155 シャルキュで冷蔵流通の検討
クルーズンの西側の地方への視察の帰り道にいる。急がないといけないのにグランルスで1日余計に過ごしてしまった。
(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)
俺の方は何とかなるのだが、同行のレオーニ氏はさっさと帰らないといけない。グランルスからはふつうはシャンプで一泊してシャルキュに行くが、そのままシャルキュに行ってしまいたい。
グランルスを朝早く出れば何とかなるだろう。そういうことで同行者に話す。
フェリス「明日だけど、早起きして早い時間の馬車でシャンプに行って、午後の馬車でシャルキュまで出てしまおう」
レオーニ「別にそんな急ぐこともないんじゃないか? 明日も少しグランルスを見て、シャンプに泊まってゆっくりすればいいじゃないか。それとも何か用事があるのかい?」
いや急がないといけないのはレオーニ氏の方だ。彼の店の人が困るはずだ。遅れれば遅れるほど、あちこち頭を下げないといけないだろう。だいたい俺だけならギフトで帰ればいいだけなのだ。
フェリス「あのですね、レオーニさん、あなたが急いで帰らないといけないんです! お店の人が困っていますよ」
レオーニ「そうは言ってもね。外の街を見て仕入れするのも仕事だからね。これでも」
もうすでに食器だの調理器具だの乾物だのレオーニ氏が興味本位で買ってきたものがうちのグランルスの支社に山と積まれている。
何か思いつきで買っているようでガラクタのようなものもある。欲しくて仕方ないのだろう。買い物依存ぽい。
もっとも彼は店に合わなかったり、使ってみていまいちだと、平気で売ってしまう。この社会で中古に対する忌避感は前世よりずっと少ないので売れる。だからますます買うのだろう。
彼が仕入れたものは馬車便で運ぶと言うことになっているが、この後夜に彼と別れた後に、ギフトでこっそりクルーズンの俺の家に送るつもりでいる。
とは言えギフトを使うにしてもずいぶん量が多くて、くたびれそうだ。シンディとマルコにも手伝ってもらうことになりそうだ。
フェリス「あのですね。レオーニさんが仕入れたものが山と積まれているでしょう。これ以上何を仕入れるんですか? だいたい店の方に置けるんですか?」
レオーニ「うん、そうだね。まあ、あんなものでいいか」
あんなものと言うが相当な量だ。馬車で運ぶ輸送代だけでも結構な値段になりそうだ。実際はギフトで運び、クルーズンの俺の家からレオーニ氏の店には馬車で運ぶ。
実際にはかからないこの町からの馬車代は、彼にギフトがあることは言えないので請求するが、実際は彼に出す報酬と相殺する形だ。
そちらも決して安いものではないので、うちがいくらかは払うことになるだろう。レオーニ氏にしたら思ったほどは受け取れないが、仕入物がたくさんあって楽しいだろう。
ともかくそんなわけで明日朝早くに出ることに決まった。挨拶などは夕方までに済ませてしまう。
支社の従業員には役員用スペースの鍵を預け、レオーニ氏の荷物を移しておくように指示しておいた。後は役員用スペースで夜な夜なクルーズンにギフトで運ぶ。
やはりシンディとマルコにも手伝ってもらった。家が広かったからよかったが、そうでなかったらこんなもの置いておくことはできなかった。
翌日早朝に眠い目をこすって4人で馬車に乗る。早い時間の馬車だが、それでも他に客がいるようだ。昼過ぎにはシャンプにつく。
レオーニ氏はいろいろ回りたいなどと言っていたが、それは却下し、すぐに食べられるものだけ食べて、馬車を乗り継ぐ。
次はシャルキュ行きだ。さすがにくたくたになる。もう夕方だ。また行きにレオーニ氏の紹介で行った店に立ち寄ることにする。大通りからちょっと奥にある店だ。あいかわらずおいしい。
レオーニ「あ、思い出したが、西部の契約先の食堂に、ここシャルキュで調理して物を持って行くとかいう話じゃなかったか」
ようやく俺がレオーニ氏を呼んできた経緯を思い出してくれた。すっかり忘れて里の飯屋の助っ人やら、ミルクシャーベットづくりやらをしてくれた。
フェリス「ええ、そうですね」
レオーニ「いまからは……」
フェリス「できるはずありませんよね!」
レオーニ「この店のものを持って行くのはどうだ?」
確かにレオーニ氏の友人の店だけあって、料理の質はなかなか良い。うちのお高めのツアーにも十分に向いている。ただ日持ちするようなものを作っていないのが難点だったのだ。
フェリス「ここの料理はおいしいですが、日持ちはしませんよね」
レオーニ「そこは冷蔵流通があるだろ」
あるにはあるのだが、氷魔法使いがひっ迫している。こちらに回せるかは疑問だ。
フェリス「ええ、ただ氷魔法使いが十分にはいませんので」
レオーニ「氷魔法使いを育てるのにどれくらいだったか」
フェリス「いまだと最低限なら3か月、できれば半年は見ておきたいところですね」
レオーニ「それならこの町から何人か募って氷魔法使いにすればいい」
まあできないことではないが、いろいろ面倒だ。儲かるような気もするが、それほどでもないかもしれない。ただその辺は投資ということもある。
フェリス「ええ、考えられないことではないですが」
レオーニ「それならそうして欲しい」
何か話を進めたがるが、理由があるのだろうか。彼は新しい料理には興味があるが、俺の商売にはさほど関心はなかったはずだ。その辺を聞いてみる。
フェリス「なんでシャルキュでの冷蔵流通をそんなに進めたがるんですか?」
レオーニ「ああ、この店のものもだし、この辺の地方のものもクルーズンに持ってきたくてね。冷蔵流通があれば、ここから西だけでなく東にも持って行けるだろう」
やはり自分のことしか考えていない。まあそれでこちらもうまくなる算段が付くなら乗ってもいいが、どうしたものか。




