アレックスの事情
俺の護衛係の件でいろいろもめている。シンディに任せていたら、未成年のアレックスを登用しようとした。
俺から止めるのも何かと思い、会議にかけたら案の定止められた。ただ親の同意がないという理由だ。
シンディが親に同意を求めそうな勢いだが、そうだとしても向こうから断られる気もする。ただ万一同意があると面倒だ。
そういうわけでマルコやアーデルベルトとも話し、シンディや場合によってはアレックスにも事情を聴いてみることになった。
こうなると初めから躊躇せずに俺が止めておけばよかったような気もしてきた。
フェリス「あのさ、シンディ。この前の会議の件は残念だったけど……」
シンディ「親の同意が必要なのよね。休みを取ってクラープ町に行くわ」
やっぱり同意を取ってきて押し通す気満々だ。
フェリス「ちょっとまずいかもしれないよ」
シンディ「え? なんで? 親の同意があればいいんでしょ」
フェリス「それがそうでもないかもしれないんだ」
シンディ「なんでなの? 徒弟の子だっているじゃない」
それはそうなのだが、徒弟の仕事はこちらの社会で10歳からで未成年の仕事としてふさわしいと考えられている。
だが護衛は違う。やはり危険な仕事だけあって、体格や体力もそうだが十分な判断力を備えた大人がすべきものだと考えられている。
この辺が法として文書化されているかどうかは知らないが、少なくとも運用上はそうなっている。
フェリス「護衛はやはり危険な仕事だからね。徒弟とは違うよ。大人になって自分で判断できるようになってからでないと困る」
シンディ「それはカスパーが判断するわ」
カスパーというのはアレックスの父親でクラープ町の道場主だ。俺もシンディも彼の道場に通っていた。
フェリス「いやそれはダメだ。世の中には子どもを食い物にしたり、そこまでいかなくても目先の利益で未来を潰すのが平気な親がいるよ。そうでなくても自分の子は優秀だとあまりに贔屓目に見過ぎて、実力を測れない親だっている」
シンディ「カスパーはそんなことないわ」
フェリス「うん、カスパーがそうだとは全く思わないけど、ルールにのっとって役員を説得するとなると、個人的に知っている情報を使うのはなしだよ」
シンディ「何かよくわからないわ。世の中にそんな悪い親いるのかしら?」
そう思うのはシンディがいい親に恵まれたからだ。だいたい世の中には100人に2~3人は悪いとか危険な人間がいる。
それは俺が前世で中年まで生きたからわかるのだと思う。これが100万人に2~3人だったら、そんなものを心配しても無駄だとは思う。
だが100人に2~3人だと、少ないように見えて仕事を続けているうちに必ず当たるのだ。いやハズレなのだけれど。世の中の人はそんなにたくさん続けないから、見えていないに過ぎない。
フェリス「それはいるよ。絶対にいる」
俺が断言するので、シンディの方は少しひるんだようだ。
シンディ「何か難しいわね。あたしこの仕事できるのかしら」
確かにあまりルールが明確でないと仕事がしにくいとは思う。ただ上の役職というのはそれほど明確でないところで判断する必要がある。
むしろ誰でもできるような判断だったら、そんなに高い役職につける必要はない。
何か話が息苦しくなってきたので、ちょっと方向を変えてみる。
フェリス「何でアレックスを採りたいの?」
シンディ「カスパーから頼まれたの、アレックスの面倒を見てやってくれって」
俺も雑談程度だが、クルーズンに移るときに面倒見てやってくれと言われた。とは言え、困ったときに話を聞くとかそのくらいかと思っていた。
フェリス「困ったときに話を聞くくらいじゃダメなの?」
シンディ「彼は道場の内弟子以外に外で力仕事しているんだけど、いつもクタクタなの」
前世でブラックがあったようにこちらの世界でもそこら中にブラックがある。それは未成年でも平気で使い倒せばいいと思っているのもいる。
アレックスは内弟子で道場の雑用をする代わりに衣食住はそれで済むはずだ。だがそれ以外に小遣いがいるのだろう。
カスパーはそれくらいは出せそうなものだが、それくらいは自分で稼げと言うことなのかもしれない。
それがいいことなのかどうかはわからない。それこそブラックにはまってしまえばしようもない。
前世で金のない家では学費を自分で稼げばいいと主張する者が多かったが、学業の失敗につながることが多いのはすでに知られている。少しくらいバイトしたっていいと思うが、程度問題だ。
フェリス「あのさ、護衛以外の仕事だったら、うちで採れるかもしれないよ」
シンディ「だけど彼は体使う仕事の方がいいって」
確かにアレックスも脳筋っぽいところがある。シンディよりはましな気もするけど。だけどうちだって力仕事はある。
フェリス「うちだって力仕事はあるよ」
シンディ「あっ、そうね」
フェリス「そっちを考えてみる?」
シンディ「そうね、その方がいいかも」
もう少し初めから護衛だけと決め打ちしないで、話してくれればこんなややこしくなかったと思う。




