出資者の会の混乱
レオーニ氏の出資者の会に出ている。新作のシャーベットのお披露目会のはずだったが、突然レオーニ氏が西部での冷蔵流通のことを公言しだしてしまった。
西部旅行に行っていたときに何となくは話していたが、まだ何も決まっていない。その状態なのに俺の名前まで出してしまう。
レオーニ「実は冷蔵流通の中心であるシルヴェスタ商会の主人のフェリス・シルヴェスタ氏に本日お出でいただいております」
その言でとつぜん俺の方に注目が集まってしまう。
出資者「シルヴェスタ氏はどこだ?」
出資者「冷蔵流通について聞いてみたいと思っていた」
いやこっちはあまり話したくはない。だいたい冷蔵流通について取引希望者は引く手あまたなのだ。個人的なつながりでなく、具体的な提案をしてもらっていちばんいい条件のところと取引したい。
それには俺でなくうちの商会の担当者が表に立った方がいい。それで表に出たくはなかったがレオーニ氏が近寄ってきてよけいなことを言う。
レオーニ「というわけで君が懸念していた金銭面の方はここで話せばいいと思う」
いや、よくない。実際のところ不確定のことが多すぎるのだ。どの程度のものが運べるか、どの程度需要があるか、氷魔法使いとその候補者の数、それを教育する側の受け入れ態勢、輸送の馬車、それにかかる経費など詰めないといけないことはたくさんありすぎる。
とりあえずそんな懸念があったが、その問題より前に出資者たちに俺が見つかってしまった。
出資者「あれ子どもだぞ」
出資者「さっきの助手じゃないか」
出資者「そう言えば、シルヴェスタ商会の主人は子どもだと聞いたことがあるぞ」
子ども子どもって……中身は十分オッサンだ。
ところが俺が見つかって冷蔵流通に関する面倒が起こる前にあさっての方向に話しが行く。俺が商会主人だとわかってさっきの新作試食の話が蒸し返しになったのだ。
彼らから見るとレオーニ氏はあくまでも使用される者だが、シルヴェスタは彼らと並んで使用する方だ。
さっきまでは使用人で助手だと思っていたから先に新作を食べても我慢できたが、使用者の方なのに金を出している彼らより先に食べているのが気に入らないらしい。
出資者「シルヴェスタさんは我々より先にシャーベットを食べたということですかな」
出資者「うーん、これはちょっとうまくないですな」
確かに出資者の特権のはずが話が違うと言うところだろう。
フェリス「あのですね。元々は別の依頼の旅行中にたまたまこのデザートができたのです。それにこれには私のアイディアも入っているんですよ」
そう説明するが反応はよくない。まだ気に入らないのだろう。アイディアを出したと言うのも彼らより上のようで気に障るのかもしれない。さらに説明を続ける。
フェリス「そんないいものじゃないですよ。材料買いにお使いに出たり、何百回もかき回したり。
だいたいこれだって完成品だからおいしいですが、その前に何百回もさほどおいしくないものを食べていますからね」
その辺でさすがに非難が無理筋だと悟ったのか、出資者からの追及は収まる。雑用をしているとわかったことで留飲を下げたのかもしれない。
それが終わると冷蔵流通の件だ。取引を申し出てくる者たちがいるが、全部うちの商会の担当者に回すとだけ答える。
正直細かいことはわからない。担当者が他の取引先と話を詰めているところにトップからそれより悪い条件で話がねじ込まれても困るだろう。
何でもトップが決めてしまうなら、担当者なんてものはそもそもいらなくなる。個人商店ならともかく、一定以上の規模の商会ではありえない。
さすがに関係ない取引の話は出資者間でも嫌がられたようで、話はやむ。だがそれに代わり、レオーニ氏の提案の話がまた頭をもたげた。どうしてこう次から次に面倒が起こるのだろう。
出資者「話を戻しますが、レオーニ氏のおっしゃった西部地域での冷蔵流通はどうなるのですか?」
まだごくごく簡単な話しかしていないと正直なことを言うしかないだろう。だいたいレオーニ氏が相談もなしに公表したのが悪い。
フェリス「そのお話は確かに出てはおりますが、まだもろもろの調整ができていないためにすぐに実現することは困難です」
出資者「もろもろとはどういうことか」
フェリス「はい、氷魔法使いが不足で養成する必要があります。学校はいま定員いっぱいで受け入れの余裕がありません。それに流通ですから輸送についても検討する必要があります。それだけでなく何をどの程度運ぶかの問題もあります。レオーニ氏が納入を希望しているシャルキュの店の食材はおいしいですが、そんなに多量に生産できるかは未確定です」
出資者「何だまだ具体化していない話なのか」
ここでレオーニ氏が口をはさむ。
レオーニ「いや向こうの店の方もいいとの話になっています」
フェリス「それは小さく実験的に始めてみようとのことで」
レオーニ「まあそれでもいいから、とにかく始めることだね」
フェリス「ただ氷魔法使いの不足の問題はあります」
レオーニ「それなんだが、魔法学校をもっと大きくしたらどうだ」
フェリス「そう簡単にはいかないでしょう。現に魔法使いが足りないわけですし、もし増やせたとしてしばらくは十分な生徒も来るでしょうが、先のことはわかりません」
レオーニ「冷蔵流通は君が考えたことでまだクルーズン回りでしかしてないだろ。だったらこれから国中、それどころか外国まで広がる。学校なんかいくら大きくしても人は来るよ」
その可能性はないわけではないが、失敗したら出資者や魔法学校が損を被ることになる。あまり出たとこ勝負というわけにもいかない。それにまだ問題はある
フェリス「そうは言っても教員の魔法使い不足はどうにもなりません。いま冷蔵流通現場にいる人を引っ張ってくれば、冷蔵流通が滞ります」
そこに出資者から横やりが入った。
出資者「いや、レオーニ君の言うことは面白い。必要なら商都や王都から少し高い金を出しても魔法使いを引っ張ってくればいい」
なんか話が大きくなりすぎている。ちょっと収拾がつかない気がしてきた。




