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司教はシャーベットについて知りたいようです

 レオーニ氏のシャーベットお披露目の出資者の会は何とか終わった。レオーニ氏が途中でまだ決まっていない話を持ち出し、いろいろ面倒なことになった。


とは言え、俺はよくわからないので部下に丸投げしてしまう。ああ、これではブラック企業みたいじゃないかと思う。




 それはそれで済んだのだが、もう一つ面倒があった。クルーズンには新しいもの好きの2人がいるのだ。


さすがにレオーニ氏もそう言う付き合いはきちんと押さえているようで、領主である伯爵と教会の司教には新作シャーベットの献上に上がったらしい。


その点ぼかされたのでよくわからないが、どうも出資者より前だったようだ。その辺も面倒だ。


出資者だってさすがに領主や司教となれば先に食べたとしても納得する者が多いが、中には面白くない者もいる。


かといって出資者を先にしてもし領主や司教の耳に入れば、後々面倒なことが起こりかねない。


領主は穏健なので司教相手以外はそこまで無茶は言わないが、司教の方は陰険でねちっこいことを言いそうだ。


それで日付は外には不詳のままきちんと献上したのはいいのだが、俺の名前が出てしまったらしい。それで領主の方は何も言ってこなかったが、案の定司教の方が面倒なことを言ってきた。




 ある時用事があって司教座に行ったときのことだ。別に毎回トップである司教が出てくるわけでもない。だいたい彼はそこいらの弱小貴族より名実ともに上なのだ。


俺の方は適当に彼の部下の司祭と話せば済む用事が多い。こちらも部下に行かせてもいいのだが、俺が教会育ちのため何か行くことが多い。


それでその日は用事が終わってもなぜか引き留められる。何か嫌な予感がする。


司祭「ちょっとお待ちください」

フェリス「はて、何かまだ御用があるでしょうか?」

司祭「司教様がシルヴェスタ様とお話ししたいとのことです」


嫌な予感は当たるものだ。えー、何で司教が出てくるの? また何かお布施をしないといけないの。なんかしたっけ。そんなことを思いつつ、応接室まで連れていかれた。


「こちらでお待ちください」

少し良い椅子に座らされる。司教は後からくるようだ。これから何が起こるのかいろいろ考える。また何か要求されることは目に見えているが、商会の負担になるようなことを応じてはならない。そんなことを考えつつ、しばらく待つと、司教が応接室に入ってくる。立ち上がって挨拶する。



司教「これはこれは、敬虔なる信徒にわざわざ神の家にお出でいただき恐悦でございます」


わざわざ来たのは連行されただけだ。神の家というが、神は俺の家にいてあほ面で猫をなでている。ここには坊さんがたくさんいるが、神など見たことがないだろと思う。


こちらはまた何を要求されるかわからないし、会わないで済むなら会いたくないのだ。とは言え、そんなことは口に出せるはずもない。


フェリス「司教様にはご機嫌麗しく。教会のかなめである司教様にわざわざお時間をいただき恐縮の限りでございます」

恐れ多くてお引止めできない、できれば会いたくないとを遠まわしに述べる。


司教「一人でも多くの信徒の皆様にお時間を取ってお会いしたいと存じますが、なにぶんにも公務ゆえなかなかそれができないのは大変に残念でございます」

あんたに会いたい信徒はいくらでもいるが、何か金か利益のにおいがしなければ司教はわざわざ会おうとはしないだろと思う。


フェリス「どうか一人でも多くの方に御尊顔をお顕わしください」

俺だけ呼ばずにもっと他の人に会ってくれと言う。しかしその希望はやり過ごされる。


司教「さて、シルヴェスタ殿は西部の旅行に行かれたとか」

そうか西部旅行の件で何か要求があるのか。

フェリス「はい、商会の用で西部に行って参りました」


司教「うむうむ、そこにレオーニ殿も同行されたとか」

しっかり情報を押さえている。西部の教会がスパイのようにキャッチしてご注進したのか、それともレオーニ氏がしゃべってしまったのか。いずれにしても面倒だ。

フェリス「はい、私のツアーで関わる店に料理の指導などしていただきました」


司教「ほう、それはそれは。ところで旅行中に何か新メニューができたとか」

新メニューはいろいろある。どれのことを言っているのかわからない。

フェリス「はあ、いろいろとございますが」


司教「いやな、この前レオーニ殿が新しいシャーベットを献上してきたのじゃ」

それは聞いている。いま話に出したということはそれについて要求があるのだろう。

フェリス「はい、私もいただきました」

あまりよけいなことは言いたくない。かといって知らないなどとうそをつくのもバレそうでうまくない。


司教「ふむ、何でも聞くところによると、シルヴェスタ殿があのシャーベットのアイディアを出したとか」

あー、なんか要求されそうだ。少しでも貢献を小さく見せかけないといけない。

フェリス「いえいえ、わたくしが考えたことはごく一部でございます」

実はアイディアは大部である上に、さらにいまのものより良いものができうることを知っているが、そんなことはおくびにも出してはいけない。


司教「はて、シルヴェスタ殿がかなりの貢献をされたと伺ったのじゃが」

信者か交渉相手に食べさせるためにレシピを提供しろとかそういう話になりそうだ。それとも商売にしたいのか。

司教自身が食べるだけなら、レオーニ氏の店に買いに行かせればいいだけのことだ。出資がなかったとしてもまさか断ることもできまい。

フェリス「いえいえ、私が考えたことはごく簡単なことで、それを形にしたのはレオーニ氏でございます」


司教にしてみたらレオーニ氏より俺の方が御しやすいのだろう。実は俺がかなりの権利を主張できることは知られてはならない。


何か有利な立場にあるとか有力な知人がいるとか自慢したがる人間がいるがずいぶんおかしなことだと思う。実際にそういうものがあると面倒な頼まれごとばかりされる。


引き受けてもこちらには得がないし、断れば嫌な顔をされるしで、ろくなことはない。そんなものはなさそうな振りをしているに限る。

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