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25. (陣笠議員)陳情の結果は思わしくなく

 私はクルーズン市の代議員だ。染料として下々を導かなくてはならない。


 最近選挙区の町内会長から口利きを頼まれた。なんでも建築工事の組の親方が徒弟に逃げられたと言うのだ。そして働かせ方がひどいと言うので、役所が検査に入ると言う。それを止めろとのことだ。


なんだかろくでもないことをしていそうな気もする。だが献金もあるし、票につながることであればいうことを聞くべきだろう。


だいたい最近の若い者は根性がない。親方から言われれば「はいそうですか」と何事も聞くべきだ。勝手に辞めるなど、まして役所に垂れ込むなどあってはならない。




 そこで役所に向かう。役所の方では下役の役人と課長補佐なる者が対応した。応接室に通される。あいさつもそこそこにこちらの主張を話す。


議員「そういうわけで、何か質の悪い若い者がかってに仕事を辞めて迷惑していると言うのだ。手入れなど無用だからな」

課長補佐「はあ、確かに承りました」

議員「では手入れはしないのだな」

課長補佐「それはまた検討いたしまして」

議員「いま承りましたと言ったではないか」

課長補佐「それは代議員様のお話をこちらで受け取ったと言うことでして」


なんか反応が変だ。ふだんなら役所は重大な問題でない限り、平伏してすぐにこちらの言うことを聞いてくる。若者が職場が気に食わないくらいで逆らうことはあり得ない。


議員「なんですぐに動かないんだ。若者が職場が気に食わないなどありふれたことではないか」

課長補佐「はあ、よくよく検討しませんと」

議員「工事が滞っているんだ。お前責任が取れるのか?」

課長補佐「そうはおっしゃいますが、制度上は全く問題がありません」

議員「わかっているのか? 私が議会で問題にしたら、お前の出世の見込みなどなくなるんだぞ」


そういうと目の前の役人は少し感情を表したようだが、すぐに平静になる。そして口を開く。少し声が震えているようだ。隣のヒラの役人は目を剥いている。少ししつけが足りないようだ。


課長補佐「こちらの件は上で判断するとの指示を受けております。私自身の地位についてはご心配には及びません」


何か変だ。この程度の案件を上で扱う? よくわからん。ともかく、私は処分する権限もない者と話していたということか。なんという無駄な時間を使ってしまったのだろう。

議員「なんだと、あんたら処分する権限もないのか。私は忙しいと言うのに」


課長補佐「伺った件につきましては、確かに上に上げておきます」

あくまで通り一遍のことを言うように返してくる。


議員「処分権限のある者を出せ」

課長補佐「いえ、私どもが伺い、上に上げるよう指示が出ております。必ずお伝えして結果もご報告いたしますので、ご理解ください」

議員「そんな悠長なことをしていられるか、現に被害が出ているのだぞ、責任取れるのか」

課長補佐「責任は政庁として取ります」


その後も押してみるが、まったくの暖簾に腕押しでどうにもならない。仕方なく帰ることにした。

議員「では報告を待つからな」

課長補佐「はい、本日はお疲れさまでした」


まったく骨折り損のくたびれ儲けだ。ただ役人ごときにあしらわれて、どうにもならなかったというのは悔しい。町内会長にもどう言い訳したものかと思う。


町内会長とはときどき会うので、気にして聞いてくる。親方の方が切羽詰まっているのかもしれない。


あまりにもしつこく、こちらとしてもへそを曲げられても将来困るので、役所であったことを正直に話す。


議員「この前の件だがな、何でも役所では上で判断するとのことだ」

町内会長「あの程度のこと、なんでそのようなことに」

議員「わからん。何かほかの事案で重大なものがあるのかもしれない。まったく面倒なことだ。役所は報告すると言って来ている」

町内会長「何かもっと他に方法がないものでしょうか?」


なんとも食い下がってくる。だがこいつの担当する町内会は住民が少なくない。選挙のときに協力しなくなると困る。それに手がないなどと言うのも面白くない。ちょっと面倒だが、それだけに恩を着せるには悪くない方法がある。


議員「うむ。上で判断とのことだからな。うちの派閥のボスに頼めばどういうことか聞けるかもしれない」

町内会長「本当ですか? それはありがたい。さすが先生は頼もしい」

議員「ふだんいろいろと協力してくれるからな。今回は特別だ」

町内会長「はい、先生にはどこまでもついて行きます」


うむ。これでいい。だが派閥ボスに頼むのは面倒だ。金でも渡せばいうことを聞くが、そうでないと会うことも楽ではない。


だいたいこんなつまらぬ案件で会ってくれるはずもない。だが何事にも裏道はあるのだ。ボスの秘書なら割と気軽に会うことができる。


そして秘書も役所の上の方とはつながっているのだ。何か情報を聞き出したり、簡単な口利きならしてもらえる。


とは言え、会うには多少の付け届けもしなくてはならない。その分は親方から受け取ってある。そういうわけで派閥ボスの秘書に会いに行く。



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