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料理の実験の記録をつけているとレオーニ氏が疑問を投げかけてくる

 西部旅行ツアーの企画でグランルスにいる。レストランのレオーニ氏と、うちの飲食部門のリアナとその部下の子と来ている。


(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)



 グランルスで関わっている里の飯屋へのトラブルを解決するために騎士を呼ぼうとメニューの工夫をしている。


豆腐っぽいものを作り、それを肉っぽくするために動物の脂で焼いたら期待が持てそうだ。


それをしてみると、レオーニ氏ががぜんやる気を出して、いろいろなパターンで実験をしようと言い出し、それに付き合っている。



 レオーニ氏のやり方はなかなかすごくて、水の抜き方や油の入れ方や焼き方など、とにかくいろいろ考えられる組み合わせをすべて試している。


正確にはすべてでもない。すべてだと百通り以上にもなってとてもすべてはできそうにないからだ。ある程度見込みがないと、特定の条件はやめにする。


それに細かい組み合わせを全部することなしにある程度は省略している。ただ省略しすぎないようにしているのだ。それでも30通りくらいは実験している。



 リアナはすでに同じようなことに巻き込まれたことがあるためか、かなりお疲れ気味の顔をしている。


部下の子も疲れていそうだが、こちらは先が見えないのと、やはり技術が伴わないことでの疲れがあるようだ。


里の飯屋主人も大型店の嫌がらせで商売にならないので、こちらの実験に付き合っている。



 とはいえ、片っ端から試しているので、なんとなく色々見えてきた。俺の方はまた別の工夫をしている。


レオーニ氏が試した組み合わせと結果をぜんぶ表にして記録をつけているのだ。彼は天才的で試した組み合わせと結果を全部覚えているようだ。


ただいつまでも覚えていられるかどうかはまた別問題だ。それに彼だけ覚えていてもそれは大した価値がない。やはりみんなが知っている方がいい。


レオーニ「記録を取っているのかい?」

フェリス「ええ、その方がいろいろ把握できるかと思いまして」

レオーニ「これくらいならぜんぶ把握できると思うんだけどなあ」


たぶんそれは彼の才能だろう。元々の天与のものもあるだろうし、それ以外に今までの経験で磨かれたものもあるのだろう。


将棋や囲碁の棋士たちが手順を全部覚えるようなものだと思う。ただそういうやり方は俺のような素人にはつらい。レオーニ氏が俺に玄人になれと言うのはわからないでもないけれど。



 それだけでなく後々のこともある。記録がなければレオーニ氏だって一番いい組み合わせ以外の結果は忘れてしまう可能性が高い。実はそれ以外の利点もあるのだ。


フェリス「私だと今のところ全部把握するのは難しいですね。ただ記録するのは当面で把握する以外の利点もあります」

レオーニ「ほう、なんだい?」


フェリス「1つには記録をつけておけば、この実験に関わった以外の人もこの情報を使うことができます」

レオーニ「それはあるかもしれないが、彼らも実験を1からすべきじゃないのかい」


この料理が人前に出されるようになったとき、同じものを作ろうとする人も出てくるだろう。確かに専門的な料理人は実験を1からすべきかもしれない。ただそう言う人ばかりではない。


多数のメニューをこなす定食屋でちょっとこのメニューを付け加えてみようと言う料理人やあるいは家庭で作ってみようなどと言う人はそこまではできないはずだ。


フェリス「それをすべき料理人がいることはわかります。だけどそこまでしなくてもいい人も多くいます」

レオーニ「なるほどね。確かに君の言う通りだ。だけど、それって今考えることかい?」


実は記録する利点は他にもある。

フェリス「記録する利点は他にもあります」

レオーニ「ほう、なんだい?」


フェリス「また新たに条件が付け加わったときに、この記録が役に立ちます」

レオーニ「うーん、その時はまた1からやり直した方がいいと思うけれど」


なるほど、そうやって部下たちに修練を積ませ、さらに自分の感覚を磨き続けているのだろう。


その辺は俺はその類の修練は全員には必要ないと思っている。レオーニ氏の店のような高級店では料理人たちに必要かもしれない。


ただ俺の商会の下にあるチェーン店の料理人にはあまり必要だと思っていない。その辺の違いはありそうだ。



 それからもう一つたぶん考え方の違いがある。俺の元いた世界の日本では識字率は99パーセント以上だった。


だがこちらの世界のこの国ではそれよりずっと低い。レオーニ氏は読み書きできるが、彼の部下は必ずしもそうでもない。


だから皆が読み書きできる前提で物事を考えないのだ。この辺の隠れてしまって意識しない前提は、物事を考えるときに見えない障害になる。


彼は彼で皆が読み書きできるとは限らないという前提を取るし、俺は俺で誰もが読み書きできるという前提を取ってしまう。



 それはともかく、いろいろ実験しているうちにかなりよさそうな条件の組み合わせが見えてきた。ところがある問題が起こって、やはり条件を考え直さないといけなくなってしまった。


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