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里の飯屋の主人の不安

 西部旅行ツアーの企画でグランルスにいる。レストランのレオーニ氏と、うちの飲食部門のリアナとその部下の子と来ている。


(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)


 いまは豆腐のようなものを作って、それを肉のように仕立てている。豆だけではもちろんそんなことはできないが、獣脂を使っているので、少し肉っぽい風味が出る。


試作品を作った後にレオーニ氏が介入してきて、いろいろな条件を片っ端から試すことになった。それ自体は必要な取り組みだろうが、とにかく大変だ。


ともかくそのかいあって、なんとなくよさそうな条件の組み合わせが見えてきた。



 ただ俺とレオーニ氏で意見が違うところがある。俺はとにかく、全部記録を取りたい。レオーニ氏は別に記録なんかいらないという立場だ。


何十回からなる実験を、人や状況が変わればまた何度も何度も繰り返してそれで修練すればいいと思っているらしい。


それに比べると俺は必要な情報は、豆油を搾りだすように絞り切りたいと思っているのかもしれない。



 ともかくそんな状況で、また新たな事態が起こる。豆腐を固めるにがりの代わりに水道回りの固まった金属を使っていた。


ところがいま仕事をしている里の飯屋の主人は掃除が行き届いていて、もともとあまりそれが残ってていなかったのだ。


金属を使用すると固まることはわかっている。せっかくの掃除が逆にまずい結果を生み出してしまった。


里の飯屋主人「もう、あの金属がありませんね」

レオーニ「やっぱり、あれがあるとないとで違いそうだな」

フェリス「なんとなくなしでも作れるような気もする」


前世でにがりなしで豆腐を作る話は聞いた覚えがある。ただどうするのかは全く覚えていない。いちおうこちらの世界に来てから実験してたまたま思いついたことにしている。


レオーニ「どうしたか思い出すんだ」

思い出せと言われても、やったことがないのだから思い出せるはずもない。嘘つくのもなかなか大変だな。いろいろ思い出すようなふりをするが、結局出そうにない。


主人「困りましたね」

フェリス「何とか思い出せればいいのですが」

レオーニ「うーん、もう新しく考えた方がいいんじゃないか?」


それならその方がありがたい。俺は今回はアイディアは出せそうにないし。


フェリス「ええ、そうしましょう。でもどうやって」

レオーニ「まあ、新しい材料入れるしかないな」

フェリス「新しい材料ってどんなものです?」

レオーニ「いろいろ考えられるけど、固まりそうなものというと小麦粉から試してみるか」


また実験のコースが始まるらしい。ただ滞在もちょっと長くなりすぎている。それにどうも里の飯屋の主人もあまり乗り気の顔をしていない。


フェリス「なんかご心配事がありますか?」

主人「いえいえ、大変ありがたいです」

そう言っても何か不安そうだ。


フェリス「何かありましたらおっしゃってください」

主人「それが……、実は蓄えの方が……」


つまり手元の金の方がそろそろまずいと言うことか。そりゃさんざん嫌がらせされて日銭も入ってこないだろうし。


フェリス「そんなにお困りですか」

主人「ええ、何というか……、店が上手く行っていないのを見て、貸した金を返せと言ってくる人が出てきまして……」


なるほど、さすがに半月くらいで貯金がなくなるとなるとどうかと思うが、そういうことか。


店を出すとなると金を借りる必要がある。それで誰かが融資したけれど、大手に嫌がらせされていま店が上手く行っていない。


店がうまくないとなると貸した方は取りはぐれることを心配する。それはそれであり得そうだ。


レオーニ「なんとかならないかい?」

レオーニ氏が俺に振ってくる。ふだん当たり前のようにこちらに注文を付けてくるレオーニ氏が、注文と言えば注文だが、頼ってくるのも少し面白い。


まあ、ちゃんとした店だし、この危機さえ乗り越えれば、金は返ってくるだろうから、貸すことは全く構わないと思う。


こういう時にどんなに気の毒や立派なことでも返ってきそうにない金を貸すのはなしだ。返ってきそうにないと言うことは、その事業にそもそもダメなところがあるのだから撤退も含めて見直すべきなのだ。


そういう時でもどうしても金を出すなら、あげるしかない。ただ今回は別に金を貸してもどうにかなりそうだ。


フェリス「なんとか用立てることはできます」

そう言っても主人の顔は浮かない。


主人「お申し出はありがたいのですが……、ちょっと金額が……」

そんなすごい借金なのだろうか。あまり無茶な借金だとさすがにこちらも貸すことはできない。


フェリス「失礼ですが、おいくらくらいなのですか?」

主人は少し悩んで、答える。

主人「ええ、300万ハルクです……」


拍子抜けする。店を出すならそれくらい借りるだろうし、全然大したことはない。


主人から見ると、見た目が子どもの俺がそんな金は出せないと見えるのだろう。確かに子どもの出せる額ではない。

フェリス「それくらいなら、すぐに用立てられますよ」

そう言うと主人は目を丸くする。

主人「え? 300万ですよ」

レオーニ「彼は子どもに見えても、けっこうな規模の商会の主人でかなり儲けているよ。お宅の店なら返せるだろうから借りておくといい」


まあその通りだ。とは言え、それって彼が言うことだろうか。まあ、彼らしいと言えばらしいけど。


そんなわけでとりあえず、借金の方はこちらで引き受けることにした。


後は気を取り直して、また実験に取り組めばいい。ただあまり悠長にもできないことはわかってきた。


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