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クリームを入れてみる

 クルーズンの西側の地方の山間の町グランルスから南のモンブレビルにいる。


(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)


モンブレビルでは同行のレオーニ氏がシャーベットづくりに入れ込んでいる。レオーニ氏はパトロンに見せるために今までにない味を作りたいそうだ。


結構おいしいシャーベットは作っていたのだが、それは既存のものに過ぎないと捨て去って、俺のアイディアでミルク入りのものを試すことにした。


もちろんアイディアのもとは前世のアイスクリームだ。ところがこれがいまいちのものでしかない。レオーニ氏は次から次に試して少しはよくなるが、やはりいまいちには変わりがない。


もうかなり長居していてあと数日でさすがに帰らないといけないところまで追いつめられている。




 試作品は前世の安っぽいアイスをさらに悪くした感じだ。それで前世の高級アイスと安いアイスの違いは何だったかと考える。さんざん悩んで思い出したのは乳脂肪分の話だ。


確か乳脂肪分の多いアイスの方が高級だった覚えがある。乳脂肪分というのはたぶん生クリームだったように思う。いや正確には違うのかもしれないけど。


生クリームってこっちの世界にあるのかな。あれ、バターを作るのって確かそれから作るんじゃなかったっけ。なんとなく素人の断片的な知識を組み合わせていろいろ考える。



 そんなわけで、レオーニ氏とリアナと部下が試作に励んでいる間に牧場を見に行く。前世だと北海道から東京まで牛乳を運んだりしていたが、こちらではそんなことはできない。


だいたい冷蔵流通だって最近俺が作ったばかりだ。それもある程度の高級品にしか使えない。とても牛乳に使えるような価格では提供できない。人の住む町の近くに牧場はあるのだ。



 牧場について作業している人にいろいろ聞いてみる。30代くらいの兄ちゃんだ。

フェリス「こんにちは」

牧場職員「おう何の用だ?」

フェリス「牛乳を見せてもらいたいのですが」

牧場職員「おう、こっちにあるぞ。買っていくのか?」

フェリス「あの、ふつうの牛乳とバターを作る牛乳って何か違うんですか?」

牧場職員「バターを作りたいのか。それならこっちの脂肪の多いクリームの方を使うんだ」

フェリス「それって何か牛の種類が違うんですか?」

牧場職員「はっはっは、面白いことを言う坊やだな。別にどの種類の牛も似たようなもんだ。牛乳はなしばらく置いておくと脂は軽いから上に浮き上がってきて、下は脂が少なくなる。だから上澄みをとれば脂が多いぞ」

なるほどそう言うことだったのか。


とりあえず、それでたぶんこの脂の多いミルクが必要かと思い、それを買うことにした。

フェリス「じゃあ、こっちの脂の多い方をください」


そう言うが、牧場の兄ちゃんは牛乳のことも知らない子どもが買っていくのがちょっと不安になったのかもしれない。詳しく聞いてきた。

牧場職員「何に使うんだい? 坊や」

もうそろそろ15だし、坊やでもないと思うのだが、確かに年齢よりも少し子どもに見えるとは思う。今はそこにこだわらずに答える。

フェリス「知人がミルクを使う料理をしていて、脂が多いミルクの方がよさそうなんです」

牧場職員「ほう、そうか。そういうのもあるのか。じゃあ、瓶を出しな」


そう言えば、牛乳を買うときは瓶を持ってこないといけないんだった。大量生産ではないから基本的に使いまわさないといけない。だいたい瓶もけっこう高いのだ。

街からさほど遠くないとはいえ、それはそれで距離はある。街に戻って取りに行きたくない。


フェリス「あのー、すいません、お金払うんで瓶も売ってくれませんか?」

牧場職員「まあ金払ってくれればいいけど、けっこう高いよ。この瓶でいいかい?」

1リットルくらいの瓶に見えるものを出されて、聞かれたので同意する。

フェリス「ええ、それで」

牧場職員「じゃあクリームを入れて5000で」


やはり瓶代がけっこう高い。手作り瓶だから仕方ない。ふだん使いの瓶をセレクトショップで1点物を買うようなものだ。ともかく財布から銀貨を出す。

牧場職員「おいおい坊や、どっかのお金持ちの子かい? あんまり大金持って人に見せると危ないから出さない方がいいよ」


最近はレオーニ氏の材料の買い付けで結構派手に金を使っているから少し多めに入っていた。実は金貨も入っている。確かに少し危ないかもしれない。

フェリス「ありがとうございます。いまあるシェフの助手みたいな仕事をしているんですが、仕入れが多くなるもので油断していました」

牧場職員「おう、そうかい。それなら頑張りなよ」




 買い物を終えて、瓶を抱えてレオーニ氏の調理場に持って行く。レオーニ氏もリアナも部下の子もみんな疲弊している。


なかなかうまくいかないし、試食の方ももう食傷気味のようだ。だいたい出歩いている俺が試食に飽きているくらいだから、彼らはもっとだろう。


フェリス「どんな具合ですか?」

レオーニ「うーん、なんか足りないんだよなあ」

リアナ「まあ、これでも前よりはずいぶんよくなったじゃないですか?」

レオーニ「だけどなあ、これを出してもあまり受けそうにないなあ」

リアナ「そうは言ってももうあと何日もありませんよ」

そんな会話でどんよりしている。


フェリス「ちょっと考えたことがあるんです」

レオーニ「ほう、なんだい?」

フェリス「シャーベットを人数分、器に入れてくれませんか?」


そう言うとレオーニ氏の指示で部下の子が器に人数分よそう。とは言え、彼らはもう見たくもなさそうだ。


もっとも彼らは試食のときは器になど盛らず、作った容器にスプーンを刺して平気で食べている。


それで俺は器に盛られたシャーベットにさっき買ってきたクリームを少し垂らす。そして彼らに勧める。


フェリス「じゃあ、味見してみてください」


だが彼らはスプーンが進まない。俺が口に入れてさらに促すと、しぶしぶのように食べ始めた。ところが口に入れると表情が変わる。


リアナ「え、なにこれ?」

部下「何入れたんですか?」

レオーニ「これはクリームだね」

さすがにレオーニ氏はわかったようだ。


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