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カンブル―のアンナに会いに行く

 西部旅行の後始末をしている。グランルスまで行き、騎士たちにならず者たちが捉えられ処分されたことを聞いた。


(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)


 前にレオーニ氏たちと旅行したときはグランルスから南のモンブレビルに向かった。だが今回は西のカンブル―に行くことにする。


観光地としてはモンブレビルの方が高峰モンブレのふもとの町として有名だから前回の旅行はそれでいい。


今回はカンブル―へのツアーも少しは考えているが、実際はそれとは別の用事だ。




 俺が元にしたセレル村の東の集落のアンナがワインづくりで留学をしているのだ。もともと俺が勧めて、俺が費用を出している。


条件としては大きな利益が出るようになったときは、俺が出した費用よりもっと多く返してもらうことになっている。


逆にもし彼女が事業に失敗したら返してもらわない約束だ。それで本人とも親御さんとも合意した。



 このやり方は俺の損に見えるが、そうでもない。彼女が大きい利益を出したらそれだけ俺も受け取れるからだ。つまりリスクを負っている。ある意味バクチだ。


ワインについての留学は彼女だけだが、氷魔法では似たやり方で多数の人に奨学金を出している。そちらも同じで素質がなければ彼らは払わなくていいし、あれば余計に払う仕組みだ。


奨学金が必要な学業は本質的にリスクを伴うため、このやり方がいいと思っている。リスクは金のある人間が引き受けて、その代わりに少し余計にもらうやり方だ。


俺からしてみたら多数の奨学生がいるから、あるものは失敗するかもしれないが、あるものは成功する。学業自体が金になる性格のものであればトータルでは得をする。


個人に就学費用を出さるとたいていはリスクを負担できるほど十分な財力がないため、学業自体を忌避してしまう。


数百万でのるかそるかの博打を個人でするのはつらいが、期待できるリターンが数百万よりずっと多いなら組織ではするべきだ。


前世の大学教育でリスクのある学費を先払いでみんなが同じ金額を払うと言うのは、あまりよくできた制度ではなかったように思う。




 難しいことはともかく、カンブル―郊外の彼女が通う学校に向かう。俺自身が会いたいというのもあるし、彼女がきちんとできているかどうか確かめたいのもある。


それにたまには旧知の人間に会うのも誰も知り合いのいないところで一人の彼女にとっては何か気が晴れるかもしれない。こちらの世界での年齢は彼女の方が上だが、中身の年齢は俺の方が上だ。


なお学校と行っても毎年数名だけ受け入れる徒弟のような実業学校だ。


フェリス「久しぶり、元気にしている?」

アンナ「フェリス君、お久しぶり。私の方は元気よ」


いちおう事前に手紙を書いておいたので、会ってびっくりということもない。


実際に彼女の様子は少し大きくなった感じだ。別に肥満というわけではなくてがっしりして体力がついている感じだ。


フェリス「お元気そうで何より」

アンナ「かなりの体力仕事だから、すっかり筋肉がついちゃってね。持ってきた服も入らなくなって仕立て直しよ」


実業学校だけに実習もあるようだ。なお服はもちろん購入するのだが、仕立て直したりもする。


前世のように人件費の安い途上国で機械を用いて大量生産というわけでもないので、服も安くないし新品を買うのではなく仕立て直したりするのだ。


フェリス「学校の方はどう?」

アンナ「やっぱり一人でやっていたときとはずいぶん違うわね。かなり色々なノウハウもあるわ」


フェリス「けっこう本を読んでいたじゃない?」

アンナ「本には書いてないこともたくさんあるわ。それに読んでもよくわからなかったことも実際にやってみて聞いてみるとわかるようになるわね」


もちろんそれで本の価値がなくなるわけではないが、本だけではどうしようもないこともあって、それで学校はあるのだろう。


フェリス「じゃあ、ワインづくりのことはずいぶん詳しくなったんだ」

アンナ「それが勉強すればするほどわからないことが増えていくの。私なんてまだまだだわ」


それはこの地のワイン産業は長い歴史があるのだから学ぶべきことはたくさんありそうだ。わからないことが増えていくのは勉強が進んでいる証拠だろう。


むしろ何でも分かったような顔をしている人間はたいていはほとんど何も知らない。


フェリス「じゃあ、まだまだ勉強なんだ」

アンナ「うーん、でもそうしていてもいいのかしら」


フェリス「それはどういうこと?」

アンナ「ずいぶん長く家を空けてしまっているし、早く役に立つ方法を学んで帰ってもいいかと思うの」


そう言う心配をしているのか。ただアンナの家はわりと裕福だし、アンナがどうしても働いて家にお金を入れるまでしなくてもよい。


それから早く役に立つ方法というのも不安な話だ。たいていそう言うものは都合よく上手く行っている時だけは対応できるものだ。


ちょっとしたイレギュラーがあるとすぐに上手く行かなくなる。そんなに簡単においしいところだけつまみ食いできるとも思えない。


それにこういう仕事はどうしても季節や気候に左右される。だから最低1年はいないといけないし、何か別の気象条件が起こることも考えると2~3年はいてもいいように思う。


フェリス「ここの居心地が悪いとか、実家で家族が病気とかならともかく、そうでないならまだしばらくいてもいいんじゃない」

アンナ「確かにそうなんだけど……」


もう少し話を聞いた方がよさそうな気がしてきた。

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