新作シャーベットの衝撃
レオーニ氏の出資者の会に出席している。出資者の会はレオーニ氏が新メニューを披露する場だ。出資者たちは他に先んじて新メニューを食べ、連れの人に食べさせられる特典があって、出資している部分もある。
そこに出資していない俺が入り込んで咎めだてされた。だがレオーニ氏が俺を助手扱いすることでスタッフ並みということになり納得された。
さらに今回は出資者の1人がレオーニ氏が長期不在だったことに怒って出資を引き揚げるなどと言っている。
俺は出資するくらいの金はあるが、レオーニ氏との関係が変わってしまわないかと出資はとりあえず控えるつもりだ。
そこでレオーニ氏の特製シャーベットが出る。シャーベットと言ってもミルクやクリームが入っていて言うならばアイスクリームのようなものだ。
器は陶器のようだ。少し厚みがあり、小さなエアーが入り、ぬくもりのある形をしている。表面がつるつるの磁器とは異なった趣だ。こちらの世界のこの地域ではまだ磁器が作られていないようだ。
ともかくその陶器の小皿の上にシャーベットというよりアイスクリームが載せられ、さらに果物などが配置されている。
旅先で食べたものや、旅先でレオーニ氏が作ったものに比べて、はるかに洗練されている。果物やソースの配置など絶妙で見るからに見事だ。
しかし出資者たちは目が肥えているのか大した動揺もない。いやむしろ評判がよくない。
出資者「はて、これはシャーベットかな? たいして変わり映えもしないな」
出資者「ふん、女子どもの好きそうなものだ。我々にはもう少し重厚なものを出してくれてもいいのではないか」
出資者「ずいぶん長く待たされておいて、これではちょっとな」
出資者「こんな小僧さんを助手にしたのでは、たいして物はできないと言うことでしょうか」
出資者「こんな素人の坊やを助手にしたのではこの店も先が思いやられますな」
さんざんの言われようだ。俺にまでとばっちりが来ている。彼ら大半よりうちの店の方が大きいような気もするのだが。特に出資を引き揚げると言っている出資者のフタホは
フタホ「やはりこの店への出資はちょっ続けられないかな」
などと言っている。
レオーニ「皆さまにはずいぶんお待たせしてしまいましたが、これはまさしくそれだけの自信作でございます。さっ、どうか実際におあがりくださいませ。」
だが出資者たちはありがちなシャーベットとしか思っていないらしく、さほど興味なさそうだ。とは言え、スプーンですくってひとくち口に入れる者も出てくる。
出資者「こ、これは」
出資者「おい」
出資者「なんだ、これは」
出資者たちの手が止まらなくなる。興奮しているのかカチャカチャ音を鳴らして食べている。先ほどまでの気取った様子は全く見られない。
肝心の味の方は前世の高級アイスクリームほどではないが、前に食べたときより質が上がっている気がする。飾りつけの方は今まで見たこともないほど美しい。やはり事務的なことはダメでも料理のこととなると天才的だと思う。
レオーニ「いかがででしょうか?」
出資者「ああ、いつの間にか私のものはなくなってしまった。もっとくれないか」
出資者「わたしもだ」
出資者「ワシもだ」
出資引き上げを言っていたフタホは押し黙って何も言わない。
出資者の言うことが変わってきた。
出資者「さすがだ、私がひいきにしただけある」
出資者「やはりこの店はクルーズン随一だ」
出資者「このようなデザートは過去に一度も食べたことがない」
出資者「王都ですら見たことがないぞ」
出資者「いや王宮でもなかった」
最後の出資者は何度も王宮に出入りしているのだろうか。それともたまたま何かの機会に行ったことがある程度だろうか。
そうだとすると出なかったのもたまたまかもしれない。だが仲間相手に王宮に行ったと言ってみたいのだろう。とは言え、衝撃的なデザートを前にそんな自慢も大した内容でもないとやり過ごされてしまう。
出資者たちはお代わりを要求しているが、レオーニ氏は知らぬふりで解説を始める。
レオーニ「こちらはシャーベットでござますが、特別にミルクやクリームを使ったものでございます」
出資者「そうなのか、ミルクとクリームか。それは素晴らしい。ところで追加はないのか、追加は」
出資者「こんないいもの、今まで食べたことがないぞ」
出資者「もっとないのか」
出資者「もう少し味見したい」
レオーニ「はい、すぐに持ってこさせますが、冷たいものであまり多く召し上がるとお体にさわりますので、ほどほどになさってください」
そう言って給仕に指示して持ってこさせる。確かに山盛りを何回も食べるのはよくない。だが出資者たちはそうしたいような雰囲気だ。
大半が2回目のお替りも要求して、一部が3回目まで要求してさすがにみな満足し始める。そこで例の出資についての話がはじまる。
出資者「フタホさん、あんたの出資分、ワシが一部引き受けてもいいぞ」
出資者「ワシもだ。こんなもの、貴族や国王ですら食べたことがないのではないか。これが食べられるなら少しくらい金利が低くてもいいくらいだ」
出資者「わたしも1000万くらいなら可能だ」
フタホの方は気まずいのか何も言わない。問題が料理一つで解決する前世のグルメマンガのような展開となっている。
もちろん見たこともない素晴らしいデザートを食べた感動もあるだろうが、王宮よりすごいとこれから自慢して回ることも考えているのだろう。
しばらくすれば評判になって、出資者が取引先を連れて来て取引を有利にするための材料にする算段もありそうだ。
こちらの方はレオーニ氏が実害はないにしても少しは反省するような展開を期待したが、まったくそう言う様子はない。また今後も無茶が続きそうだ。




