ツアーが人気でまた困ったことに
ツアーは順調で募集するとたくさんの客が来る。それはそれでうれしいのだが、いろいろまずいことも起こってきた。
まずツアーの取り合いがむごくなってきた。店の前に募集の前日から行列ができたりする。
これでもましになっているのだ。以前は準備ができ次第予告なしに募集していたので、いつ準備ができるかと何度も聞きに来る人がいた。
もっとひどいのは準備もできていないのに店の前をうろちょろしていた。どういう用件かと店員が聞いてもあいまいなことしか言わないという。
そして募集が始まったとたんに応募しだしたというのだ。さすがにちょっと加熱しすぎかと思い、アランと話してみた。
「ちょっといくらなんでも過熱しすぎじゃない?」
「ですね」
「どんな状況なの?」
「店の前をうろちょろする人がいて、どうもその人が応募しているとしか」
「そうらしいけど、どういう人なんだろう」
「たぶん応募者なんでしょうが、事情を聴いても何も言わないようで」
「お金かけてもいいから調査してくれるかな。何か変なことに使われていると困るし」
「はいわかりました。そうします」
そんな感じで調べることになった。うちの方で募集者を装ってうろちょろする人を出してみて雑談がてら聞いてみたそうだ。
ちょっと相手をだますようなやり口だが、さほど相手にも実害はないし、だいたいなんか犯罪まがいのことをされていると怖い。それで2つくらいのパターンが見られたそうだ。
「あのたむろしている人たちのことですが、わかりました」
「ふーん、どんなだったの?」
「ええ、2通りいて、1つは本当に旅行に行きたいようです」
「よくわからないな。だいたいうちのツアーじゃなくたって、西部は行けるじゃない?」
「それがうちでグッズをお土産に持たせていまして、それがどうも人気らしくて、何か持っていると自慢らしい上に転売もされているようです」
「え? なにそれ。うーん。もうそれだけ売ったらどう?」
「すぐに増産が難しいものもありますが、できるだけその方向でやってみます」
「そうして」
あまりグッズで釣ってモノを売るような商売はしたくないし、そんなことをしなくても十分うちのツアーは売れる。
「それからもう1つのタイプですが、どうも人に頼まれて並んでいるようです」
「へー、どんな人に頼まれているの?」
「実際に旅行にも行っているようですが、わりと裕福な人が多いみたいですね。商店主とか貴族の係累とか」
「それってどれくらいの値段で頼んでいるの?」
「1日1万弱みたいです。それで最高で5日くらいかかっているようです」
ツアーの参加は1人でないことも多い。それでどうしても行きたいとなると5万弱余計に払っても確保したいということか。さすがに申し込みの時に住所氏名を書くので転売はなかった。
それ自体は仕方ないが、なにか店の周りにうろちょろすることに生産性がないし、なんとなく仕事としてもむなしい。それにあまり雰囲気も良くない。
「どうします?」
ちょっと悩ましい。
「少し考えてみるよ」
そう言って家に帰り、クロをなでながら、考えてみた。こうすると考えがはかどるというわけでもない。
ただあまり思いつめるのもよくないという言い訳をして、とりあえず猫をなでたいだけだ。時折見せるひどく気持ちよさそうな顔がいい。
並ぶという行為がなにかブラックっぽい。どうにかした方がいいんだろうな。
いちばんいい解決はツアー自体を増やすことだが、すぐにはできない。スタッフを育てるにも時間がかかるし、宿や食堂や馬車の契約もままならない。2年3年見ながらするしかない。
すぐにできる対策もある。値上げするか抽選にするかだ。それでまたアランと相談する。
「本当はツアーを増やすのが一番いいんだけどね」
「それはすぐには難しいですね。スタッフの養成も、契約先の確保も」
「その通りだと思う。それですぐにできることだけど、値上げするか抽選にするかかな」
「ええ、私もとりあえずそれは考えました」
「どっちがいいと思う?」
「どっちも難点があって悩ましいですね」
「それぞれどんなことがまずいかな?」
「まず値上げだとお金のない人がうちと縁遠くなりますし、それから高くとったらそれに見合うものにしないとうちの評判が悪くなります」
「なるほど。抽選の方はその辺は大丈夫だね」
「ええ、ただ抽選の方はまた金持ちがたくさん人を雇ったらおしまいなんですよね」
確かにそうだ。何日もうろちょろするよりは仕事としてはマシだが、結局人数は増える。身分証のようなものはこちらの世界では普及していないから、それを見せろと言うわけにもいかない。
経済の考え方からすると値上げの方が順当に思える。生活必需品ならさすがに躊躇するが、これは娯楽のツアーに過ぎない。別に値上げしても倫理的な問題はない。
「値上げの方がいいかなと思う」
「難点の方はどうします?」
「うーん。お金のない人が縁遠くなるのはいまもそうだし、なるべくより広い層に提供するように努力すると説明するしかないかな」
「確かにそうですね。それで取り組むしかないですかね。あと、価格に見合わない方はどうします?」
「いろいろ高級にできないかな? お土産も高いものにする」
「ええ、それはすぐにできますが」
「宿もうちと独占のところにうちから高級寝具を提供するとか、改装してもいい」
「なるほど」
「馬車も少しゆったりさせて、クッションなどもよくしよう」
「すぐに調べさせます」
「食事も高級食材を使うとか」
「そちらはすぐにはできるかどうかわかりませんね。ご当地のものでなくなってしまうかもしれません」
「じゃあ、そっちはもう少し考えよう」
とりあえず、そんなことを考えて、対策することにした。




