撃った方も被害を受ける超強力兵器
西部のツアーが人気になりすぎて支障をきたし、応募者を振り落とすために高級化路線を取ることになった。
そこで食事も高級化しなくてはならないが、けっこうややこしい。うちで食堂を何軒も出すのは難しい。
だから手の込んだものは出せないが、手が込んでいなくて高級というのもあまり想像がつかない。
あまり市場が大きくないので、冷蔵流通もまだ展開できそうにない。そうすると新鮮なものは持って行けない。
保存がきく物となるとありきたりになりがちだ。しかも簡単にまねされても困る。
あちらが立てばこちらが立たないだらけになっている。
それで俺が思いついた。クルーズンに近いシャルキュだけなら店を出せる。そこで半調理品を作ってシャンプやグランルスに持って行くことだ。
そちらで簡単な調理をして仕上げることにする。それならありきたりにならないし、まねもされにくい。
そのアイディアでアランとリアナに考えてもらった。いろいろ候補は出してくれるのだが、いまいちピンとこない。それでリアナの師匠のレオーニ氏に手紙を書いた。
(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)
手紙で相談の日時を決めるつもりだったのに、手紙が届いたたぶんその日にとつぜんそれはやってきた。
「店主、レオーニ氏がお出でです!」
秘書から声がかかる。え? さっそく来ちゃったの? まだこっちは準備していないのに。だいたい俺だってたまたま今は暇だけど、会議しているときだってあるのに。秘書が困っているので、仕方なく会うことにする。
「わかったよ、入ってもらって」
すぐにレオーニ氏が入ってくる。
「やあ、手紙ありがとう。さっそく来たよ」
「わざわざお出でいただいてありがとうございます。ただとつぜん来られてもすぐには応対できないこともありますので、まずはアポイントをお願いできませんか?」
「西部で新しい料理を作りたいって手紙にあったね。さっそく詳しいことを聞かせてくれ」
ダメだ。自分の都合のいいところしか話が頭に入らないらしい。
「ですから、いま担当のアランとリアナもおりませんので、詳しいことがなかなか話せません」
「リアナのところはこの後行くからさ、まず話を聞かせてよ」
何を言っても通じそうにない。彼に頼むと決めたとき、アランもリアナもそれほど乗り気ではなかった。振り回されることが目に見えているからだ。
何か超強力兵器で、すさまじい攻撃力だが、味方にも被害が出るようなものだ。
いつものように押されっぱなしで、彼の言うことを聞くことになってしまう。しかたなく、状況をかいつまんで話すことにした。
高級化はしないといけない、だけどうちで店は出せない。簡単にまねのされるものでも困るし、ありきたりでもダメ。
だから日持ちのする半調理品を作って持って行くことにした。試作品をいくつか作ってみたけれど、いまいちピンとこないなどだ。
「商売のことはよくわからないけど、料理のことなら何とかなるかもしれないよ」
確かにレオーニ氏に商売のことを聞いても仕方ない。だいたい手紙だって今日届いたはずだ。手紙を見るなり自分の店を投げ出して、来てしまっていいものだろうか。
前にやり取りした彼の店の事務担当のマンロー氏などは頭を抱えているのではないかと思う。
「手伝っていただけるのは大変にありがたいのですが、お店の方はいいのですか?」
「うん? 店ね。君が名前を売ってくれるせいか、ずいぶん新規のお客さんが増えてね。それはそれでありがたいんだが、評判になった料理ばかり頼むんだ。
品切れ起こすと客が文句を言って面倒だからって、事務方もそればっかり用意するように言ってきてね。あれなら弟子たちで十分対応できるよ」
そう言うものかもしれない。ただそれって元の常連さんには困るんじゃないかな。行っても入れなかったり、予約が取れなかったりして。
レオーニ氏の店は弟子たちに任せて、ご本人は新しい店をした方がいいのかもしれない。そんなこと俺が考えるのもよけいなことかな。
「それで試作品の方も食べてみたいんだけれど」
「それはリアナの時間のあるときにしてもらえませんか?」
「じゃあ、さっそく行こう」
こちらの都合はお構いなしだ。
「彼女は彼女で仕事がありますから」
「僕に手伝えることがあったら、手伝うからさ」
意に介していない。
「えー、リアナさんは、調理実習中です」
秘書がメモ帳を見ながら、答える。あ、よけいなことを言ってしまった。
とたんにレオーニ氏の目がきらりと光る。ああ、乱入する気だな。これが会議だったら、退屈でどこかで待ってくれたかもしれないのに。
レオーニ氏を止めようとしたが、その前に彼は動き出す。しかも調理室がどこにあるかもとっくに把握済みのようだ。
かなりのスピードでそちらに向かうので、俺も駆け足でついて行く。少し離れた棟の、調理室にたどりついた。




