護衛にうまくない人選
子爵に襲われて以降、護衛が必要になった。いままではシンディが中心になって護衛し、いないときはその時間だけ別の人を頼んでいた。
それをもう少し組織的にすることになった。それをまとめるのをシンディにしてもらう。本人は躊躇していたが、何とか引き受けてくれた。
はじめは2~3人護衛をつけて、それから始めると言う。それもまあいいかと思う。
ところがいきなりまずいことをし始めた。その護衛の候補にアレックスを登用しようとしたのだ。
アレックスはクラープ町の道場の息子だ。シンディが道場に通っていて、実は俺も通っていたがかなりさぼっていたのだが、そこの道場主の息子だ。
道場主が世の中を見せたいと言うことで、俺たちがクルーズンに移るときに一緒についてきた。
フェリス「護衛のあてはある?」
シンディ「アレックスがね、けっこう腕を上げてきているの」
フェリス「えっ?」
ちょっとまずいなあ。何がまずいかと言えば、彼は俺たちより年下なのだ。体も大きくない。シンディは大人顔負けの剣術を使うが、それはあくまで例外だ。
アレックスはそれほど剣術は得意ではない。もちろん道場の子どもの中では圧倒的に強かったが、大人相手だとやはり負けることもある。
剣術がそれほどでもないので、得意の弓術に重きを置いているのだ。
俺が街中を歩くときは、ふつう護衛は1人しか付けない。さすがに王族でもなければ大貴族でもないのだ。大商会の主人というわけでもない。複数の護衛というのは考えにくい。
もちろん子爵に一度襲われて、まだ相手が捕まっていないと言う具体的な脅威があるから、複数付けることを考えてもいい。
だがそうなると経費も掛かるし、人のやりくりも面倒になる。それにシンディが小さく始めたいと言うのにも反している。
それでアレックス1人となるとやはり少し頼りない。暴漢が数人で襲ってきたとして相手できるかどうか不安だ。
別に1人で相手をすべて蹴散らかさなくてもいいが、人が来るまで時間稼ぎくらいはしてもらわないといけない。
それに彼が弓術が得意だが、街中には向かない。野山で複数の護衛をつけるなら、その中にいてもいいとは思うが、メインの1人にはならない。
そういうわけで人選がかなりうまくないのだが、どうしたものかと思う。難しい仕事を引き受けてもらっていきなり頭ごなしに注文を付けるのもうまくない。
本人がやる気をなくすのは目に見えている。人に仕事を任せた場合には、ある程度はうまくないことでも介入は避けた方がいい。
それにもう一つ介入したくない理由がある。護衛についてはむしろシンディの方が詳しく、俺の方は詳しくない。
護衛すべてにおいてそうだとは言わないが、やはり彼女の方が知識が豊富だ。意識の上でもそうだ。
そういう状態で俺が口を出すと、やはり彼女はいい気がしないだろうし、落ち込みそうな気もする。
かといって何も注文を付けないわけにもいかない。彼女だって統括の仕事は始めたばかりだ。間違うことだってあるし、誰かが指導だってしないといけない。
間違ったまま仕事をされても困るし、それでもし俺がまた拉致でもされたら、傷つくのは彼女とアレックスになる。どうしたものかと思う。
俺自身が意見しにくいとなれば、誰か他の人に言ってもらうのがいい。誰がいい? マルコはどうか。シンディの上役というわけではないので俺ほどは角が立たない。
ただマルコも商会では重鎮だし、シンディは気後れするかもしれない。それにマルコも護衛のことはほとんど何も知らないだろう。
アラン・ジラルド・カミロ・リアナ……、ぜんぶうまくない。
アーデルベルトなら、少しはよさそうな気もする。年配の貫禄があってアドバイスしても重みがあるし、大商会にいたから護衛のことも知っているかもしれない。
ただ話の持って行き方が思いつかないし、それになんとなくピンと来ない。
そういう風に悩んでいるうちに時間が過ぎる。どうしたものか。
とりあえずアレックスがもし護衛についたら、馬車で行き来して、さらに危ない場所には決して行かないことにすればいいだろう。もともと危ない状態を作らないのがいちばんだ。
とは言えいつまでもそういう状態で放っておいて仕事に支障をきたすのもまずいように思う。
シンディの方は無邪気に道場に通ったりしている。アレックスは最近はずいぶん成長しているなどと言っている。
それは伸びる時期なんだろう。だけど、それはそれでますます心配になる。十分伸びた大人相手では敵いそうにない。どうにも先輩のひいき目が過ぎると思う。
そう悩んでいるうちにシンディに諭してもらうぴったりの人物が思い浮かんだ。冒険者ギルドのスコットだ。
彼なら護衛についてもシンディよりはるかに多くの知識を持っている。それにシンディの父親のこともよく知っていてシンディも頭が上がらない。
彼が何か教えるならシンディも素直に聞きそうだ。それにそもそもシンディに仕事を任せるのだって、スコットの勧めがあったのだ。彼に責任を取ってもらってもいい。
その上、彼には人を紹介してもらうことになっていた。彼に会いに行ったり相談したりするのも実に自然だ。そういうわけでギルドに向かうことにした。




