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ブラック親方騒動の顛末

 アレックスをブラックで働かせていた組について、代議員が役所に陳情に来たとアンドレアン商務部長から聞かされた。


その後に役所の検査も入るはずと聞いたが、少し時間がかかるそうだ。そうしているうちにさらにアンドレアン氏は妙なことを言う。


なんでも市議会のある有力派閥のボスの秘書がその件について嗅ぎまわっていると言うのだ。陣笠程度ならどうということもないが、派閥ボスとなると少し気になる。


フェリス「派閥ボスなど出て来て、大丈夫でしょうか?」

アンドレアン「まあ今回は秘書ですからね。御大が出てきたらちょっと面倒ですが、秘書程度ならどうということもありませんよ」


フェリス「はあ、ただ秘書が調べていると言うのはそのボスが出てくる下準備ではないのですか」

アンドレアン「ええ、そうかもしれません。ただ秘書は秘書で独自に頼まれて動くこともあります。今回のことはボスが出てくるまでもない話ではないかと考えてます」

アンドレアン氏は確信したように言う。


フェリス「そ、それはなぜでしょうか?」

アンドレアン「なに、簡単なことです。ボスが動くほどの理由がありません。大きなお金や利権も関係していませんし、支持者がどうしても譲れないような価値観に絡む問題でもありません」


フェリス「なるほど、では秘書が勝手に動いていると?」

アンドレアン「ええ、たぶん」


フェリス「どうしてそんなことを?」

アンドレアン「まあ誰かに頼まれたのでしょう。そういう小遣い稼ぎをする者はいます。役所などでも大物議員の秘書となると持ち上げる者もいます。それでいい気になるのでしょう。あとは虎の威を借るなんとやらで、ミニボスのようなことをし始めるのです」


フェリス「なるほど……、ですが万一ということはありませんか? つまりそのボスが出てくると言うことが」

アンドレアン「ええ、もちろんそれは考えておくべきです。それならそれで正面から戦うのみです。もちろんその時はご領主様にも加勢していただきます」


なんとも頼もしい。別にアンドレアン氏の利権になるわけでもないのに、未成年者が不当に扱われていることに対して正面から問題に取り組んでくれる。


しかも領主についても正しい方針なら後押ししてくれると確信しているのだ。これがかつていた子爵領であれば、領主は薄汚い利権で物事を決めていたに違いない。こういうところが発展する領邦と衰退する領邦の違いなのだろう。




 その後は無事に例のブラックの組の方には手入れが入り、いろいろ出るわ出るわだった。未成年を保護者への断りなしに働かせていた上に、他の組ではさせないような危険な仕事をさせていた。


大した研修もなく高所作業や刃物や重いものを扱わせて当然ケガとなる。そうなると無能だとか役立たずだとか非難して辞めさせ、ケガした者には泣き寝入りさせていたのだ。前世でも、児童労働ではなくまた精神的な病気だが似たような話はあった。ろくでなしのすることは似たり寄ったりなのだろうか。


そんなことがあり、親方はもちろん収監された。今後は裁判となり、おそらくは刑事で実刑判決を受けるだろうし、民事の方でも多額の賠償となるだろうという。



 なお安く工事を請け負っていたが、あちこち手抜きだらけで先行きが不安視されている建物も少なくないと言う。その組に頼んでいた建築主の方は中途で放置された状態で完成などもう見込めないそうだ。


ふつうはこちらの国の基準だと全額の前払いはせず、出来上がりにしたがって少しずつ払う。そして最終の支払いは完工後となる。ところがそちらの組は安いことを前面に出して前払いさせていたという。よそより安いとはいえ、けっこうな額を払って何も完成しなかった。



 建築主の中には中途で放置された工事現場を引き継いでくれる組を探した者もいる。ところがそこで言われたことは手抜き工事や怪しい材料があるので引き継げないと言うことだった。


クルーズンの街中でそれなりに地価も高いので放置もできず、金をかけていまある作りかけのものを片付けなければならなくなってしまったのだった。見事踏んだり蹴ったりだ。


もうとっくに完成しているはずだったのに、金を払ってゴミが残っただけの結果になってしまった。



 完成が遅れれば遅れるほど、別の場所に住んだり営業したりするための家賃が必要になる。もし持ち家だったとしてもそれを売るなり貸すなりして金が手に入ったのだ。少しくらいの金をケチった結果大損してしまった。


ただ思うのだがごく安いものを買うだけならともかく、ある程度以上値を張るものを買うなら、相手を見極めるのは当然すべきことだ。きちんと見極めていれば、未成年を不当に使っているなど、怪しげな実態が見えたはずだ。それでも安けりゃいいと頼む人間はいるのだけれど。


世の中で自分だけ得ができるなんてことはめったにあり得ない。それが可能だと言ってくる者がいたら、十中八九だましているだけなのだ。


すでに出来上がった建物の建築主だってさほど得はしていない。手抜き工事だってあるし、評判は悪くなるし心理的瑕疵だってある。


建築主たちは親方を訴えるかもしれないが、まあ返ってくる見込みはないだろう。それに怪我をさせられた徒弟たちへの補償の方が優先になる。それでもどうしても納得がいかなくて訴える者も出てくるだろうが、回収はおぼつきそうにない。勝手にすればいいと思う。


まああんな組に頼む方が悪いのだが、ちょっとこちらにまずいことも起きてきた。親方は捕らえられたのだが、その前に俺が徒弟たちを炊きつけたから工事が進まなくなったなどと建築主に説明していたらしい。


実際に建築主の1人から文句を言われたことがある。さすがにこちらも反論したが向こうはあまり納得していない。悪いことをしたつもりはないが、ますます護衛が必要になってきた。




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