135. ヤクザ者の逮捕
西部旅行ツアーの企画でグランルスにいる。レストランのレオーニ氏と、うちの飲食部門のリアナとその部下の子と来ている。
(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)
この町の大手の飲食店が里の飯屋という小さな店に嫌がらせをしている。ヤクザ者をよこして店の営業を妨害する。
自警団が役にたたず、騎士を招いてヤクザ者に当てることにした。騎士の方は飲食を提供して来てもらうことができた。そして3日目に、無事に騎士とヤクザ者がぶち当たることになった。
騎士は毎日、入れ替わりで食堂に食べにくる。彼らはいつも個室に招いている。その個室の方は騎士が来るより前にヤクザ者が中を調べていた。そしていつも女子供がいたのだ。
だからヤクザ者はとうぜん個室の中は大した者はいないと高をくくっていた。
そして騎士が中で食事をしていると、ヤクザ者が嫌がらせに現れたのだ。
ヤクザ者「おーおう、なんともシケた店だな」
主人「お気に召されないようでしたら、どちらか別の店に行かれたらよろしいかと」
ヤクザ者「あ? なんか言ったか?」
主人「どちらか別の店に行かれたらよいかと」
ヤクザ者「誰も客がいないじゃないか。俺がいなかったら客はゼロだぞ。感謝してもらいたいな」
いやヤクザ者が騒ぐから他の客が寄り付かないだけだ。
ところでいつもは騒ぎにならないように、できるだけ穏便にヤクザ者が立ち去るのを待つのだが、今回は別だ騎士に聞かせるためにもできるだけ騒ぎを大きくした方がいい。
主人「いえ、あなたのような方がいるからお客様が来れなくなるのです」
ヤクザ者「あー、なんだぁ。俺にケチ付けようって言うのか?」
主人「どうかおかえりください」
ヤクザ者「おう、痛い目みたいのか?」
この辺で俺が陰で食器を割る。実はすでに割れていたものだ。わざと音を立てるのだ。
ガチャン。
主人「どうか、どうか、お静かになさってください!」
ヤクザ者「貴様いい度胸しているな」
主人「どうか、どうか、お静まりください。他のお客様にご迷惑でございます」
ヤクザ者「へん、客なんかいないじゃねえか。こんなしけた店、来るような間抜けの顔が見たいもんだ」
三門芝居をしているが、下手をすると主人がヤクザ者に殴られたりしかねない。
主人の方はあいつらを追い払うためなら少しくらいのケガでも構わないと言うが、それはできればなしにしたい。
しばらく押し問答していると個室にいた騎士が出てくる。
騎士「なんだ、誰の顔が見たいんだ?」
ヤクザ者の方は個室を背にしていてまだ騎士の顔を見ていない。
ヤクザ者「ああっ? こんなシケた店に来るもの好きの顔だよ」
騎士「ほう、それなら十分に見るがよい」
ヤクザ者が後ろを振り向くと、そこには大柄の騎士がいる。鎧までは来ていないが、長剣を帯剣しているのですぐに騎士だとわかる。そしておののく。女子供しかいないはずの個室に騎士がいたのだ。
ヤクザ者「あ、いや、なんでもねえ……、ありやせん」
何か言葉遣いが変になっている。
騎士「その方、いつもこんなことをしているのか?」
ヤクザ者「あ、いえ、あたしゃ、単に飯を食いに来ただけで」
騎士「ほう、それにしてはずいぶんとやかましかったな」
ヤクザ者はもうブルブル震え始めている。ヤクザ者の方も刃物は持っているが短剣に過ぎない。
騎士の方が持つのは長剣だし、ふだんから剣術の稽古をしている。とても相手にはならないだろう。
もし間違ってヤクザ者が勝ったとして、そうしたら今度は男爵領全体がヤクザ者を追い詰めるに決まっている。
もう実力ではどうしようもない。逃げようにも切りつけられたら終わりだ。あとヤクザ者にできることはどういい抜けられるかくらいだ。
ヤクザ者「いえ、ちょっとしたじゃれ合いでして」
騎士「ほう、それならワシの方もじゃれ合ってみるかな。主人、縄はあるか?」
主人はおろおろしているが、俺の方ですでに用意している。
フェリス「こちらにございます」
騎士「うむ、このヤクザ者を縛れ」
準貴族だけに平民など簡単に逮捕できる。もちろん犯罪の嫌疑もないのに簡単に逮捕すれば後で面倒になることもあるが、今回は完全に現行犯だ。
騎士に言われたようにヤクザ者を縛る。こちらの世界は前世よりやはり暴力が幅を利かせるところは多く、俺も縛り方くらいは心得ている。
フェリス「はい、縛り終えました」
騎士「うむ、せっかくの食事だからな。食べ終わってから引っ立てよう。ああ、詰所に行って従者を呼んできてくれ」
そう言って騎士は個室に戻り、食事を再開した。その間にリアナの部下が騎士の詰所にお使いに行き、騎士の従者を連れてくる
俺と主人は縛られたヤクザ者を見ながら居心地に悪い時間を過ごす。騎士は急ぎもせずに食べ、従者にヤクザ者を引き立たせて帰っていった。




