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里の飯屋のメニューを考える

 西部旅行ツアーを企画していてそのメニューを考えるために、レオーニ氏とリアナとその部下で西部を旅行している。いまはグランルスにいる。


(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)


 グランルスの大型の飲食店にツアー客の食事を頼んでいたが、どうもあまりよい店ではないらしい。


そこで評判のいい「里の飯屋」という小さな店に変えることにした。客席は少ないが、宿の方の食堂に出張してくれるとのことだ。



 そうすることになったら、レオーニ氏がちょっと介入したくなったらしい。


店の主人を呼んで、レオーニ氏は料理をふるまう。主人はずいぶんと感服しているようだ。


主人「本当に素晴らしい。どの皿も多くの工夫がなされています。どうしたらこのようなものができるのですか?」


あの大型店の店主とはずいぶん反応が違う。それでレオーニ氏も満足なようだ。


レオーニ「このスパイスは少し熱を加えると香りが立つ。このハーブの方は逆にあまり熱は加えない方がいい。初めから入れず最後に振りかけるくらいでいい。こっちは2回使う。1回は肉の中に刷り込んで、もう1回は全体に振りかけて……」


やたらと早口で延々と説明が続く。だんだんわからなくなってくる。だが店主は真剣に聞いているし、一緒にいるリアナと部下もだ。一人だけ話を止めるわけにもいかなくなる。


さすがに疲れたのかレオーニ氏の話が止まる。これで別の話になるかと期待したら、そうはいかなかった。主人が質問しはじめた。


主人「あちらの小皿ですが、肉がずいぶん柔らかい。あれはどう処理したのですか」

レオーニ「いいところに気づいたね。それはね……」


また延々と話が続く。さらにリアナや部下まで質問しだして、ますますついていけなくなる。うーん。俺はそろそろクルーズンに帰った方がいいような気もしてきた。


ただまだグランルスの南のモンブレビルまで入っていないんだよな。あそこも行っておかないといけない。しかもクルーズンの商会の方は特に急ぎの用もないようだし。



 話がさすがに尽きたかと思うと、こんどは実際の調理に入ることにしたようだ。それでもまったくわからない話を聞くよりは少しは気が楽になる。材料もすでにずいぶんと用意している。



だがそれからも全然楽ではなかった。次から次に手を動かさないといけない。レオーニ・主人・リアナの3人はあまりの手早さで作業をしている。


部下の子はちょっとついていけていないようだ。俺が一番ついていけないわけだけど。さらにそこでされている議論の方もわけがわからない。


俺がレオーニさんの下で働いていたときは無茶苦茶だったと思うが、それでも気にはかけてくれていたようだ。


レオーニ氏が作った料理を再現するだけかと思ったら、店の主人が何か思いついたことを言って、その筋で新しいことを試したりもし始めてしまった。


また作業が増える。だがもうバーサーカーみたいになっている3人はもう止まりそうにない。部下の子と一緒にどうしたものかと顔を見合わせる。もう皿など盛らずに鍋から3人で直接試食している。



 さらに3人でコースの組み立てはどうするとか、いろいろ話している。

レオーニ「コースは7品くらいかな」

主人「こちらの野菜はこの季節にいいものです。ぜひ使いたいですね」

レオーニ「うん、そう言うものを使うのは大事だね。ただ一方で外の人相手にはこの地で有名なものも入れておかないとうまくない」

主人「なるほど。それなら1品目と2品目を……」

リアナ「それだとかなり似通っていません?」

レオーニ「うん、別の調理法もできそうだからやってみよう」


どんどん拡散していく。だいたい7品のコースなんて1人でやっている彼の店で多人数相手に作れるようには思えない。


フェリス「あのー、これかなり手間がかかっていますよね。レオーニさんの店は高級店で助手が何人もいるから作れますが、御主人の店で大丈夫なんですか?」

主人「いや、これはうちの店では作れませんよ。でもこういうのがあると知っておくのもいいものです」

レオーニ「うん、そうだね。その通りだ」

フェリス「それはどういうことです?」

主人「つまりですね、まだまだこんなおいしいものが作れるんだと言う目標になります。それに工夫すればもしかしたら、これに少しは近づけるのではないかとも思うのです」

フェリス「へえ、そんなものですか」

主人「ええ、できることだけやってこじんまりとまとまっていくと、どんどんつまらなくなります。こういう刺激は本当にありがたいです」




 けっきょくその日は彼らが拡散するだけ拡散させて作業していた。翌日はまたレオーニ氏の希望わがままで近隣の農場を見て歩く。


その翌日は里の飯屋の主人が来てくれというので行ってみると、おとといのコースをまとめて4皿にしてある。

主人「まず始めはこの地のものを、それからちょっと趣向を変えて季節のものを、それからメインで、最後につけ添えを」


もちろんレオーニ氏が作ったほどの手はかけていないが、それでも田舎の食堂で見られるレベルではない料理ができていた。これなら彼の店でもできそうな感じだ。


レオーニ「うん、これなら楽しめるね」


 ところでレオーニ氏はこんなに次々手の内を明かしてしまっていいものだろうか。店から帰った後に聞いてみる。

フェリス「あんなに全部教えてしまっても大丈夫なんですか?」

レオーニ「まあまあ、おいしい店ができてよかったじゃないか」

フェリス「料理人の人は簡単に自分の工夫した秘密を教えないと思っていました」

レオーニ「そりゃ、うちの店の核心の部分は教えていないよ。だけどこの離れた地方ならそれなしでも十分いいものができるしね」

フェリス「商人だから聞きますが、レオーニさんにとって何か得はありますか?」

レオーニ「彼もいろいろ教えてくれたし、こんごもまた何かのときは助けてくれると思うよ。僕も新しい食材を見て楽しめたからね」


こちらからするとありがたい。そう言うわけでこの町の契約先についてはほぼめどがついた。


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