オーク対策(上)
すこし「ざまぁ」が入ります
そんなこんなで1か月ほど経過しても事態は動かない。さいわいレナルドのケガはよくなりつつあり、全快も間近である。
ただ自給自足に近い村でも困ることが出てきた。けがや病気があっても医者にかかれないのである。
医者は村にはおらずクラープ町まで行って診てもらうか、患者が動かせなければ往診を頼むしかない。
ところが途中でオークに遭遇しかねない状況ではどちらも動きようがない。馬に乗って駆け抜けられる者ばかりではないのだ。
ロレンス司祭の回復魔法で対応できるものも少なくないが、重篤な症状や慢性症状はやはり医者の領分である。
村の中でも誰か退治に向かうものが求められる。ただゴブリン相手ならともかくオークというと素人には難しい。
レナルドの道場もだいたい強いものはすでに外に出てしまっていて、簡単には帰って来れないのだ。
残っているのはまだ未熟かほどほど以下のものばかりである。
またシンディとマルコは明らかに焦っている様子がうかがえる。別に2人が焦ったところで何か事態がよくなるわけでもない。
シンディは自分が未熟でオーク退治などできないことはすでに受け入れているし、マルコも待つしかないと思っている。
だがフェリスには2人のもどかしさやどこにも持っていけない感情が伝わってきていたたまれないのだ。
3人で遊んでいるときでも、会話が途切れがちになって黙りこくってしまう。勉強や何かの作業をしているときの方がそれに集中できるだけ心地いいくらいだ。
これでは耐えられないとフェリスはロレンスやレナルドに状況を聞いてみる。しかし色よい返事は聞かれない。ギルドからも反応はないという。
真綿で首を締めるとはこういうことなのか。一応自給自足でそれなりの生活はやっていける。だが病気の患者や商人など一部でうまくないことが起こりだす。
そしてそれに対して何もできない。実はフェリスも専門家に任せるべきだと思い、募金に相当な金額を出してはいるのだ。
レナルドはけがが治れば出陣するつもりのようだ。村の剣術師範としての意地もあるだろう。ただオーク相手に1人で出るのはあまりに危険だ。
ふだんから生きて帰らなくてはならないと逃げる方法まで教えているのだから、突然襲われたならともかく、準備のできる状況で出るのはむしろ恥である。
やはり賞金が100万では足りないようだ。賞金が足りないとなれば、増やす方策を考えなければならない。
そんなとき食堂・仔鹿亭で管を巻き、エミリーに絡む老人たちを見かける。
老人たちは面倒を若者に押し付けて死地に送ればいいと思っている。
あんな連中姥捨てにでもすればいいと思うが、もう少し建設的に考えないといけないと思いなおす。
あの連中から取り上げれば八方良しとなる。どんな手を使えばいいか同じく寄付を出しているマルクと相談する。そこであのくだらない見栄っ張りをうまく乗せて巻き上げてやろうとの相談になった。
マルクは客には誠実だが、ろくでもない相手には平気でそれなりのことをするとわかった。
連日のように酒場で老人たちは油を売っている。
「わしの若い頃は……」
などと言っているが、ここ数十年この辺にオークなど出たことはないらしい。どうせゴブリンか野犬程度を退治したくらいだろう。
「まったく情けない」
「ここで村の意気を示さんでどうする」
「皆のための貢献、それが求められていることじゃ」
老人たちは食堂にたむろして、口々に立派そうで実は卑しいことばかりまくしたてる。そんなくだらないおしゃべりが連日である。もう少し生産性のあることはできないものか。
さすがに我慢がならなくなり、賞金のこともあるので、マルクと一緒に威勢のいいことを吹いている老人たちを訪ね一計図ってやった。
「そうですね、村の意気を示すには、それぞれができることで貢献するべきですね」
「そうだな、魔物退治は気力の充実している若い者がすればいいな」
「わしらはもう体力もないからな」
「できることをすればよろしいのでは?」
「はて、わしらが何ができたかな?」
「応援ならできるか」
「若い者が進軍するのに知恵を生かして軍師をするのもできるぞい」
お前みたいな能無しが軍師などできるわけないだろ。だいたい軍師なんぞは下準備や調整が猛烈に大変なのだ。
「みなさまいつもこちらで飲んでおられてずいぶんと裕福でいらっしゃる」
「ああ、若いころからのたくわえの積み重ねだ。お前たちもせいぜい働いてたくわえをすれば、年をとってわしらのように暮らせるぞ」
「皆さま、多くたくわえがおありですか?」
「ああ、若いころ十分に働いたからな」
「わしもだ」
愚かな自慢で外堀が埋まる。
「私とフェリス君もいささかたくわえはしておりますが、今回のオーク退治のために浄財を出しました」
「ぜひできることをなさっていただけると幸いです」
老人たちは明らかにまずいことになったとの顔になり、お互いに見合わせて財布の中を探る。
できるだけ出さずにすむように目と目で示し合わせている。だがマルクとフェリスの目があるので露骨な相談もできない。
しばらく重たい時間が流れたが、結局はしょぼい金を出してその場を逃れようとした。口だけ出して金は出さないのは最低なのに。
マルクは受け取りつつ金額と名前を帳面に記す。
「ご参考までに申しますと、私もフェリス君も20万ずつ出しました。
いえ、いくら出したか金額を貼りだそうかと相談しているので、あまりに少ない金額だと皆様にとってお恥ずかしいことになるかと……」
同調圧力を使って弱い立場の者を危ない目に合わせるなら、同じことで仕返ししてやるとばかりにマルクがせめ立てる。
下品だしろくでもないが、あいつらは強いのだから少しくらいやりかえしてやるのもいい。
けっきょく後から取り立てて10万くらいずつむしり取ってやった。もちろんそれは全額冒険者への賞金にする。
書いているとき、ウクライナ戦争でロシアの老人たちが勇ましい主戦論を唱えている映像を思い出していました。




