豆腐が元の肉もどきに一工夫
西部旅行ツアーを企画でレオーニ氏とリアナとその部下といまはグランルスにいる。
グランルスでツアー向けに契約してた大手の食堂の内容が悪いので発注はやめて、小さい食堂・里の飯屋との契約を結んだら、大手から嫌がらせをされる。
仕入れに圧力をかけ、悪い噂を流し、さらにヤクザ者を店の内外によこしてきた。自警団を頼むが頼りにならない。そこで今度は騎士を呼ぶことにした。
男爵も呼べたので来てくれるだろう。騎士が好みそうな食べ物を出したいが、肉が手に入りにくい。豆腐のようなものを作って何とかできないかと工夫している。
にがりの代わりに石を入れた者は案の定失敗だった。次はさっきの水分の多すぎる豆腐にトライする。
ざるに紙を敷いて豆腐を載せ、重しを載せておいた。そちらの方の様子を見てみる。するといい感じに水分が抜けて、わりと塊っぽくなっている。
フェリス「何となく期待できそうだな」
レオーニ「割としっかりしている感じだね」
リアナ「早く味見してみたいわ」
里の飯屋店主「ええ、期待できそうです」
さっそく焼いて食べてみることにする。
すると……、正直言うといまいちだ。
フェリス「うーん、ちょっと期待外れだな」
レオーニ「肉ではないね」
リアナ「まあこれはこれで一つの料理だとは思うわ」
褒められているのかけなされているのかわからない感想だ。
店主「ちょっとこれだと騎士の方はお気に召さないような気がします」
ずいぶん控えめな言い方だ。
あまり評判はよくないが、ある意味始めからわかっていた。
だいたい前世でチキンナゲットやハンバーグなどを肉をケチって安く上げるために肉の中に大豆たんぱくを混ぜ込んでかさましする手法があって、たいていおいしくなかった。
それを考えたら、大豆たんぱく100％なのだから肉の味を期待するだけ無駄だ。そのままではどうしようもない。
フェリス「いまいちだということは初めからわかっています。どうにかおいしくすることを考えましょう」
レオーニ「そうだな。見つかったばかりの食材だものな。これから工夫次第でどうにでもなると思うぞ」
リアナ「こんな見たこともない食材、どうしたらいいかわからないわ」
店主「ええ、本当にできるのでしょうか？」
それはやってみないとわからないとしか言えない。ただいまは可能性のあることをするしかないと思う。
もちろんそれでひどい負担になると言うならそれを避ける手もあるが、可能性があってそれほど負担にならないのであれば取り組むのが第1の選択肢になるだろう。
レオーニ「フェリス君はどう思う？」
フェリス「とにかくやってみるしかないかと」
レオーニ「うん、そうだ。やっぱり君は面白いよ。こんな変なもの考え付くしね」
実は考えたのは俺じゃないのだが、前世のことを話せない以上は、この世界では俺が考えたという他ない。
レオーニ「それでやってみるのはいいけど、どんなふうにしてみる？」
この問いは結構簡単だ。
フェリス「いま大豆汁の素材に何も付け加えてはいません。これにいろいろな味を載せるのがまずは第一かと」
レオーニ「そうだね。まずそこだね」
何か俺にというよりむしろリアナに、場合によっては里の飯屋の主人に教育をしているような感じだ。
ふだんの行動はとても人に教育などしてもらっては困るところだが、料理に関してだけは大変に頼もしくなる。
レオーニ「まずは肉を焼くときのように塩やハーブを使ってみよう」
前世だったらスパイスを使うところだろうが、この世界ではスパイスはまだ高級で入手が難しすぎる。
レオーニ氏がいる都会の高級店ならともかく、ここでは使えない。
ただハーブの方は近くにも生えているし、栽培している者もいて、わりと入手しやすい。
塩とハーブを使って先ほどの肉もどきを焼いてみる。するとさっきよりはいい。
フェリス「さっきよりはいい感じかな」
レオーニ「確かにそうだね」
リアナ「でも肉というには全然もの足りないわ」
主人「ええ、さっきよりはずっと魅力的になりましたが」
レオーニ「まあ、確かにそうだと思うよ。でも調理法を変えてみて、確かに変わったんだよね」
それはその通りだ。つまり絶対に上手く行くとは限らないが、変えうる手段はいくらもあると言うことだ。
レオーニ「何が足りないと思う」
リアナ「なんというか風味がいまいちなのよね」
その辺は肉そのものじゃないから仕方ないところもある。
レオーニ「風味か。どうしたらいいと思う？」
そう言ってレオーニ氏は俺たちを見回す。みな困っている。ただふとあることを思いついた。
フェリス「肉そのものは無理にしても、脂は手に入りませんか？」
レオーニ「うん、それはいい考えだ」
脂は肉に比べると余ることが多い。それに脂はじつは風味づけでは大変強力なのだ。
ステーキを焼くときもよい脂を入れるとおいしくなるし、ポテトなども獣脂でジューシーになる。
そんなわけで脂が入手できないか、探ってみることになった。
