ブラック親方のクレーム
クラープ町の道場の息子のアレックスがクルーズンに移るときに道場主からよろしくと頼まれていた。彼がブラックバイトにはまっていたので、抜け出させた。
するとブラックバイトの親方がどこから聞きつけたのか俺の方に文句を言ってきた。
彼が言うにはアレックスがいなくなって工事が遅れて違約金を求められたから、抜け出すことを唆した俺に払えとのことだ。ブラックの連中の理屈というのはたいてい無茶苦茶だ。
フェリス「いろいろよくわからないのですが、私が何か関係するのでしょうか?」
親方「あ、お前が余計なことをしてあのガキが来なくなったんだろう」
フェリス「はあ、危険な仕事をしていた上に、あまり具合がよくなかったようですし、仕事に行くのを止めたことはありましたね」
実は体罰とか罰金とかろくでもないことが他にもわんさかあったが、それを言うとうるさそうだったのでやめておく。
親方「そうだ。それだけじゃない。お前、道場主にチクって辞めさせただろう」
チクったと言うが保護者なので通知するのはまったく妥当なことだ。それで辞めさせられるような職場なら、職場の方が悪いとしか言いようがない。
だいたい未成年は保護者の同意のもとでないと働けない。親方が同意を取っていないのが悪い。
フェリス「はあ、通知しましたし、今回の場合は庇護にあるアレックスが保護者の道場主の言うことを聞くのは当然かと思いますが」
別にいつも庇護者が保護者の言うことを聞くのが当然と言うわけでもない。世の中にはろくでもない保護者もいる。
子どもに万引させたり売春させたり過酷な労働に追い立てたりする者もいる。それが当然と言うことはないが、今回はまったくそうではない。
親方「だまれ! 偉そうな口を叩くな。あいつはこづかいがもらえて、うちは工事が回って、うまく行っていたんだ。それをお前が余計なことをするからおかしくなった」
こういうことは形式面と内容面とがある。形式面ではこちらは違法も不道徳もしていないし、保護者が止めたから行かなくなったで何の問題もない。
それで内容面に踏み込む必要はない。ただ内容面を検討してみても、アレックスは見るからにくたびれていた。
どうやら他にもケガをした者もいるとか、体罰で支配していたとか、ちっともうまくいっていない。彼の言うことは大間違いだ。
ところで形式面で片付く場合に内容のことまで言うのはあまりうまくないことが多い。相手がそれに基づいて主張してくることがありうるからだ。
何らかの意味で付き合っていくべき相手なら、それでも議論した方がいいが、そうでない相手ならそんな機会は与えない方がいい。
フェリス「はあ、こちらの対応には何ら問題はありません。保護者の了解の下で働くのはまったく妥当です」
親方「お前はもう少しましなことが言えないのか? こっちは真剣に話しているのに、通り一遍のことしか言わない」
真剣にと言うが彼の主張は身勝手な自分の都合だけだ。聞く価値もない。
道場主は内弟子が隠れてバイトするのは当たり前だと言っていた。た子どものバイトとして認められている程度ならいいということだろう。
危険を伴うようなしかも本業に差しさわりが出るような負担の大きいバイトなどしていいはずはない。
フェリス「そう言われましても、出るところに出ればあなたの言っていることは否定されるわけですし、これ以上お話しても仕方ないように思います」
親方「あーっ! お前には誠意というものがないのか?」
親方は叫び出す。とびかかりそうな勢いだ。やたらと言葉がきついのは余裕のなさの表れだろう。護衛がいなかったらたぶん暴行に及んでいた。
誠意というのも何かヤクザ者が使いそうな言葉だ。要するに公的には認められないものを、ゴネてふんだくろうとしているに過ぎない。
フェリス「これ以上問答していても仕方ないですし、受けて立ちますから裁判でも何でもしてください」
親方「裁判なんかやってられるか。お前はなんでももめ事を裁判に持ち込むのか?」
フェリス「もちろんいつももめ事が裁判になるわけではありませんが、裁判になったらどういう決着となるかを考えて行動するのは悪くないですし、落としどころもそれに近いものになるでしょう」
よほどの悪法なら従わないのも一つの見識だと思うが、そういうものは例外で、まともな趣旨の法なら従う方がいいし、出るところに出てつく決着とかけ離れたものを求めるのは間違いだ。
何でもかんでも杓子定規に法の通りというわけにもいかないだろうが、今回は彼はやり過ぎた。欲得が過ぎてとてもなあなあにできないところまで踏み込んでしまったのが悪い。
ところで彼がひどい目にあったのはバイトがいなくなったことと、官憲に手入れされたことと2つある。
実は官憲に通報したのも俺なのだが、そっちの方は言ってこない。俺が通報したとばれていないのだろう。バレるとまた絡まれて面倒だから何も言わない。
もうこれ以上相手をしていても仕方ないので立ち去る。俺に護衛がついているので相手は手出しはできない。それで済んだと思ったら数日してまた絡んできた。




