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冒険への訓練(下)

 レナルドからは体術も習うことになる。そういえば前にワルスに脅されたときに、ロレンス司祭が体術を習っておいた方がいいと言っていた。


体術は武器を使わない投げや拳や蹴りを入れた格闘術だ。剣すら持ち込めない場所もあり、また持ち込めても剣を使うことが大事になってしまう場合もあるため、体術をつかえるとかなり有利になる場面は多い。


もっともそんな荒事に巻き込まれないのが一番なのだが、この世界はそうもいっていられない場面が多いのだ。


ふつうに暮らす分にはそれほどでもないが、冒険や旅や商売となれば一定の自衛は必要だ。貴族や大商人なら護衛をつけられるが庶民ではそうもいかない。



 投げも拳も蹴りも基本的な型を習って後はそれを繰り返す。そしてある2人組になって、一方は受け身となり他方は基本的な型を仕掛ける。


投げについては中学時代に学校の体育で習った柔道で似た技もある。自由な格闘となるのはずっと後だった。


これでもシンディはそもそも俺たちより少し体が大きく、やはり上手だった。シンディには一生武術では頭が上がらないのかもしれない。




 実用本位なのかもしれないが、拳や蹴りがあるあたり結構危なっかしい武術だ。そちらに気を取られると今度は投げられたりもする。


ただレナルドは攻撃だけでなく受け身や防御も重要だという。スコットの話だと冒険者になるにしてもうまく逃げる技術も必要らしい。


その辺確かに重要だと思いつつ、シンディとの試合では逃げるのはルール違反だが、できるだけ攻撃されないように対処しつつある。



 スコットも今まで以上に俺たちの面倒を見てくれるようになった。


それまでは子どものおもりが半分だったかもしれないが、本格的な訓練も入りだした。




 スコットはあるとき俺たちに写生の練習をするように言ってきた。写真のないこの世の中では記録用に写実的な絵が描けると何かと便利だという。


画家で冒険者もいるし、画家とまではいわなくても冒険者の中にスケッチ程度ができるものは結構いるとのことだ。


写生のできるメンバーは仕事の上で便利なことが多いため、写生の能力があるとパーティに入るときにアピールになるという。


また写生とは異なるがフィールドでもダンジョンでも地図をかくことが奨励される。


測量術を用いた技術的な方法もあるが、そこまでではなく目分量で大まかな地図をかければ冒険には極めて有利である。




 絵を描いているとき俺とシンディはさんざんだ。


ある時にクロを写生することになった。他の人には犬の姿に見えているので、俺のだけまったく別の絵になってしまうのではないかと心配していた。


だがそんな心配は全くの杞憂だった。俺の絵がヘタすぎてとうてい動物に見えない代物だったため、猫と犬の差などからはかけ離れていた。


シンディも座ってペンを動かすなどというのはうまくないようで、書き損なったりペンをひっかけたり紙を破いてしまったりでまともに絵がかけている様子ではなかった。




 その点、マルコが結構うまい。初めから粗削りながらもきちんと形がとれていた。


「お、ちゃんと絵になっている」

「意外ね、マルコが一番うまいなんて」


うまいと褒められるとさらに入れ込むのか練習してさらに上達する。マルコは家でも絵を描いているらしい。


はじめは形がとれていたくらいの絵も、だんだんと線に迷いがなくなり、もともとマルコの趣味のコレクションや博物学の記録のために図を書いたりはしていたとのことでマルコらしいといえばマルコらしい。



 写実的な絵をうまく書くための補助具がある。平べったいA5サイズくらいの軽い木の枠で、外側は細長い木でできており、内側は中空である。


中空部分には縦3本と横3本の細い針金がそれぞれ等間隔に渡してある。そこでこの枠を通してみると縦横がそれぞれ4等分され16個の小さい画面の集まりに見える。


絵を描く紙の方もあらかじめ4等分の薄い線を引いておき、補助具を通してみた光景を紙の各マスに写し取ることでおおよその形が採れる仕組みである。


「へえ、便利なものがあるんだな」

「これを使えば簡単に描けるわね」


そういうが、案外そうでもない。前よりは破綻がなくなったがやはりあちこちガチャガチャだ。


マルコは補助具なしでもうまいが、補助具があるとより正確だという。俺から見てもあまりよくわからないが、そこがわかるところでうまい絵が描けるのだろう。




 俺もマルコを見習って家でもクロ相手に絵を描く練習をしていた。やはりうまくない。


「ブッ、ファッ」

神が念話だが俺の絵を見て爆笑している。さいわい他の人には聞こえないが、なんとも不愉快だ。


「お前も描いてみろ」

そう言うと、神はほとんど写真のようなクロの絵をあっという間に仕上げていた。


出来上がりはほぼ写実だが、神は難しい顔をして

「クロたんはもっとかわいいものねえ」

などと言っている。


さえない中間管理職のような神でもこんなことだけはできるのだ。


そんなしょうもない2人? をクロが前足にあごをのせて眺めていた。

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