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150. いよいよ出発

 クルーズンの西側の地方の山間の町グランルスから南のモンブレビルにいる。


(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)


 モンブレビルでは同行のレオーニ氏がシャーベットづくりに入れ込んでいる。新しいものを作ると言うことでミルク入りにしてさらにクリーム入りにした。


牧場でクリームを買ってきてレオーニ氏が試作品を作ったところかなり良い出来だった。


レオーニ「うん、だいたいよさそうだ」

フェリス「じゃあ、クルーズンのお店の方も心配ですし、そろそろ帰りましょう」


クルーズンの彼の店のスタッフのマンロー氏から言われている期限まであと数日だ。ここから4日かかることを考えればそろそろ発った方がいい。ところがレオーニ氏はどこ吹く風だ。


レオーニ「いや、まだまだもっとよくなる。もっと試作を重ねないと」

確かにまだ1回しか試していない。とはいえ、もう帰らないといけないし、帰ってからだって試作はできるはずだ。


フェリス「さすがにもう帰らないとまずいんじゃないですか? マンローさんも心配していますよ。それに試作ならお店でだってできるでしょう」

レオーニ「いや店のことなら心配ない。まだもう少し時間はあるはずだ。それに店に帰るといろいろ雑用があって試作どころではなくなるからね」


何かいろいろ問題があると思う。レオーニ氏がいろいろやらかしてマンロー氏らが頭を下げている場面を見たことがある。それで何とかなっているのだ。今回もそうなりかねない。


雑用というのはたぶん店の経営の重要なことだと思う。こまごましたことはそれこそマンロー氏が処理するはずだ。


とは言え、これ以上言っても、言うことは聞きそうにない。彼の店だし仕方がないか。ギフトでレオーニ氏も帰せば間に合うだろうが、それを見せたら今後ますますひどいことになりそうだ。


あちこちに行くためのタクシー代わりに使わされて、さらにぎりぎりまで現地にいるための道具にされかねない。レオーニ氏には絶対にギフトは見せないようにする。


いちおうマンロー氏には手紙を書く。ギフトでクルーズンの家に届けて、そこからレオーニ氏の店に届けてもらう。遅れそうなことと俺が努力したのを知らせるためだ。



 レオーニ氏はその後も3日ほど試作を重ねる。さすがに我を張って居残っただけに日に日によくなる。ここまでのデザートはこの世界では食べた覚えがない。


フェリス「素晴らしい出来ですね、これは傑作ですよ」

レオーニ「君はそれをきのうも言っていたよね」


それはこっちもあせっているからだろう。きょうから帰ってもマンロー氏の頼んできた期限には1日遅刻だ。しかも昨日のものも十分良い出来だった。


リアナ「私もこれは素晴らしい出来だと思います」

部下「ええ、こんなおいしいもの食べたことがありません」

ずっとシャーベットばかり食べさせられて試食にうんざりしている彼らでも、嘘やごまかしではなく本当にそう言っている。


レオーニ「まあ、そうだな。確かにこれくらいならいいか」

クリームの使用以来にこやかなことが多かったが、今日は特に表情が明るい。なんとなく今日で決着がつきそうな気がする。


彼の作る者は1点物の芸術作品ではなく、多くの人に何度も提供するものだ。いくらでも改良はできるだろうが、どこかで区切りをつけなければならない。


提供しながら改良することだってできるのだ。容易に大幅に改良できる状況なら、提供より改良を先にした方がよいが、それほど容易でないとか小幅の改良なら先に提供を考えてもいい。


レオーニ「じゃあ、帰ろうか」


ようやく帰れるようだ。ところでこの旅行にレオーニ氏を連れてきたのは西部旅行ツアーのためのメニューの開発だった。


行きに途中の町の店で料理の改良に手を貸してもらったり、グランルスで豆腐料理メニューを作ってもらったりはあったが、もう少し組織的にしてもらいたかったのが本音だ。


けっきょく振り回されてしまった。とは言え、はじめから様子がおかしかったのも事実だ。それなりの報酬を申し出たのだが、堅苦しいからなとうやむやにされてしまった。


だいたい仕事を頼むときは十分な報酬を出してそれにきっちり見合ったものを相手から出してもらうのが筋だ。はじめからそれが崩れている。


レオーニ氏にしてみたらきっちり仕事はしたくないか、できそうにないと思っていたのかもしれない。ツアーの料理の方はまた考え直さないといけない気がする。


 とにかくいまは帰ることが優先だ。

フェリス「じゃあ、馬車を呼んできましょうか?」

レオーニ「え? 君も帰りの準備がいろいろあるだろう? 支店へのあいさつなんかもしないといけないんじゃないか?」

フェリス「いえ、もうすでに3日前にほとんど済ませました。いつでも発てる状態です」

レオーニ「そ、そうか……。リアナたちは少し街を見た方がいいんじゃないか?」

リアナ「いえ、師匠に御迷惑をおかけするようなことはできません」

部下「はい、レオーニ先生のご都合で決めてください」


レオーニ「あのな、旅先に来たら、その土地の文化・風俗・食生活すべてを見ておかないといい仕事はできないぞ」


さんざん二人を試作で拘束しておいてどの口が言っているのかと思う。けっきょくレオーニ氏がもう少し遊んでいたいんじゃないか?


だがリアナが気を利かせたのか、助け舟を出す。

リアナ「あ、そうでした。こちらで買って行かないといけないものがありました」

なにか棒読みっぽい。

部下「いまから出発してもグランルスにつくのは夜ですしね。明日の朝でもいいですか」

あれ、いまリアナが後ろで部下の子を後ろ足で蹴っていなかったか?


レオーニ「そうだろう。十分に見聞を広めておけよ」


要するにレオーニ氏が街を見たいのだろう。けっきょく出発は明日の朝になってしまう。リアナは言い訳のように何か食材を買ってきたが、ここで買う必要があるのか怪しいものだった。


いちばんはしゃいで見聞を広めていたのはレオーニ氏だったように思う。


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