんだな」
不満はわからないではないが、難癖に近い。カルターさんからは言いにくそうにしているので、俺から言うことにする。
フェリス「今回こんなことのなってしまっているのは元徒弟の皆さんが下手を打ったからです。働いてはいけない人のところで働いた結果です。それで専門家を入れないと取り返せなくなってしまったわけです。満額もらえないのも仕方ないこととしか言えません」
そう言われてちょっと彼らはむっとしている。保護者から見ると子どもにしか見えない俺が言うのは腹立たしいのかもしれない。
癖あり「しかし訴訟って言うのはずいぶん高いんだな」
カルター「できる限り低廉にしたいとは思っていますが、なかなか難しいところです」
それは仕方がない。カルター氏は代言人になるために学校に行って何年も勉強している。授業料もかかるし、その間に働いていれば何百万も稼げたはずだ。それで高度な技術を得たのだから、その分は仕事ができるようになったら取り返さないといけない。
さらにその分ちょうどよく取り返せばいいかと言えば、それでは投資として成り立たない。学校に行って勉強したからと言って失敗もありうるからだ。やはりちょうどいいより高めにせざるを得ない。さもないとそのような高度な仕事に就く人はいなくなってしまう。
もう一つ、知的な仕事は一度身に着けてしまえば、後はまったくの苦労なく楽に処理できると勘違いされている節がある。実際はずっと勉強しなくてはならなかったり、日々の業務をするにも結構なストレスがかかるので、そんなに安くはできないはずだ。
フェリス「専門家になるまでにずいぶん勉強もしていますし、専門家になってからも実は結構苦労の多い仕事ですよ」
それで何となく納得してくれてくれたのか、けっきょく大半はこちらと一緒に親方に請求することになった。
3人くらいは加わらないそうだ。諦めるのかもしれないし、あるいは独自で交渉するのかもしれない。




