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5. ギフトを受け取る(上)


 そうやって少しずつ成長して5歳になった。教会に置かれた日が6月3日だったので、その日を2歳の誕生日と考えることにした。歩きも言葉も大人ほどではないが、どんどんうまくなる。


話す方は5歳にしてはかなり難しい言葉が使えるらしい。それはまあ中身は40過ぎのおっさんだからわからないでもない。ただ日本とこのリオーヌ王国で社会の成り立ちが違うからか、日本で当たり前のことを言っていても、ときどき変な顔をされる。しみついた常識というのは恐ろしい。


とはいえ、変なことを言っていろいろ試すのは子どもではありがちなことだから、特に問題にもなっていない。





 神は相変わらずクロのところに入り浸っている。クロもしつこい男に慣れたのかあきらめたのか、いまでは神のところにもすり寄っていく。


「うーん、いいこでちゅねー。おいしいごはん食べましょうねー」

こんなことを言って、人間の食べているものよりずっといいものを与えられているのだから、そりゃ猫もすり寄るのかと思う。


そうは言ってもそこは猫の矜持なのか、時々指導が必要だと思うのか、もらったものに見向きもしなかったり、砂をかけるような動作をしたり、思いついたように引っ掻いたりと、神相手にやりたい放題だ。もちろん猫だから許される。というより許すかどうか決めるのは猫の方といえる。




 なお人間の食べるものは日本よりずっと粗末である。それは時代のせいもあるだろうし、田舎村だからというのもあると思う。だいたい冷蔵庫もないし、


いちおうわずかな流通がないわけでもないが、ほとんどは自給自足である。麦がゆや粗末なパンそれから野菜と時々とれる肉などを食べる。塩味主体でスパイスなどもない。


パンだってバターたっぷりとはいかないし、たぶん麦の保存や加工技術も未発達なのだろう。転生があると知っていればそれらを調べてきただろうが、そんな準備はできるはずもなく、悔いても仕方ない。


ただ粉からお好み焼きを作ってみたり、骨からスープをとってみたりと、できることはしてみる。


だけどソースも鰹節もない。マヨネーズは卵と酢を混ぜ合わせてそれらしいものを作ったこともある。これはこれで何かに使えるだろう。




 5歳児がそんなことをしているのを見て、ロレンス司祭は「この子は何か非凡なところがある」などという。


それはまあ猫のおもりに異世界転生したおっさんなどめったにいるものではない。


日本で食べていた程度のものが欲しいだけだ。神にねだってみたが、猫相手と異なりずいぶんとケチになる。猫が言葉をつかえるなら、もらいたい放題だろうにと思う。


いずれ都に行ってもっとうまいものを食うことにしよう。もっとも日本ではコンビニに入りびたり、ジャンクなものばかり食べていたので、その点では少し健康になっているのかもしれない。


ただゆっくり起きて、お昼寝もして、夜も早く寝る5歳児なら健康なのも当たり前ともいえる。




 ところで生活に追われて、と言っても幼児の仕事で寝て・遊んでばかりだが、ともかくチートのことを忘れていた。神にチートのことを聞いてみる。


神は「やべっ、忘れてた」と言わんばかりの顔で、「ううむ、チートだったな」などと言っている。

俺は「こいつ、忘れていたな」とばかりにジト目で見る。

「いいや、ちゃんと覚えておったぞ」


こちらが聞いていないのに、わざわざ覚えていたなどというところが怪しい。


「まあ、いろいろ準備もあるのじゃ。クロ様のところに戻るスキルだったな。だいたいお主はまだクロ様から遠く離れるなどということもなかったろう」


いつの間にかクロがクロ様になっている。


「さらにそれに加えて元いたところに戻れる能力もつけてください」

「まあそれくらいなら、大した追加はない、近いうちに持ってくるから待っておれ」


そういいながら、何日たっても神はチートを持ってこようとしない。その割にはクロのところに入り浸っている。


あれはどうしたんだと問い詰めてみると、発注とか調整とかいろいろ面倒なことがあるなどと言い訳する。


発注はともかく、調整なら猫の世話をしている間にすればよさそうなものだ。それも言ってみたが、

「お主とて、締め切りがあるのにネトゲをしたり、フェスに行ったこともあろう」

などと言われると、こちらも言い返しにくい。


神はだんだん気おくれしたのか、俺がいない間に猫を触っているようだった。


外に行ってクロのところに戻ってくると、司祭では出せない食べ物が残っていたり、クロが爪を研いだ壁が直してあったりしていた。




 そんなこんなはあったが、とうとう神はチートを持ってきた。

「お主に神よりのギフトを授ける」


自分で神というか、ふつう。しかもさっきまで「クロちゃんいい子だねー」なんて言っていた口で言われてもありがたみがない。


おれは「へいへい、お願いしますよ」と軽口をたたいて神のすることを待った。神は俺の額に右手を当てて、何やら唱えている。


しばらくすると体がぽかぽかと温かくなり、鈍く光りだした。

「これで完成じゃ」


さっそく、どんな能力か聞いてみる。

「試してみるがよい。まずはクロ様から少し離れる。そしてクロ様のことを念じつつ、壁や地面に向かって手のひらを向ける。さらにクロ様のところに戻りたいと念じれば、ホールが開く。やってみよ」


実際に少し離れて壁に向かってやってみると小さい穴が開いた。


「これじゃ、通れないのでは」

「通るかどうかはお主が通したいかどうか念じたかによる。何か一緒に持っていきたければ、そのものを通そうと念じればよい」


そこでホールに通りたいと念じつつ飛び込んでみると、真っ暗な空間に入り込んだ。

「そのまま進めばよい」


実際にそうしてみると1mくらいすすんでクロの目の前に出ることになった。クロが目をあんぐりさせている。後ろを振り返ると空間に穴が開いている。


「この穴を閉じるのはどうしたらいいのですか?」

「この穴は他の者には見えないし、また放っておけばいずれ閉じる」

「いずれとはいつ?」

「いずれはいずれじゃ、お主が念じたもの以外通れないのだから気にすることもない」

「それで元のところに戻るにはどうすれば?」

「その開いているホールにまた入ればいい」

「どれくらい後までホールを使って戻れますか?」

「それはわからん」

「いや、それでは困ります。旅に出てクロのところに一晩泊まって、また旅をつづけたいのです」

「注文が多いのう」


クロがもっとうまいものをよこせと言えばニコニコして持ってくる神だが、俺の要求には面倒そうだ。推し以外興味ないのもわからないではないが。


神との交渉のためにクロを取り上げてジト目で見る。神はため息をついて、早くよこさんかとばかりに見ている。


「わかったわかった。1日くらいはホールが残って帰れるようにしよう」


神はあらためて何か唱えている。よしっ。これでかなりのチートだ。早速後ろに置いたクロを神に差し出すと、神は奪うように取り上げた。


「よーしよーし。ひどいことされたね~。」

クロさえいれば満足なのか。


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