ツアーの高級化路線
西部のツアーは好調だ。あまりに人気が出過ぎて取り合いになっていろいろ弊害まで出てきた。客が取り合いを演じているのだ。
そのため値上げを検討している。ただ単に値上げして価格に見合っていない内容だと評判が悪くなりそうだ。内容もそれに合わせて向上させないといけない。
うちが出資してもいいので、宿や食堂や馬車の調度の質を上げることなどを話し合う。3か月後くらいの実現をめどに交渉に入ることになった。
基本的に交渉はアランに任せる。アランの方がすでに旅行に詳しくなっているし、俺がいなくても回るようにしたい。
それにできればアランの部下にも少しずつ権限を移していきたい。役員であるアランの下に部長級を置いて、重大でない取引はそこで処理するようにした方がよい。
アランが突然また歌手の夢を追求したくなるかもしれないし、そうでなくても別の仕事に回るかもしれない。誰かがいなくなって仕事が回らなくなるのは困る。
この国の慣習法でも役職のある使用人がふだんなみの取引を処理するのは一向に問題がない。
「いろいろな方針なんだけれど、アランが主体的に動いてくれていいし、必要なら独断で決めてもいい」
「それはまた何でですか?」
「もう君の方が旅行には詳しくなっているし、俺がいなくなったときに物事が動かなくなるのは困る」
「拉致事件のときはちょっと大変でしたね」
「そうだ。何かのきっかけで人がいなくなることはある。それでも動くようにしておいた方がいい。これはアラン、君がいなくなることも想定して動いてくれ」
「まだ当分はここにいるつもりですが、それはそれでいざというときのために対処しておきますよ」
「そのように頼む。それで例の高級化についてなんだけど、取引先の宿や食堂や馬車なんかも高級化したいと思っている」
「お金をかけないとできませんね」
「そうだね。融資にするかあるいは向こうに出してもらうか、相手次第でそれぞれありうると思う」
「彼らが他から借りるということはありませんか?」
「それもあるだろうけど、うちが貸すときは他より低利でいいよ。だってうちが必要だから貸すわけだから、貸し倒れの心配は少ないよね。それならうちから借りるんじゃないかな」
「なるほど。確かにそうですね。あと考えられるのは、金はないけど借金もしたくないというケースですか」
「いちおう相手が水準以上の薬務を提供してくれている限り、発注の保証をしてもいいと思っている。それなら向こうも安定した稼ぎで先が読めるし、リスクは少ないはずだよね」
「そう言う考え方をするのは都会の教育を受けた人だけで、そもそも借金が大嫌いという人は少なくありません」
それでもとりあえず先方と交渉してやってもらおうかと思ったが、思い直した。途中で条件がいろいろ変わると現場はやりにくくて仕方ない。
もちろん状況によって条件は変えないといけないが、それにしても方向性が見えていないと現場は振り回されて交渉時に困るだろう。
もう少し詳細まで詰めた置いた方がいいような気がしてきた。それにできればアラン主体で動いてほしい。
「そうかあ、そうかもしれないね。どうしたらいいかな?」
「うちが金を出して調度を作り向こうに貸す形にしてはどうでしょう?」
「向こうがそれでいいなら、それもありだとおもうけど……」
「何か気になることがありますか?」
「もし客が少なくなった時のリスクはうち持ちになるよね」
「ええ、そうですね」
「それなら向こうがリスク持つときより、毎回の発注の条件はうちが有利にしないとうまくないね」
「ええ、それはそうですね。うちで出した設備を使うときはうちに有利な条件で発注することにしましょう」
「じゃあ、その辺も勘案していろいろプランを立てて先方に話を持って行ってくれる?」
「わかりました。そうします。ところで、それでも向こうが受け入れないときはどうしましょう?」
「そのときはよその業者に頼むか、うちで店を出すしかないよね」
「すぐに切るのは心苦しいですね」
「できるだけ説得してね。ただどうしてもうちの新たな路線と会わないようなら仕方ない。いまなら競合業者がいくらでもいるから、そっちと契約できると思うよ」
「なるほど、そうかもしれませんね」
とりあえずそんな感じで話し合って、アランに現地の宿や食堂や馬車業者との交渉を任せた。
しばらくしていろいろと交渉が整いつつあった。大半はうちの融資を受けるということだった。借金が嫌いでうちが場所を借りて調度を作るケースもいくらかはあった。
それらもかたくなに拒否していままでのままがいいと主張した主人もわずかながらいる。それは人それぞれだ。
うちの提案を蹴った取引先についてはいちおう翻意を促すことにした。ただそれで向こうも言うことを聞くわけでもない。
その場合、うちにとって都合がいいかどうかで契約の継続を決めた。代替業者が見つからず、うちでもやりにくい場合は、こちらが折れてそのままの条件で続ける。
代替が見つかるかうちで引き取れるなら、契約の継続は見送る。そんな条件だ。
そうやって少しずつツアーの内容が高級化し、それに伴いツアーの価格も少しずつ上げていった。まれに高くなったことに気づいた客がいる。
そのことを指摘されたので、ツアーの内容が以前より上質になっていることを説明した。宣伝文句なども上質を強調しつつある。
以前よりずいぶん価格も上がり、そんなに大量の人が集まってこなくはなった。それでも以前より利幅は大きい。ある意味ツアー会社の中ではいちばんおいしいところを取っている。
別に庶民を全部排除したいわけではないが、スタッフや現地の取引先などのリソースが足りないから今の形にせざるを得ないのだ。
激安ツアーはさすがに作るつもりはない。その辺のリソースが確保できれば、もう少し庶民的なツアーも充実させたいとは思う。




