すいとんの研究でぐったり
西部旅行のメニューを考えるために、俺とレストラン主人のレオーニ氏とその元部下でうちにいるリアナとその部下で西部を旅行している。いまはグランルスにいる。
(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)
グランルスについてうちでツアーのときに頼んでいる食堂で食事をしたが、いま二つの味で重苦しい雰囲気だった。
レオーニ氏あたりが店の中でまずいと言ってしまわないかとひやひやしていたが、幸いそれはなかった。
ところが店を出ると散々文句が出る。
リアナ「あれをお客さんに出していたと思うといたたまれないわ」
レオーニ「クルーズンの人には、あれはつらいだろうね」
部下「わたしもあまり食が進みませんでした。」
みんなさんざん言っている。ただクルーズンのように食堂の競争が激しいところではない。
そう言えば日本でも田舎の昔ながらの食堂ではいま一つのものを出し続けるところもあった。
うちの施設に行くと、シャンプよりは広い厨房があった。
フェリス「こちらの厨房でどうでしょうか?」
レオーニ「うん、これなら君らも作業できるね」
やはり頭数に入れられているのか。
けっきょく昼に食べた料理を作ってみることになった。レオーニ氏は生地の方もスープの方もいろいろ試している。
スープの方の取り方は相当念が行っている。仕込みだけで何時間もかかるのだ。
もっとも前世でも著名店のコンソメなどは数日掛けているらしいから、これでも簡易的なのかもしれない。
生地自体も仕込み方が数種類ある上に切り方も数種類あって、それにゆで方まで数種類あるから、全部で何十にもなる。
さすがにそれ全部は試せないから適当に組み合わせを間引きつつ、それでも十数種類となる。
これをまたいくつか作ったスープに組み合わせる。
ただそれだけの作業があるとなるともちろん助手として動員される。
リアナとその部下はあきらめ顔だったが、俺はいったい何が起こるのかとはじめはおそるおそるだった。
やってみると超絶肉体労働だった。生地こねは腰を使って捏ねないといけない。ああ、生地こね器がここにあれが、そう思う。
スープは野菜を炒めて、骨も煮込んで、水も入れてそれを煮込み、その間何度もかき混ぜてと、これもひたすら肉体労働だった。
うう、もっと狭い厨房だったらよかった。
試食してみると、さっきとは大違いだ。すいとん自体もさっきは少し粉っぽかったが、今回はそんなことはない。
スープの味も格段に違う。うまみと深みと香りとあらゆるものがある。さっきのものはまるで抜け殻のようだ。
生地の方も少し薄く伸ばしたものや、表面に少し模様をつけたものなど、スープをよくすって心地よい。
フェリス「さっきとは全く違いますね」
レオーニ「そりゃ、さっきのは料理じゃないよ」
リアナ「基本は同じなのにね」
部下「これならクルーズンで出してもおかしくないです」
つまり田舎料理だからまずいのではなくて、作る人の技量が足りず手をかけていないからまずいのだろう。
それでみな満足であればめでたしめでたしだったが、そうは問屋が卸さなかった。
麺やスープの組み合わせを片っ端から試すことになってしまったのだ。
どれもこれもほんの少量だけ味見する。おいしいのだがなんか物足りない。そうは言っても数十種類の組み合わせで、腹は膨れていく。
俺たち3人はうまいものを食べているはずなのに、先ほどの店と同じく、なにか言いたいような状況だった。もちろんお腹は思いっきり膨れてになってそれ以上入りそうにない。
レオーニ氏の方は組み合わせについて、ずいぶんいろいろ考えている。
レオーニ「うん、追加の実験が必要そうだ」
とてもじゃないが今日はしたくない。リアナたちも一様に顔が曇る。
フェリス「明日にしましょう。もう無理です」
レオーニ「だけど明日になったら食べたものの味を忘れてしまうよ」
フェリス「組み合わせについて、明らかにダメなのはわかりますよね。そうしたらそれ以外と新しいのだけ試せばいいのではありませんか」
そう言うと、リアナたちもうんうんとうなづいている。彼らももう今日はしたくないらしい。たぶん明日もしたくないだろうけど。
それでレオーニ氏も少し悔しそうだが何とか納得してくれた。
残りの材料についてはうちの現地スタッフに美味しく食べてもらうことにした。
だいたいこういう実験というのは複数日やった方がいい。それは気温とか湿度とかも影響するので、一日だけのデータだと怪しいところがある。
繰り返すのは繰り返すので嫌なのだけれど、それにしてもちょっときょうはもうこれ以上はしたくない。
もうくたくただが、レオーニ氏だからここまでたったの1日で結果が出ているのだと思う。
もっと無能な人だったら、もっといい加減なことをしてあいまいな結果しか出ていないかもしれない。それだけは感謝した方がよさそうだ。




