護衛の件はとりあえず取り下げ
子爵に襲われ護衛が必要となり、組織的に護衛してもらことになった。
ところがシンディにその仕事を任せたところ、任にふさわしそうでないアレックスを登用しようとしている。
事前に留めようとしたが、けっきょく商会の会議で書類が出るときに言うことになった。それでシンディは悪戦苦闘しながら書類を作っている。
シンディが書類を作り上げて提出した。新規の案件だし、支出額が小さくもないので会議にかけられる。
もっと大きい商会なら下の部署での会議かもしれないが、うちあたりだとすぐに役員会となる。
こちらの世界にはまだコピー機がないので書類は回覧になる。何か魔法でできそうだが、たぶんそういう魔法を工夫しようと言う発想がないからできてないように思う。
その上に紙もそれほどは安くない。そうなるとコピーという発想にはならない。
発明というものが偶然でできることもたまにはあるが、大半の場合は目的に向かって集中的に努力し、いくつもの困難を試行錯誤で乗り越えて実現する。その目的自体があいまいなのだから、できるはずもない。
そういうわけだから前日に議題を持ってくるなんてことはなしだ。1週間前には議題がそろっていてそこから書類が作られてみんなで回覧する。
もちろん緊急で重要なことであれば口頭で会議に上げられたり、商店主が専決したりする。ただそんなものはめったにない。
前世よりずっと時間がゆるやかに流れている。
それはそうと、シンディの出した案件も会議に上ることになった。ところがやはり評判がよくない。
事前に書類を見たジラルドやアーデルベルトなど個人的に彼女に言った人もいたようだ。それは会議の席で潰すのもあまりうまいやり方ではない。
だがやはり内容面には介入されたくないとはねつけられたようだ。これなら初めから俺が言った方がよかった気もする。
ただ最終決定になってしまう者が言うと、決定以外でもそれに近いことになってしまうので、うまくないと思ったのだ。
会議に出て様々な案件が審議される。原案のあるものの多くは承認される。承認されずに修正されるものもある。
原案が複数選択になっている場合もあるし、あいまいになっている場合もあり、その時は会議の中で案が作られる。
そしていよいよシンディの提案だ。
シンディがざっと説明する。だがやはりみな渋い顔をしている。いきなり採決で否定するのもあまりうまくないが、みなあまり何か言いたくはないようだ。
ちょっと重苦しい雰囲気のあとにアーデルベルトが手をあげて発言する。
アーデルベルト「この候補者ですが、未成年ですね。親御さんの同意はあるのでしょうか?」
シンディ「え? それって必要なの?」
アーデルベルト「ええ、さすがに未成年では……」
シンディ「だって荷運びなんてやっている子はいるし、うちだって郵便の配達してもらっているじゃない」
アーデルベルト「荷運びくらいならさすがに不要ですが、うちの配達はちゃんと親御さんから書面で同意を取っています」
実は荷運びだって、基本的に親の知り合いの者の仕事しかしない、つまり親の黙諾は取っているわけだ。
今回の場合、アレックスの親はクラープ町にいて、まったく今回のことは知らない。これじゃダメだ。
少し気まずい空気が流れた後で、シンディが発言する。
シンディ「わかりました。取り下げます。改めて同意をもらってきます」
一応は今回はこれで済んだ。ただちょっといろいろまずいことがある。まずこんな簡単なことだったらはじめから指摘しておけばよかった。
会議の席で却下するより事前に整理しておいた方が皆のためにもシンディのためにもいい。十分にこのことを考えられていなかった。
それから彼女が親の同意を取ってきそうだ。アレックスの親のカスパーは認めない可能性は高いが、認めてしまうかもしれない。
そうなるとまた会議に上がってくる。別の理由で却下することはできるが、人を巻き込んでからまた却下するとさらにダメージは大きくなる。もう少し事前に含めて対策しておいた方がいい。
さいわいアレックスの親はクラープ町にいて連絡を取るのはやや面倒だ。うちの商品を運ぶついでに手紙を輸送しているのでそれに載せるのがいちばん簡単だ。
ただそれだと向こうの店にさらにカスパーに届けてもらうように指示して、さらにカスパーは何らかの手段で送り返さないといけない。
シンディの性格だと、直接行ってしまうこともありうる。ただどちらにしてもすぐにはできそうにない。
その間にアーデルベルトやマルコとも相談する。
フェリス「シンディの護衛の件だけど、やっぱりアレックスはまずいよね」
マルコ「うん、さすがにまだ早いと言うか」
アーデルベルト「ただシンディはまた上げてくるでしょうな」
フェリス「それでなんだけど、なんか落としどころないかな」
マルコ「さすがに護衛はさせちゃダメだよ」
アーデルベルト「ええ、店主の身も危険ですし、彼にとっても危険です」
フェリス「うん、そうだよな」
マルコ「シンディにどうして彼なのか聞いてみない?」
アーデルベルト「ええ、そうした方がいいでしょう。アレックス君本人にも聞いてみてもいいかもしれません」
そんなわけで本人たちに事情を聞いてみることになった。




