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(陣笠議員)派閥ボスの秘書に頼み込んで少し驚きの結果

 私はクルーズン市の代議員だ。選挙区の町内会長から大工の組の親方を紹介され、彼の組が徒弟に無理をさせたとかで近く役所の手入れが入るので口利きするように頼まれた。


町内会長には票の取りまとめを頼んでいるし、親方からはいくらかの献金がある。簡単な事案かと思い役所にねじ込むが案外うまく事が進まない。


そこでうちの派閥のボスなら何とかなるのだろうが、大した献金があるわけでもないのにこんな小さな案件を頼むわけにはいかない。そこでボスの秘書に頼むことにする。彼も役所には顔が聞くし、少額で頼みもしやすい。


親方からは前回の分と合わせて20万ほど献金を受けている。ボスの秘書には5万ほど包んで会いに行く。


議員「日頃はお世話になっております」

秘書「ああ、うちの先生がお世話になっております。本日はどんなご用件で?」

議員「はい、まずはこちらをごあいさつ代わりに。それでですね、実は……」

親方のことや役所の対応などをこまごまと話す。


秘書「ふむ、役所が迅速に動かないということですか」

議員「はい、まったく社会経済は急速に動いていると言うのに役所はのんきなものです」

秘書「わかりました。若者一人のわがままで工事が止まっても困りますからな。私ができる限り調べてまいります」

議員「どうかよろしくお願いします」


 これで一安心だ。それですぐに連絡が来るものかと思っていたが、なかなか連絡が来ない。その間に親方の方からはどうなっているのかと問い合わせが来る。


それにはすぐに答えは出ないと返すほかない。親方の方はうるさいがさすがにこちらも気になってくる。


秘書はボスの手下なのであまりせっつくのは難しいが、それでも問い合わせせざるを得ない。しかしいつもまだ調べている最中だと言って、本当に動いているのかと思う。



 3週間あまり待たされてようやく秘書の方から話があった。親方の方はもう大損害のようだが、こちらの知ったことではない。


秘書「先日の件ですが、少し大事のようでした」

なんで徒弟が1人逃げたくらいで大事になるのだろうか。こちらをありがたがらせたいのか、それとも時間がかかったので言い訳にしたいのか。とにかく聞いてみる。


議員「そんなに大変なお話なのでしょうか?」

秘書「あちこち役所や議員の先生に聞いた話です。いや大変でしたよ」

早く内容を言えと思う。こちらは議員だ。とは言え、目の前の秘書はボスを左右できるので、そんなことはおくびにも出せない。


議員「そんなに大事なんでしょうか」

秘書「大事も大事、そもそもこれは部長会議で話が出たそうなんです」

部長会議? 部長会議と言えば伯爵領府の各部門のトップの会議だ。王府でいえば閣僚会議にも相当する。そんな上の方での話だあ? にわかに信じられない。


議員「え? そんなことがあるのですか?」

秘書「ええ、私も信じられませんでしたよ。なんでも部長会議でアンドレアン商務部長が発言したそうです。

徒弟の労働について違法があり、見過ごすことはできないものも見受けられると注意喚起をし、口利きなどあっても現場で判断しないようにと申し合わせたそうです」


議員「それは確かなことなんですか?」

秘書「おや、お疑いですか?」

議員「いえ、ちょっと予想外だったので」

こちらは議員で向こうは秘書とは言え、ボスの直下で実力は侮りがたい。


秘書「ええ、私も驚きましたよ。かなり上の方まで話を聞いてようやくわかったのです。今回はまったくのくたびれもうけでしたよ」

秘書は恩着せがましく言う。確かに5万では1人に話しして情報を得るくらいでちょうどいいと思っているのだろう。まあこちらも抜いているし、仕方ないのだが。


議員「そうすると今後の運動の方はどうしたらよいでしょうか」

秘書「うーん、うちの先生なら何とかしてくれるかもしれませんが、そこまでする事案ですかね?」

確かにその通りだ。親方が何百万か何千万出すならともかく、金もなしにこちらが動く義理もない。とりあえず秘書には礼を言う。


議員「このたびはわざわざありがとうございました」

秘書「これはご忠告ですが、付き合う相手は少し選んだ方がいいですよ」

よけいなことは言うなと思う。あの親方がろくでもないのはわかっている。だが票だって金だって必要なのだ。まったく簡単に当選できる議員は気楽でいい。



 結果が出て親方には伝えなくてはならない。 ただ少し面倒だ。親方から20万せしめたときに、これはあくまで政治献金であって口利き料ではないと言ってはある。


とはいえ、これで安心しろに近いことを言ってしまった。それが失敗となると親方の方は何を言ってくるのかわからない。


とりあえずは町内会長と話す。徒弟の労働について何か問題があって部長会議にまで出て役所全体で注意していると話すと向こうも驚いていた。


こうなるとどうにもできないことも話す。町内会長とも話してしばらくは結果が出ないことにしておくことになった。町内会長も親方から何か付け届けをもらっているらしい。


いずれ役所の件はどっちかに転ぶだろう。うまく役所の手入れがなしになれば、運動の成果だと言えばいいし、手入れがあって親方が挙げられたらそのまますっとぼけてしまえばいい。


まったく面倒な話をもってきおってからにと思う。





陣笠議員が長くなりましたが、とりあえずここで終わりでまたフェリス視点に戻ります。


なおアンドレアン氏の役職の商務部長は大臣なみです。伯爵府に大臣がいると言うのも変な話なので部長にしていますが、長官くらいの方がよかったかも。なお中国や台湾では閣僚級が部長となります。


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