ヤクザ者逮捕について男爵との懇談
クルーズンの西側の地方に旅行ツアーのためにレオーニ氏たちと旅行した帰り道にいる。いまはグランルスに滞在している。
グランルスではもともと契約していた大型の飲食店から小さい店に替えたところ、店が嫌がらせを受けた。それをはねのけて、しばらく別の町に行き、また戻ってきたところだ。
店の主人から顛末を聞いていた。嫌がらせをしたヤクザ者も捕まり、背後関係も洗えたようだった。
しばらくそんな話をしていると騎士の従者がやってくる。
従者「男爵様が皆様をお連れするようにとおっしゃっています。御同道願います」
フェリス「何か私がしましたか?」
ちょっと不安になる。
従者「いえ、御館様は謝意を表したいとおっしゃっておられます」
ヤクザ者の排除のきっかけを作ったことに対してだろうか。正直言うと、必ずしも正面から俺たちが立ち向かったわけではないので気が引ける。
それにレオーニ氏を早くクルーズンに返さないといけないこともある。だからさほど行きたいわけでもない。
ただ貴族からの招待を断ったときに今後あまりよくない扱いをされることだって考えられる。またろくでもない商人やヤクザに絡まれることだって考えらえる。
断ると言う選択肢はなさそうだ。ただレオーニ氏の方は先に帰ってくれないかなとも思う。
フェリス「それは大変にありがたいことです。それではご挨拶に伺おうかと存じます。ところでレオーニさんはお店の方は大丈夫ですか?」
ある意味さっさと帰れとの含みで伝える。
レオーニ「まあ、大丈夫だろう。私もご挨拶に伺うことにしよう」
おいおい大丈夫じゃないだろう。だが帰るとまた雑用だらけだからか、それともマンロー氏に怒られるからか、後にしたいのかもしれない。
けっきょくリアナと部下も含めて同道することになる。途中で従者と少し離れたところで、レオーニ氏に聞いてみた。
フェリス「いい加減まずいんじゃないですか? お店の方でマンロー氏も困っておいでですよ」
レオーニ「まあ、まだ大丈夫だろう。それに貴族は店の上得意だ。顔をつないでおいて損はないよ」
まあそう言うこともあるのかもしれない。丸め込まれた気もするけど。
しばらく歩いて領主である男爵の館につく。応接室に案内され、お茶や菓子などを食べながら男爵と懇談する。
男爵「この度はわが領地で面倒をかけてすまなかったな」
フェリス「いえいえ、騎士の方にはならず者を捕まていただき、騎士様とご領主様には大変に感謝いたします」
いろいろ骨は折ったが、元いたクラープ町の領主に比べたら数段マシだ。
男爵「そうだったの。わが配下の騎士が居合わせたのだったか」
フェリス「はい、騎士様に捕まえていただき、本当に幸運でした」
男爵「そうか運がよかったか」
フェリス「はい、大変な幸運に恵まれました」
男爵「ふむ、そこなんじゃがな、ちと幸運が過ぎるのではないか?」
何か雲行きが怪しくなってきた。実はヤクザ者とぶつけるために、わざわざ騎士を珍しい食事でおびき出した。
そして個室を作ってヤクザ者が騒ぎを起こすまで鉢合わせないように計らったので逮捕に至ったのだ。
それでも数日かかったので運は運だが、逮捕に至るようにそうとう条件を整えたのは間違いない。ある意味では状況を整えて騎士を駒か道具のように使ったのだ。
フェリス「いえいえ、閣下のご善政の下で悪が誅せられただけのことと存じます」
適当にごまかす。そう言われて悪い気はしないだろう。
男爵「ふむ、それにしても偶然が多い。騎士がたまたま食事していたところにヤクザ者が店に嫌がらせに来て、騎士を見ればそもそも騒動を起こさないか逃げるはずが、騎士はたまたま個室にいてヤクザ者がことを起こしたと。そのために騎士に見つかり逮捕に至ったのだったな」
フェリス「はい、その通りでございます」
男爵「ずいぶんな偶然もあるものよのお」
フェリス「騎士様のご臨席を賜りましたこと、大変な僥倖でございました」
男爵「それじゃがな。連日騎士が行っていたようじゃの。まああの店も悪くはない。とは言え連日というのもずいぶん妙な話だ」
少しくどくなってきた。実はいろいろエサをぶら下げておびき出したのだ。とは言え、別にそれくらいの便宜を図るのはこの世界では違法でも何でもない。とは言え、ある意味で騎士を道具に使ったことを非難されているような気もする。
フェリス「あちらの店はもともとよい店でしたが、こちらのレオーニ氏の協力であの店も料理の内容がさらによくなりましたので、お気にいられたものと存じます」
話をそらしたいしレオーニ氏は店の得意として貴族とつながりたいところもあるようなのでプッシュしておく。
男爵「ふむ。騎士は個室にいたんだったか、それで初めにヤクザ者と顔を合せなかったとか」
フェリス「はい、親しい方だけでゆっくりとお食事を楽しみたい方もおられるかと思い、あのような席を設けました」
男爵「ふん、たまたま騎士がいて、たまたまそれが隠れていて、そこにたまたま犯罪者が現れたのか」
正確に言えば犯罪者はしょっちゅう来ていて時間の問題だった。事実、数日で鉢合わせたのだ。
フェリス「本当に助かりました。とは言え、日頃からのご領主様と騎士様の犯罪取り締まりの賜物でございましょう」
実はそんな騎士と犯罪者を鉢合わせるような方法ではなく、直接自警団に取り締まりを依頼したこともある。だが、それは失敗した。状況がうまく整っていなかったからだ。
それから騎士を直接呼びつけるのは、ましてや何度も呼びつけるのは難しかった。だから状況を整えたまでだ。
とは言え、自警団はダメだったが、騎士の方はきちんと犯罪を取り締まる準備はできていた。だから捕まったのだ。あながち嘘ではない。
男爵「まあ、そういうことにしておくかの」
そういうことにしておいてくれるらしい。とりあえずやり過ごせたようだ。




