レオーニ氏と現地に行くことになる
西部地域のツアーで出す高級料理についてレオーニ氏に助言を頼むことになった。
レオーニ氏はリアナが作った試作品を見たいと言う。リアナの作ったのは地元で名物のジャガイモを使った料理と、薬膳に関する料理だ。
ジャガイモなどはふかしたり揚げたり焼いたりといろいろバリエーションがある。薬膳の方も多種の生薬があり、それをいろいろと使っている。
リアナはしばらく西部に滞在して、現地の料理を研究したりしていた。
「なるほど。あちらの地方の料理だね」
「さすがレオーニさんですね。よくご存じで」
「若い頃あっちの方にも行ったんだよ。数日だけど食堂の手伝いなんかもしていたし」
「へえ、じゃあずいぶんあちこち旅行したんですか?」
「うん、あちこち行ったね。北部の王都も行ったし、南部の方も歩いたし。気候や風土が違えば材料も調理法も違うよ」
リアナの方はかなり緊張している。とは言え、これを乗り越えないと西部旅行の飲食の高級化路線は難しくなるので仕方ない。
レオーニ氏は料理の皿を次から次に試している。ときどき目をつぶったり、つぶやいたりしながら、自分の皿に取って食べる。
皿の数も多いが、全部に手を出している。彼はけっこうな健啖家だ。一通り味見してから押し黙ってなにか考え事をしているようだ。少し気まずい時間が流れ、こちらから声をかける。
「それで、いかがでした?」
「いや、悪くないと思うよ」
少し安心するが、リアナの方はまだおそるおそるの顔をしている。
「ただわれわれもリアナ自身も何かちょっと物足りないと思っていまして」
「まあ、そんな気もするね」
「どうしたらよくなるでしょう?」
「ちょっと研究しないとわからないな」
「我々の方でお手伝いできることでしたらいたしますので、どうかよろしくお願いします」
「うん、ちょっと考えてみるよ」
何かぎびしいことを言われると思っていたので、少し拍子抜けだ。
リアナの方も少しほっとしたような顔をしている。そうしているうちに、レオーニ氏からの声がかかる。
「ところで、わたしも西部に行きたいんだが、いいかね?」
それは予想していたことだ。実際に現地に行きたいと言うのはわかる。あらかじめ織り込み済みだ。フッフ、たまには彼の先を読むこともだってあるぞ。
「ええ、もちろん馬車も宿も手配します。うちで一軒だけ食堂も持っているので、そちらの厨房も使っていただいて構いません」
「助かるよ。そうしてくれ」
いや、むしろこっちの方がわざわざ時間を取ってくれてありがたいくらいだ。
「とりあえず、2週間くらい向こうにいたいが、いいいかい?」
え? 2週間。別に滞在費用は構わないが、そこまで彼は店を空けていいのだろうか。
「ええと、可能ですが、レオーニさんの方のお店は大丈夫ですか?」
「まあ、それくらい空けるのはよくあるよ」
「はあ」
「君も来てくれないか?」
「えーと、それは……」
「君にも来てもらった方がいろいろ都合がいい」
「えーと」
リアナをよこしてくれまでは想像がついていたので、その分の人の手当は考えておいた。
もっともリアナはもう研究や開発の仕事が中心なので、ふだんの業務には組み込んでいない。
だから空けやすいと言えば空けやすい。講義と実習の代わりを見つければいいが2週間くらいなら何とかなる。
ただ俺の方は2週間空けるのはちょっとまずい。商会のいろいろな決定もしなくてはならない。
拉致されたことがあったから、俺がいなくてもある程度は回るようにはしてあるし、以前よりは権限の委譲も進めた。
それでもさすがに代表者が長くいなくなるのは上手くない。とは言え、俺が頼んでいて彼がそこまでしてくれるのに、手伝えないとも言いにくい。
「私が行くのはどれくらいの期間でしょう?」
「先ほど言った通り、2週間の予定だが」
さすがに2週間は困る。もちろんレオーニ氏も店主で、仕事を頼む俺が無理と言って彼だけ長くいるのがうまくないとは思う。
そうは言ってもうちの商会は商売が手広く、店主が判断しないといけないことも多い。
「こちらが頼んでいる立場で申し訳ないのですが、さすがにそこまでは無理です」
「うーん、じゃあ私の方は2週間いるけど、君の方は1週間ならどうだい?」
ちょっと微妙なところだ。とはいえ、なんとかなりそうな気もするし、
「ちょっと失礼ですが、店主がそんなに店を空けていて大丈夫ですか?」
「ああ、ときどき材料を探しに遠出したりもするんだ。王都や商都に行くこともあるしね。お客さんも評判になった料理ばかり頼みたがるから、弟子たちでも対応できるよ」
それならいいが、ちょっと心配もある。
「なるほど、それにしても店主がいなくて店の判断は大丈夫なんですか?」
「前に君に経営体制のことを言われて経営の方は別の人間に任せている。私の後援者の紹介だから安心できるよ。おかげで私の方は料理に専念することができる」
前に店の経営体制について少し意見したのに対応したようだ。さすがに無茶苦茶だったからだ。ただそれでますます経営を放り出すあたりが、レオーニ氏らしい。
「わかりました。1週間なら私もご一緒します」
仕方ない。さすがにこれでは断れない。クロがいるので毎日夜にはクルーズンの家に帰るつもりだ。
だから何か商会の方で緊急の用があれば、家に言づけておけば1日以内には処理できるだろう。
こっちはいろいろ心づもりして依頼したが、さっそく向こうのペースに巻き込まれてしまった。




