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140. レオーニ氏との雑用談義

 クルーズンの西側の地方の山間の町グランルスから南のモンブレビルにいる。


(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)


 モンブレビルは高山モンブレのふもとの町だ。高地から下ろした氷でシャーベットが名物になっている。


それに同行のレオーニ氏が目につけた。それはいいのだが、いいかげん帰らないといけない時期なのに彼は帰ろうとしない。


見栄えのする新メニューができれば、ふだんの店のことはどっちでもいいらしい。



 確かに彼の店の留守番のマンロー氏も新メニューができれば2か月空けてもいいとは言っている。だけどすでに1か月は過ぎていて、あと1か月で済むのだろうかと思う。


レオーニ「旅に出るとね、いろいろ新しいものも見れて、刺激があるんだよね。それに雑用もしなくていいから研究の時間も取れる」


刺激があるのはその通りだろう。やはり外に出ると新しい発想が出る。ただ雑用しなくていいのは他人がそれをしているからだ。


もちろんややブラック気味とはいえ、彼の店はきちんと給料を払っているのだから、それが許される面もある。


フェリス「雑用は他の人がしているんじゃないですか?」

レオーニ「まあ、それもあるんだけどね。ただ誰もしなくてもいい雑用もあるんだよ」


それはわからないでもない。組織や人間関係ができると、誰かが言い出してしまったとか念のためとか慣習でとかでする雑用も多くなる。


どこかで切り捨てないといけないし、多くの人もそれを望むのだが、誰かが頑張ってしまって残り続ける。


フェリス「うーん、むずかしいですね」

レオーニ「お、君もわかるかい。そうだよな、君も店主だもんな」

俺の外見は相変わらず10代半ばなのでそうは見えにくい。実は中身はもう50年以上生きているわけだけど。


フェリス「とはいえ、そう言う雑用ばかりでもないでしょう」

レオーニ「お、よくわかるね。あいかわらず君はとても10代には見えないね。だけど僕はちゃんと下ごしらえなんかもこなしているよ」


確かにレオーニ氏は下ごしらえのようなそれこそ部下にさせてもいいようなことでもきちんとする。


実はそういうつまらない雑用のようなことの繰り返しが、新しいものを作るときの基盤になることもある。だから分業などと言って基礎部分の手を抜いていると、発展部分もダメになることは少なくない。


物事は全体を意識に十分に食い込む形で体験しないと、何か作るときに変な形のモノを作ってしまう。そういう意味ではレオーニ氏はきちんとしている。


ただなあ、彼の場合、調理に関しては雑用でも積極的にしそうだが、それ以外のマネジメントの方は怪しい。


フェリス「調理以外の雑用はどうです?」

レオーニ「まあ……ね。それはそれで、人には得意不得意もあるから」


それもそれで正しいのだが、まったくしなくていいと言う理屈にはならないと思う。


やっぱりマネジメント方面を避けていて、それを等閑視しがちだから、マンロー氏の苦労が絶えないのだろう。


フェリス「マンロー氏の苦労も少しは考えてあげてください」

レオーニ「そりゃそうだけど、新しいものを作ろうとしたら時間が必要なんだよ。何かはあきらめないといけない」


うーん、あきらめると言うのは、したいけれどあえてしないと言うことだ。たぶんレオーニ氏はマネジメント方面はしたくなくてしていない。あきらめると言うのはどうかと思う。


それから新しいものを作るのに時間が必要というのはその通りだ。あとから見ればダメだと言うことでもとにかくいろいろ試さないといけない。それで時間がかかるのはわかる。



 ところで新しいものを作るのもいろいろな側面がありそうだ。俺の方が実は新しいものを作っている。前世から持ってきただけだけれど、彼らにとっては新しいものだ。


ただそれを実現するために細部でいろいろ乗り越えないといけないところで、俺の方は全然だめなのだ。それは基本的な調理の技量が未熟だからだ。


その点はレオーニ氏は圧倒的で、確信をもってあまりに面倒でつらいことでも平気でやってのける。それで新しい途を切り開くのだ。


この前の豆腐肉もそうだった。あの元のアイディアは俺のものだったが、肉らしく仕立てたのはやはり彼だ。俺ではとてもできなかった。



 ただ技量だけでもダメで、やはり新しいものを作ろうとする意欲というか、そういう習慣がないとなかなか作れない。


それが特定の人にだけ宿る才能とも思わないけれど、その状態にするのはなかなか難しい。するとやはりその状態になった人に新しいものを作ることを任せがちになる。


フェリス「おっしゃることはよくわかりますが……」

レオーニ「君の言うこともわかるよ。僕も店主だからね。だけど新しいものを作らないと店は続けられないんだ」



 なるほど、確かにその通りだ。確かにレオーニ氏は天才的だし、特権を持って彼の能力を生かす仕事だけするのもいい。


ただそれは彼が小さな店の店主だからだ。極端な話、彼の店がつぶれても、いくらか彼の部下は困るだろうが、大したことはない。


ただもっと大きな組織でそういう特権が定着すると、天才でも何でもないヘボがそう言う特権を欲しがるようになる。彼らは何かと理由をつけて、日常業務をさぼりだす。


そしてヘボが能力を生かしてもろくに新規性のあるものは作れない。ところが新規性があるように見せかけるようになる。


そればかりが称揚されて事業や組織を維持するための日常の業務をしても全く割に合わなくなる。そうなるともう組織はガタガタだ。


大きい組織で特権を認めようとしたら、よほど能力の見極めを厳しくしないとうまくない。


ともかく、どちらにしろレオーニ氏がいまシャーベットの追求をするのは悪くなさそうだ。


フェリス「わかりました。とにかくいち早くシャーベットの新作を作りましょう」

レオーニ「わかってくれたかい。うん、マンローも大丈夫ということだな」


そうくるか。彼はマンロー氏から俺だけに出した手紙があることやその内容まで見抜いてしまっているのではないかと不安になる。


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