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まねされなくて、難しい料理

 旅行ツアーの高級化路線を図っている。宿と馬車は調度を良くして、人を多くつける方向で何とかすることにした。


だが食事の方は調度と人だけで同行できるわけでもない。肝心の料理の方がよくならないと、それらだけでは大した力にならない。



 そこでアランはリアナと組んで、新メニューを開発することにした。


2週間ほどで試作品を持ってきて試食会となる。1つは現地特産のジャガイモを使った諸料理で、もう1つはやはり現地名物の薬膳を洗練させたものだ。


どちらもおいしい。2人はかなり自信に満ちた顔をしていて、料理の首尾はどうかと聞いてくる。


「どうですか?」

「うーん。おいしいよ」


「やったぁ」

「じゃあ、これでいいですね」

「いや、ちょっと待って」


「何かまずいですか?」

「いや、まずくはないけど、まずいんだ」


アランとリアナは妙な顔をしている。

「なんか、変なこと言っているな。つまり味はいいんだが、これを使うのはまずいんだ」


「どうしてですか? 味が良ければそれでよくないですか。高級路線にも合うし」

「けっこうな自信作のつもりだけど」

「うーん。まずジャガイモの方だけど、これすぐにまねされるよ。確かに値段の高い食材も使っているけど、保存がきく物だからまねしやすい。まねされるのが絶対ダメというわけじゃないけど、すぐにありふれたものになっちゃう」


「そ、そうね」

「たしかに」

「いや十分美味しいことはおいしいし、料理としては悪くないと思うよ」


「確かにありふれたものになっちゃったら、あまりうまくないですね」

「じゃあ、薬膳の方は? こっちもかなりの自信作だし、そう簡単にまねもできないわ」

「うーん、薬膳の方はね……、これリアナ以外作れる?」


「まあ難しいでしょうね。ある程度修行していないと無理ね」

「それじゃまずいんだよね。だって君にむこうにずっといてもらうわけにもいかない。現地の食堂の親父さんが作れるものじゃないとうまくないんだ」


「あっ、そうだったわね」

「そうかあ」


2人は少し気落ちしているようだ。

「まあこれはこれで何かに使えると思うけど、ちょっと今回は使いにくいなあ」


試食会はそのようにして終わり、アランたちはまた考え始めた。


そしてまた1週間ほどしてゆっくり話し合う時間を設ける。


「その後どうなった?」

「うーん、いろいろ考えましたが、どれもうまくなくて」

「だいたい矛盾しているのよ。まねされちゃいけない、だけど簡単に作れるものじゃなきゃいけないって」


確かにその通りだ。まねされにくくするにはなにか難しいものでないといけない。だが現地の食堂の親父が片手間に作るのだからそんなに難しいものでは困る。


そうは言ってもこの問題を解決しないと高級化路線は取りにくい。


「うーんどうしようか?」

「うちで食堂出すわけにはいかないの?」


「町は複数あるし、ワンオペというわけにもいかないから、それぞれの町に複数の調理人がいるよね。そこまで何人も育てられる?」

「ちょっと無理ね。だいたいこっちだって足りないくらいなのに」

「うーん、むずかしいですね」


「なんか、ないかなあ?」

「さんざん考え尽くしたんだけどね」

「これはどうしてもしないとまずいですかね?」


「うーん、さすがに高級化を進めるとしたら食べ物は外せないよ。かといって高級化の方を見直すともっとややこしいことになるだろうし」

「そうですね」


そう言うわけで引き続き考えることにした。


家に帰って、クロがボールで遊んでいた。ところが転がって猫の手では届かないところに入り込んでしまった。


クロは何とか取り出そうとして、無理やり手を突っ込んだり、フンニャ・フンニャと騒いでいる。しばらく放っておこうかと思ったが、神が気づいて取ってやっていた。


そんなものを見つつ、考え直してみた。難しいことはしないといけないけれど、難しいことはさせられない。


クロには難しいことでも神にはたやすいことがある。要するに難しい部分を誰かほかの人がすればいい。


考えたのはこんなことだ。シャンプやグランルスさらにその南のモンブレビルあたりの食堂で何か手の込んだ高級料理を出したい。


(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)


これらの町の食堂の親父さんに手の込んだもの作ってもらうのは難しい。だからできれば手の込んだところはうちで引き受けてしまえばいい。


とはいえうちでこれらの町に店を出すほどの余裕もない。それならシャルキュで何か日持ちのするものを作って輸送するのはどうだろうか。


商人に運ばせてもいいし、ツアーの荷物にしてもいい。できれば日持ちして複雑でまねできず、高級感があるといい。


日持ちしておいしいというのはけっこう難しいところだが、そのまま食べるものではなく、現地で簡単な調理をするような半調理品にすればできそうな気もする。


シャルキュだけなら人を複数置けるし、1日でクルーズンと行き来できるのもいい。それにそれならうちで独占もできる。


 そんなことを思いついて、翌日にアランとリアナに話してみることにした。


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