男爵に先行きについて聞く
クルーズンの西側の地方に旅行ツアーのためにレオーニ氏たちと旅行した帰り道にいる。いまはグランルスに滞在している。
この町で大型飲食店が小型店にヤクザ者を使って嫌がらせをして、自警団まで巻き込んだ騒動に騎士の手入れが入り、その件で男爵の屋敷に呼ばれている。
基本的には俺たちは摘発に協力した側だ。やや騎士を道具として利用した部分はあるのだけれど。
ところで、この後、あの嫌がらせをしていた連中がどうなるのかが気になる。ずいぶん不愉快な目にあったし、それだけでなくあれが繰り返されればまた里の飯屋の先行きが不安になる。その辺を男爵に聞いてみる。
フェリス「閣下、嫌がらせを依頼した大型店とヤクザの組はどうなるのでしょうか?」
男爵「まあ、それは裁判次第じゃな」
さすがに何かを保証するようなことは言いたくないのかもしれない。ただこちらももう少し安心できる材料が欲しい。
フェリス「閣下、できましたら、裁判の見通しなどお知らせいただけるとありがたいのですが」
男爵「ふむ、だがのう、裁判というのは重大なものじゃ。ゆめゆめ簡単に漏らすわけにもいかぬな」
それはそうだろう。裁判権のある者が私的に見通しを語るなどもっての他だ。もし前世で裁判官が担当する裁判について知人に漏らしたら懲戒ものだろう。
とはいえ、俺もある意味被害者だ。そしてこの地を離れなくてはならないが、今後もここには関わる。そのための判断材料は欲しい。少し踏み込み過ぎではあるが、あえて聞いてみることにする。
フェリス「私も彼らには被害を受けております。また商売で観光客に楽しんでもらうにも安心して送り出したいと存じます」
回りくどいがある意味脅しだ。ヤクザ者の不安が残るようなら、観光客を連れてこないか、素通りさせると言っている。
やや礼を失しているが、こちらも被害を受けてそれを事前に防ぐべきだったのは目の前にいる人物だ。
男爵「まあ、まあ急くでない。ふむ、裁判のことはよう言えぬが、自警団の方は少し手入れをしようかと思っておる。さすがに嫌がらせが繰り返されて有効な手が打てぬのでは困るからな」
裁判の方は言えないが、行政の方は言えるようだ。まあ、そんなところだろうか。もう少し安心材料が欲しいが、貴族相手にあまり踏み込み過ぎるのも怖い。
男爵は常識的なようだし、俺にはクルーズンの司教と伯爵の後ろ盾があるから、めったなことはしないだろうが、とつぜんゲルハー子爵のようになられても困る。とりあえず謝意を示しつつ念押しをする。
フェリス「それは大変頼もしいお言葉でございます。閣下のご威光のもとに犯罪者たちが大手を振って歩けなくなれば私どもも大変に安心できます」
男爵「ふむ、領民たちの安全を図るのがワシの仕事じゃ。こちらとしてもクルーズンからは多くの客に来てもらうことを期待しているからの」
こちらからはまた犯罪の不安があればツアーなど出せないと言って、あちらは取り締まるから観光客を連れてこいという。
領民と言ったのは商人との取引のためにしているわけではないと言いたいのだろう。あまり踏み込み過ぎるのも後々よくなさそうだ。この程度にしておこう。
フェリス「それはぜひ私どももクルーズンの人々にこの地の魅力を知っていただきたいと存じます」
男爵「そうか、そうか。それは重畳じゃ。ところでな……」
フェリス「はあ、なんでしょうか?」
何か要求でもあるのか。それともやはり踏み込み過ぎてとがめられるのか。
男爵「何かその方と話していると、とても若者と話している気になれんな」
あいかわらず、外見ははつらつとしたフェリス君の中の人の中年男がにじみ出てしまっているらしい。それはまあ商会の主人だから仕方ない。とりあえず後は雑談などをする。
一緒に来たリアナと部下の子は借りてきた猫の子のようだが、レオーニ氏の方は顔をつないでおきたいらしい。
レオーニ「閣下、このたびは大変にお骨折りいただきありがとうございました。わたくし、レオーニと申しまして、クルーズンでレストランを営んでおります。
閣下にお礼を献上したいところでございますが旅の身の上でございます。クルーズンにお出での際はどうかお声がけください。誠心誠意努めさせていただきます」
はじめはタダでも2回目以降はしっかりとるのだろう。別にそれが悪いわけではない。彼の店も名店と呼ばれつつあるが、新興だ。
格を高めて地位を確立するために名士にひいきしてもらう必要もあるのだろう。だいたい今回の長期滞在だってそのおかげでできたわけだ。
男爵「うむ、いずれ寄せてもらおう。今回はその方が里の飯屋の指導をしたのだったかな?」
レオーニ「はい、いささか協力いたしました」
男爵「なかなか洗練されていたのう。あの店の主の腕も悪くはないが、やはりここは田舎だからのう。また来てやってくれ」
レオーニ「はっ、ぜひ伺うようにいたします」
また出歩きたいらしい。レオーニ氏はうれしいだろうが、留守を預かるマンロー氏は気が気でないだろう。
その後も少しお茶を飲みつつ雑談して、屋敷を辞去した。とはいえ、この後は暗くなる。町の外に出るにはちょっと向かない。レオーニ氏は喜んでまた街中を見回っている。けっきょくまた1日余計に過ぎてしまった。




