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レオーニ氏の食べ歩きトラブル

 クルーズンの西側の地方の山間の町グランルスから南のモンブレビルにいる。


(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)


 俺がグランルスでごたごたを片付けていた間に、旅行に同行していたレオーニ氏は先にリアナたちとモンブレビルに行ってシャーベット研究のための食べ歩きをしていた。


はじめは全部の店で丸ごと食べようと頑張っていたが、さすがにそれは無理だと悟ったらしい。みなで頭やお腹を痛くしてしまったのだ。


そこで何とか妥協してシェアになったが、全部の店を食べ歩くのは続けたそうだ。レオーニ氏のトラブルはそれだけでなかったとのことだ。この辺は後でリアナから聞いた話だ。


 シャーベット売りの方も単に売れればいいと思っている商人みたいな人もいれば、自分で作って自信を持っている職人みたいな人もいるようだ。


それで職人タイプとなると、一口食べて他に回してしまうと言う食べ方をされると面白くなかったようで、文句を言ってきたそうだ。


職人「あんた、一口食べてもう食わんで、なんか気に入らないことでもあるのか?」

レオーニ「あ、いやね、シャーベットの研究のために全部の店を食べ歩いていてね。初めは全部食べていたんだが、すぐに頭やお腹が痛くなってさすがにやめたんだよ」


職人「うちのシャーベットはそこいらのとは違うからな。そんな見境いなしに食べとらんで、ちゃんとしたのをきちんと食べてよくよく検討することだな」

レオーニ「うん? お宅のとよそのとそんなに違うかなあ?」


それを聞いて、リアナは「あっ、よけいなことを」と思ったそうだ。ただ公平を期すなら、確かによそと大して変わり映えのしない、さほどのものでもなかったという。


職人と言っても手を抜くタイプのあまりよろしくない方の職人だったようだ。そして彼は顔を真っ赤にして声を荒げて怒鳴りつけてきたそうだ。


職人「お前に何がわかる!」

レオーニ「うん? でもこれあまりなめらかでないし、凍り方は均一でないし、果物の繊維も残っているし」


また余計なことをとリアナは思ったそうで、案の定、職人は収まらない。

職人「はっ、素人が口じゃあ何とでも言える。おめえにはこんなもの作れまい。偉そうな口をほざくな!」

レオーニ「ふうん。氷さえ用意してもらえれば作っても構わないが」

職人「言ったな。それなら氷はやるから作ってみろ! 満足なものが作れなかったら、うちでしばらくタダ働きしてもらうからな!」


そう言われて、レオーニ氏は勝負を受けたそうだ。相変わらず料理のこととなると、後先考えないところがある。リアナも弟子もレオーニ氏を一人にするわけにはいかず、勝負の場について行ったそうだ。


レオーニ氏はあてがわれた調理場につくと手際よく果物にナイフを入れて中身をくりぬき、果汁を絞って甘みや酒を加えてから凍らせる。


リアナ「ずいぶん手際がいいですね」

レオーニ「ああ、むかしやったことがあってね」

それから凍らせるのに時間がかかるが何度かかきまぜた程度で、大したことはしていなかったという。


リアナ「こんなのでいいんですか?」

レオーニ「うーん、それはいま考えているんだけどね」

リアナ「いまから考えていて大丈夫なんですか?」

レオーニ「ああ、あれよりはうまくできていると思うよ」


リアナは不安を感じるが、レオーニ氏はひょうひょうとしていたらしい。


実際に食べ比べることになって、本人たちはもちろん、リアナと部下や職人の方の知り合いも入ってそれぞれのシャーベットを食べ比べた。


すると味の方は歴然で、レオーニ氏の作ったシャーベットは滑らかで後を引くもので、まったく格が違ったという。向こう側の審査員の方もあまりに差が歴然として声が出ず、なにも言い出せなかったそうだ。


レオーニ「これでいいかな?」

職人「なっ、なんで、よそ者のお前が作れるんだ」


レオーニ「このシャーベットの作り方はずっと前にこの町で別の職人に習ったものだ。とは言え見ての通りたいして難しいことはしていない。ただちょっと手順が多いだけだ」

職人「そんな手間をかけていたら商売にならん」


レオーニ「いや、お宅のシャーベットもそれほど安くないだろう。徒弟を使ってこれくらい作っても採算は取れるはずだが……」


そう言うと職人の方はうなだれてもうぐうの音も出なかったそうだ。モンブレビルは観光地だけに大したものでなくてもけっこうな値段を取っても売れてしまう。


それで手抜きのシャーベットが作られたらしい。何かどこかのグルメ漫画で聞いたような展開だ。


けっきょくレオーニ氏の方は相手を追及したりもせず、それでそのまま後にしたそうだ。


リアナ「さっきは調理中に考えているなんて言っていたので心配しましたよ。十分美味しいじゃないですか。これでまだ何か研究しないといけないんですか?」

レオーニ「うーん、他人に習った者そのままというのも進歩がないしね。しかもこのままじゃ出資者たちが納得しないよ」


リアナは安心したが、同時に心配させないで欲しいと思ったという。


俺がその話を聞いて思ったのは、相変わらずトラブルを起こしているなあというのと、やっぱりレオーニ氏は調理の腕と知識については大したもので、それに全振りしてしまったんだなあということだった。


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