冒険への訓練(上)
オーク退治のあとレナルドは俺たちに剣だけでなく槍や弓や体術も教えるようになった。今までもなかったわけではないが、大半は剣だった。
「剣こそが武術の華じゃないの?」
シンディが聞く。
「フェリスのあれがあるからな。俺だってオーク退治は槍を使った」
この時点でレナルドがシンディを俺といさせるつもりだったことにずっと後で気づいた。
「でも……、試合でも一騎打ちでも剣を使わないと」
「武術は人に見せるためのものじゃない。生き残らないといけないんだ」
試合や一騎打ちは目立つし人のうわさにものぼる。だから触れる機会が多いが、実際の戦闘場面はもっと地味で泥臭いものなんだろう。
フェリスはもちろんそんなのは知らないが、レナルドはもっと知っていそうだ。
確かに槍は強い。同じ技量のものが剣と槍を持って戦えば、ほぼ確実に槍を持つ方が勝つ。それどころかかなり弱い者でも槍の方が有利になるくらいなのだ。
ただ槍など持ち歩けるものではない。日本に比べれば武器を持っていい場所は少なくないが、それでも槍となれば持ち歩けないことが多い。
そもそも重い上に長いので常に上に向けておかないと歩きづらいのだ。剣ならば腰に下げておけばよいだけだが、槍となれば必ず片手がふさがる。
さらに槍は攻撃するにしても重い。あまり長い時間使い続けていると、手首あたりがくたびれてくる。
そんな理由でやはり剣を持ち歩く利点はあるのだ。
「槍の方が強いのはわかりますが、こんなに扱いにくいんじゃ、使えないのでは?」
俺は疑問に思って、レナルドに聞いてみる。
「例のギフトがあるだろう。強敵が現れたときにクロのいる拠点に戻って槍をとってくればいいんだ。それで使い終わったら元に戻す」
「なるほど」
やはりギフトは使いようなのだ。まさにチートと言える。これで剣術稽古もほどほどでいいと思っていると、何かかぎつけたのかシンディが口をはさむ。
「それならふだんは剣を持ち歩いて、ふつうの敵は剣で倒すのね。剣術稽古もしなきゃ」
考えたことが見抜かれたのかとドキッとする。もしかして読心のギフトでもあるのだろうかと心配になる。
訓練では槍以外に弓も使うようになった。弓も剣よりは持ち込めない場所が多い。またダンジョンなどでは広い空間でないと扱いにくいこともある。
ただ離れたところから攻撃できるのはやはりメリットである。オーク退治のときもはじめは弓を使った。弓は実は弦を引くのにかなりの筋力がいる。
だから的を狙おうとしても、そちらに気がとられてしまう。この辺は自由自在に引けるようになるまで筋力を鍛えないといけない。
ただそのうちにてこの原理を利用して簡単に引けるようなクロスボウを職人に作らせようかと思っている。すでにあるのかもしれないが。
矢を的に当てるのも難しい。初めて射たときなど全く明後日の方向に矢が飛んで行った。少し慣れても的の近くにはいくが的に当てることすらできない。これが的の中心などどれだけの練習が必要かわからない。
「これは難しいですね」
「そうだろ、さらに敵は動くし、こちらが攻撃されないように逃げる必要があることもあるしで、全く簡単じゃないぞ」
聞くだけでぞっとする。何年もかけて上達するほかないのだろう。
これについてもシンディは何か言いたそうにしているが、レナルドはフェリスと一緒にいるなら必要なことだと言って、フェリス・シンディ・マルコの3人に練習させていた。それでもうまいヘタはあって、嫌がりながらもやはりシンディが一番うまい。
たぶん集中の度合いが違うのだろう。弓を射た後に呆けていることがある。それはそれで戦いのときには危険な気もする。
もちろんマルコはうまくない。ただ剣よりは気に入っているようで、練習の時間以外もいじったりしていた。




