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レオーニ氏、実習に乱入

 西部ツアーの高級化路線を進めている。食事も高級化することになったが、リアナたちではちょっと難しい状況になった。


しかたなくリアナの師匠のレオーニ氏を呼ぶことにした。彼は料理の天才だが、料理しか見えずに周りを振り回すところがある。


今回も案の定やってくれた。アポイントもなしに商会に乗り込んできて、調理実習中のリアナのところに押しかけようとしていた。



 実習が行われている調理室の扉が閉まっているが、レオーニ氏は平気でガンガンとノックする。


「なに!? いま実習中よ。遅刻は厳禁と言ってあるわよね」

リアナの厳しい声が飛んでくる。だがレオーニ氏はひるまない。


「私だ。レオーニだ」

扉が開いてリアナが顔を見せる。


「師匠……、いまは実習中でして……」

そこは「実習中だから後にしてください」とキッパリ言ってほしかったが、俺もできていないのだから仕方ない。


「うん、どんなふうにするのか見てみたいな」

「入ってください」


いつも強気のリアナが、素直に従っている。とつぜん師匠が身に来たらやりにくいだろうに。止められない俺も俺だけど。師匠というより支障という感じだ。


受講者の方はきょとんとしている。巻き込まれた方も気の毒だ。



 実習が再開されるが、リアナはやりにくそうだ。そりゃ、師匠が見ているのだからやりにくいに決まっている。


しかもレオーニ氏はかってに実習台のところに立ち、受講生に交じって素材をいじったりしている。受講生の方も気が気でないようだ。流れるような手つきで、作業をこなすので、どうしてもそちらに注目が集まってしまう。


ここは多数の生徒が小さなステップを踏みながら、それなりの技量になってもらう教室だ。レオーニ氏の店のようにごく少人数に徒弟制で一流店の仕事を習わせるところじゃないんだけどな。




 リアナもやりにくそうだったので、耳打ちしてみんなにレオーニ氏の手技を見てもらうことにした。一回分時間が潰れるが、たまには変わったものを見るのもいいだろう。というより突然やってきた災厄で、何とか立て直さないといけない。


レオーニ氏を前に呼んで、実演をしてもらう。彼の方は嬉しそうで、いきいきと作業しだす。受講生の方が熱心に見ているのだけは救いだ。とは言え、こんなの彼らは再現できそうにない。


案の定、受講生の作業の時間になっても、まねすることもできない。レオーニ氏に促して調理台を回ってもらうが、もちろん指導などできはしない。


リアナが後から回ってもっと簡単な手順でフォローしまくる。何とかリアナがもっとずっと優しいことをさせ後始末をして、どのグループもそれなりのものができた。


レオーニ氏も大暴れしたせいか、満足そうだ。最後にリアナが受講生に締めの言葉をかける。


「きょうは突然のゲストがきて、皆さんには一流店の仕事を見てもらいました。こういう世界もあると知れたのもいいかと思います」


いちおう何とかかたがついたようだ。受講生に片付けなどを指示して3人で引き上げる。




 応接室で話し出す。


「来てくださるなら、事前に言ってください」

「いや手紙をもらって早い方がいいかと思ってね」


この調子だ。今後は手紙を出すタイミングも考えないといけないかもしれない。届くなり来るものと見越して、出すことにしよう。


「実習も来ていただけることがわかっていたら、それに合わせて準備しました」

「それはそうと、さっきの実習だけど少してぬるいんじゃないか?」


そう言われても困る。レオーニ氏の店は1度に1人面倒見ればいいが、こちらは10数人いる。しかも一流店ではなくチェーン店の厨房を任せられる人を育てている。そもそも背景が違うのだ。リアナは言いにくいだろうから、俺の方から反論する。


「いえ、うちは多数の調理担当者が必要ですし、レオーニさんの店みたいに養成するのに何年もかけられませんから」

「ふーん。だけどできておいて損はないと思うけどね」


それもどうかと思う。確かにうちは促成栽培だが、ホワイトだ。残業もほとんどないし、給料もよそよりいい。レオーニ氏の店は割とブラックだ。


もちろん彼の店の調理人よりうちの店の調理人の技量は低いだろうが、うちの店は庶民向けに安くそれなりに美味しいものを提供している。


レオーニ氏の店は高級店で誰もが行けるわけでもない。ある意味使いもしない技量はあきらめて効率よくやっている。


もちろん高い技量を知ることにも意義はあるとは思う。だけどここは重要なことだがホワイトを捨ててまで求める必要があるかは怪しい。


前世みたいに従業員をブラックで使い続けるために、技量を低いままにしておくのはろくでもないと思うけれど。


あまりそう言う面倒な話をしても、伝わらない気がするので話の方向性を変える。


「それはそうと、西部の料理について何かいいアイディアはありませんか?」

「うん、それはやってみないとわからないな」


考えてくれる気があるらしい。ただその言い方だとまた何か無理難題を押し付けられる気もする。


また新しい機械か希少な材料でも提供しないといけないのかもしれない。いや別に彼はきちんとその対価は払ってはくれているのだけれど半ば強引に持って行ってしまうのだ。


「やっていただけるのですか?」

「まあ、とりあえず試作品を見せてもらえるかい?」


やる気を出してくれてようなので、リアナは少し戸惑っていたが試作品を出すことになった。


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