陣笠議員の口利きがあった
ブラック親方が議員経由で役所に圧力をかけかねないと、役所の上層のアンドレアン商務部長に伝えておいた。それからしばらくして実際に口利きがあったらしい。
商務部長は事前に、議員の口利きがあったときは現場で判断せずにすべて上に上げるように文書で通知しておいてくれたそうだ。それはありがたい。
だいたい役人にとって議員は怖いから、すぐにそれが正しいかどうか明らかなもの以外は上が判断した方がいい。
前世でつくづく思ったが、上で判断すべきことは上で、下で判断すべきことは下でしないといけない。
上が判断しないといけないことをせずに、下に丸投げすると、下は現場レベルにいるために一見妥当な判断をする。だが実は広い立場から見ると妥当でないことも多い。妥当なことを行う権限がないこともある。
それでも上の立場の人間の中には、判断しなくてよかったり、内心の負担が減ることを喜んで、勝手にやってくれる下の人間を珍重する者も少なくない。
彼らは必ずしも責任逃れしたいわけでもなさそうだが、もし何か問題が起こればなあなあで済ませる。
下の方は実は越権沙汰で後々行き詰まることをしているのだが、目先だけは妥当であることも多いし、多くの権限をふるえて喜ぶ者もいたりする。
だが組織にはおおよそ判断が妥当な場所というのはある。ルールを捻じ曲げて脱法まがいのことをしているときはだいたいおかしなところで判断している。そして後々つじつまが合わなくなって困ることになる。
ともかく今回は、口利きのような面倒なことは上が引き受けてくれて、現場レベルは安心して仕事ができることになった。断れと指示されたとしても脅されたりしたら現場はやりにくい。上が引き取ってくれるなら、それに越したことはない。
そして実際に陳情が来たそうだ。つまりあのブラック親方のバックにいる町内会長が、地元の陣笠議員つまり下っ端の議員にどうにかしてくれと泣きついたらしい。
陣笠の方は票の取りまとめをしてくれる町内会長の言うこととなれば、自分やボスの損にならない限り、平気で引き受ける。
それがブラック労働で、未成年者を傷つけるようなことであってもだ。
陣笠議員の陳情によると、例の親方は注文が多くあって経済活動として重要だし、あれがなければ困る商会も多いし、徒弟たちが育っていく重要な職場だなどといい、余計な検査はやめろとのことだったそうだ。
確かにあの親方に仕事を頼む者は少なくないが、それは単に安いからだ。安い理由はブラック労働のためだ。そこで親方が仕事を取った結果、まともなに建築をしている組は仕事にありつけない。重要の経済活動が聞いてあきれる。
親方が仕事ができなくなって困る商会が多いことについてもしょせん相場より安いものに飛びついた人間は危険を覚悟すべきなのだ。そもそもブラックで徒弟たちが泣き寝入りしてその安さが成り立っている。
それを知らなかったのかもしれないが、金を出して人を動かせるような権限のある者が知らないのはある意味では罪だ。罰を受けた方がいい。
徒弟たちが育って行くなどと言うのはあまりにおかしな話だ。ブラックで人が辞めていくし、ケガも他よりはるかに多い。建設業からのドロップアウトばかり作っている。
陣笠からの陳情はあったが、あらかじめ商務部長からの文書が回っていたので、ねじ込まれた担当者はその場では判断せず、預かりにしたとのことだった。
預かって上に上げて判断しますと言われたときの陣笠の反応はかなりおかしかったらしい。なぜその場で検査をやめる判断をしないのかと追及してきたそうだ。
そこで上に上げるとの指示が出ていることを説明したとのことだ。説明してもだいたいそういう要求をする人は思い込みで何度も聞いてきたらしいが、何度も説明して帰ってもらったそうだ。
さてそこで陣笠氏がどうするかということだが、諦めるか上にねじ込むしかない。諦めればいいのだが、それは町内会長から選挙の時を中心に便宜を図ってもらっているのでやりにくい。
すると上にねじ込むしか選択肢がないのだが、それもちょっとやりにくい。前世なら民主主義の建前があると、役人は高官であっても形の上では議員より格下になる。
実際のことろはそう単純でもなく、実際高官となれば陣笠議員のことなど歯牙にもかけない者もいるが、表面上は尊重する。
だがこちらの世界だと高官は領主の股肱ともいえるため、領主の大きな権限の前で議員がそこまで大きな顔もできない。それにやはり陣笠と高官では勝負にならない。
現場の役人相手なら実務や政策やことによっては人事まで左右できるため居丈高に出られても、高官ともなると陣笠ていどではそんなことは到底望めない。
そんなわけですごすご帰って行ったらしい。とはいえ、陣笠が議会の会派のトップつまり派閥ボスに頼み込む可能性は低くない。
ただ派閥ボスともなると圧力はかけてきてももっとスマートなやり口を取るそうだ。
さてさきほどの親方の件について上に話しが上がって再検討されたが、やはり例の親方については徹底的に調べるべきとの結論になったそうだ。妥当な判断でこちらとしても助かる。




