ブラック職場に行きたがるアレックスを諭す
シンディが俺の護衛にアレックスを登用しようとしたが、まだ子どもなのでやめさせることにした。
彼女はアレックスがブラックのバイトをしているので助けてやりたかったらしい。それでアレックスを呼び出してみると話がおかしい。
いましている仕事は遅れると罰金などろくでもない。しかも親にもいまの保護者のクルーズンの道場主にも話していないようなのだ。
アレックスが話を切り上げて出て行こうとしたのでシンディに止めさせる。ドタバタしていたが、シンディはわりと簡単にアレックスを止めてしまう。
シンディの方が1歳上で体も少し大きいし、剣術でははるかに勝っているので、勝敗は明らかだ。
アレックス「なにすんだよ」
フェリス「まあまあ、落ち着け」
落ち着けと言われても落ち着けないとは思う。それでもそう言うしかない。アレックスの方は逃げようとしているが、シンディに睨まれて動けない。
アレックス「なあ、遅れると親方にどやされて、罰金取られる上にきつい仕事に回されるんだよ」
フェリス「お前な。そんな仕事辞めろ」
アレックス「だって先輩が紹介してくれたんだから」
よくよく聞いてみると先輩から紹介された仕事だそうだ。児童相手に危険な仕事はさせるは、罰金は取るはで狂っている。
きつかったりけがをしたりで辞めている者も少なくないらしい。人が逃げ出す組織はどこか問題があるのだ。
だいたいブラックなんてものは社会の寄生虫だ。労働者がけがをしたり精神を病んだりすれば労働者本人とともに社会が負担することになる。
経営側はわずかなつまらない金を儲けられるが、社会全体としては大損だ。この手のわずかなつまらない儲けが大好きな人間は少なくない。もともと経営者になってはいけない人間があまりに多い。
先輩というのも洗脳されているのか親方とつるんで搾取しているのかわからないが、あまり上等な代物ではない。
何か先輩というのをずいぶん信奉している者は少なくない。もちろん立派とかそこまでいかなくてもまあまあの者もいるが、くだらない人間も少なくない。
人に影響なんか与えない方が世のため人のためというのも割といるのだ。もう少し突き放してみられないのかと思う。
フェリス「とにかく今日は行くな」
アレックス「首になったらどうするんだよ」
そこでシンディまで入ってきた。
シンディ「そうね。親方や先輩との関係もあるし、放してあげたら」
まったくしょうもない。もっとも2人は14歳か15歳だ。俺のように見てくれは15歳でも中身は中年か老年とは違う。目先の大人との関係しか考えられないのも仕方ない。
フェリス「とにかくそんな仕事はしない方がいい。というよりしてはいけない。そんな職場は存在してはいけないんだ」
俺がまくしたてるので、二人は少し驚いている。
アレックス「なんだよそれ」
フェリス「いいか子どもを危険にさらすような仕事はあってはいけないんだ。それに罰金もダメだ」
アレックス「俺が選んだんだからいいだろ」
選んだと言うが先輩をさしはさんでいるし巧妙に選ばされているだけだろう。
それにそんなひどい条件で働かせて安く仕上げる親方がいると、安くしてくれるからと人はそこに発注する。すると競争でよそも安く仕事をしなくてはならなくなる。
安く仕上げると言うが、けがや病気のツケを労働者や社会に押し付けているのだから、実はちっとも安くないのだ。ずるして詐欺まがいで他から盗み取っているに過ぎない。
フェリス「とにかくお前の仕事はこちらで何とかするから行くな」
アレックス「先輩のことだってあるし、罰金だってあるし、仕事途中で投げ出すのも嫌だし」
何かよくわからないのだが変にまじめなのだ。変というのは親や道場主にきちんといえばいいのに、それはせずに報いても仕方ない相手にまじめになる。
先輩だって悪人なのか無能なのかわからないが、いずれにしても人に影響など与えてはいけない人間だ。
フェリス「いいかその先輩は人に仕事なんか紹介していい人間じゃない。罰金はこちらで何とかする。それからそんな仕事をすると社会が悪くなる」
アレックス「だけど先輩のおかげで小遣いも稼げたし」
フェリス「あのな、金が必要ならお前の保護者の道場主に堂々と言え」
アレックスはそれには答えず、罰金の話をする。
アレックス「罰金はどうするんだよ。払ってくれるのか?」
フェリス「こっちで何とかするから」
もちろん払う気はない。ブラックなど儲けさせたら社会が悪くなる。法はどうなっているかわからないが、伯爵領府の官憲に頼めば潰せるだろう。
アレックス「それと社会が悪くなると言うのは何なんだ。ちゃんと俺は家を作っているぞ」
それについては長々と説明してやった。あまり納得していないようだが、ともかく引き留めには成功する。
ただこれ以上となると彼の保護者の道場主とも話さないといけない。アレックスは怒られるだろうが、まあそれは仕方ない。
それが終わったらうちで何か仕事をしてもらおう。




