無事完成して、騎士を呼ぶ
西部旅行ツアーの企画でグランルスにいる。レストランのレオーニ氏と、うちの飲食部門のリアナとその部下の子と来ている。
(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)
この町の里の飯屋という店がトラブルに巻き込まれ、その解決を手伝っている。騎士を呼ぶのに料理を提供したいが、肉が仕入れられくなくなったので、豆腐で肉のようなものを作った。
別に精進料理というわけでもないので、肉の風味を出すために獣脂を使ってジューシーにする。かなり色々な方法を試す。
最後にレオーニ氏の作ったチーズソースをかけて肉料理としてなかなかのものができた。
フェリス「これはおいしいですね」
レオーニ「うん、思った以上だよ」
リアナ「肉なしでこんなものができるなんて信じられないわ」
部下「師匠の師匠だけあってすごいですね」
里の飯屋主人「ここまでのものはうちでもめったに出せませんね」
けっこうな評判だ。これなら自信をもって出すことができる。
フェリス「ではさっそく騎士の人を招待しましょう」
レオーニ「うん、そのことなんだが……ちょっと考えた方がいい」
フェリス「え? なんかありますか」
レオーニ「これ一品だけでいいのかい?」」
そう言われると、確かにそうだ。ただこれ以上、時間の余裕もない。また同じように新しい料理を作るほどの余裕はなさそうだ。
フェリス「それは確かにそうですが、これ以上新しいものを作るほどの時間はないかと」
レオーニ「うーん、それなんだけどね。他の料理はここまで完成度が高くなくてもいいと思うんだ。うちの店だって本当のメインはそんなにしょっちゅうできないよ」
フェリス「もっと簡単なものだとしてもそんなにすぐに作るのはちょっと難しいような」
レオーニ「君は本当によくわからないね。豆から肉みたいなものを作るなんてすごいことができるのに、肉ができてからそのバリエーションが考えられないって、不思議だ」
そりゃ、豆腐なんてものは前世で知っていたからすぐ作れたのであって、そこから広げるのは前世でふだん料理していなかっただけに難しい。
フェリス「どんな風にしますか?」
レオーニ「だってこれは肉みたいなものなんだから揚げたり煮込んだりいろいろできるだろう」
そう言われるとそうだ。あとはレオーニ氏が衣をつけてあげ焼きにしたり、シチューの中に入れたりして、いろいろな料理を作ってくれた。
フェリス「なるほど、確かにこういう使い方ができますね」
リアナ「ええ、十分美味しいわ」
そんなわけで騎士を呼ぶための料理はできた。ところで騎士を呼ぶことを決めた時点で、少し準備をしていた。
衝立やカーテンを使って店の中に個室を作ったのだ。さらにそれは店の裏から入れるようにする。
そこに騎士にいてもらって、ヤクザ者が来たら観察してもらう。十分な犯罪事実が見られたら逮捕してもらう。
ただヤクザ者だってみすみす逮捕されるような間抜けなことはしないだろう。連中はたいして賢そうでもない、そもそも賢ければ粗暴な嫌がらせなどしないだろうから。
とは言え賢くなくてもああいう連中は小賢しいことは得意だ。例えばうまく人の目を掠めてあくどいことをする。目先のくだらない工夫だけは得意なのだ。
そんな連中にとって中が見えない個室などあればあっという間に警戒するに決まっている。
そこで個室を作ってすぐにリアナや部下や店の主人の知り合いの子どもなどにいてもらうことにした。
ヤクザ者が中を確かめるが中にいるのは女子どもで、彼にとって恐れるような者はいないことに慣れさせる。
そうしていよいよ騎士を呼ぶことにする。一度男爵まであっているのだから、その部下の騎士たちを呼ぶのはそう難しくない。
さすがに俺たちの仕事ではないので、店の主人が領府に行って、彼らに来てくれと頼む。もちろん食事はタダと言う条件だ。向こうもその程度の付け届けには慣れている。
そう言うわけで騎士がやってくるので、裏口から入ってもらい、個室に案内する。
騎士「妙な席だな」
主人「ええ、他の方と顔を合わせずにお食事ができるようにしてあります」
騎士「そうか」
主人「どうかごゆっくりとお楽しみください」
騎士「その方の出す料理はちょっと変わっているが、なかなかの趣向だな」
主人「お気に召していただいて幸いです。他にもございますので、またいらしていただければ幸いです」
騎士「うむ。また来よう」
料理の内容を工夫したのがよかったようで、一回きりでないようだ。ある程度来てもらって、ヤクザ者と鉢合わせしてほしい。
なお騎士団などと言っても男爵麾下では数名だ。ただ数名が入れ替わりでやってくれば、ほぼ毎日来ることになる。
前世の日本では公務員にタダ飯食わせるなど考えられないが、前世でも海外ではその程度の便宜供与はないわけでもなかったようだ。
ところで騎士もずっといるわけではなく、1時間弱くらいだ。その時にちょうどよくヤクザ者が嫌がらせに来てくれるといいが、必ずしもそうもいかない。
ところが3日目くらいに、無事にニアミスをしてくれた。いや、わざわざ狙ってぶつかるように取り図ったのだから、それはそのうちぶつかるに決まっている。
主人も早く解決してくれないかとやきもきしていたようだ。俺の方もすでにかなり日数が立って滞在が長くなっているので、早くしてくれないかとすこし不安だった。
とにかく騎士が中にいるときに、ヤクザ者が暴れてくれて、無事に次のプロセスに進めることになった。




