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食堂の契約

 西部のツアーを初めて、けっこうな人気になった。人気になれば二匹目のドジョウを狙ってくる者も出てくる。


すでに食堂の契約を横取りされたり、質の悪いよそのツアーの参加者がうちのツアーと勘違いして苦情を言われたりした。




 人が儲けていたら自分もしたいと言うのは自然な感情だし、自由競争というのもそう言うものだと思っている。


ただ契約の横取りはひどいし、あまりにひどいツアーで西部旅行の評判自体は落とさないで欲しい。




 うちが契約していた食堂がよそのツアー業者にもっといい条件を出されていたらしく、一方的に契約を切ってきたことがあった。


それについては当該の食堂にそれなりに痛い目を見てもらった。違約金を受け取り、さらにうちでその宿場町に食堂を出した。


ただうちは飲食もやっているが、食堂を出すと言っても難しいところもある。またアランとの相談になる。


「うちで出した食堂だけどどう?」

「初めはちょっとバタバタしていましたけど、なんとか好評のようです」

「それはよかった。売り上げは上手く回っている?」

「それはちょっと波がありますね。やはりうちのツアーが毎日というわけではないので」


そう、客の入りが一定の方がありがたいが、なかなかそうもいかない。


うちのツアーが行くときに合わせて食堂の従業員を雇ってしまうと、うちのツアーがないときは人が余ってしまう。ブラックになるほど忙しくするつもりはないけど、暇で暇で赤字でも困る。


もちろんツアーとは関係ない個人客にどんどん入ってもらえばいいが、そちらもそれほど多くない。

うちと競合するよそのツアーにも開放するしかない。


「よそのツアーにも開放するしかないか」

「ええ、食堂の採算だけ見るとそうですが、そうしてもいいですか?」


「なんかまずいことある?」

「競合のツアーをする商会に使わせていいのかと」


確かに悩みどころだ。ただ積極的に競合に意地悪する必要もない気がする。食堂の採算もよくしたいし西部へのツアー自体を振興することも重要だ。


「ちょっと悩ましいけどそこまでよそに意地悪しなくてもいいんじゃない。ツアー自体は広がってもいいし」

「ええ、それならそうします。ただ例のうちの契約を横取りした商会はどうします?」


「さすがにあまりにケンカ腰の商会とはやっていけないね」

「ええ、そうですね。じゃあそちらの商会は外しましょう」


そんな感じであまりに敵対的な商会とは付き合わないが、それ以外はほどほどに付き合うことにした。



 ところでうちから契約を取った競合業者のツアーはさえないようだ。それはろくに準備もせずに行き当たりばったりで作ったツアーではいろいろまずい点が出てくるはずだ。


こちらはけっこうな準備期間をもって入念に計画している。うちのツアーは安くはないが、それは人の配置や宿や食堂や馬車の契約など少し余裕をもって置いているからだ。


それなしでぎりぎりですればちょっとのイレギュラーですぐにトラブルが起こる。さらにスタッフが少なければトラブルが解決できずさらなるトラブルを呼ぶ。


もうすっかり評判も堕ちていて、募集しても埋まっていそうにない。あとは格安路線でも採るしかないだろう。



 そちらの競合業者がうまくないということは、そちらに乗り換えた食堂もうまくないということだ。その食堂の方が前と同じ条件でうちと契約してもいいと申し出てきたらしい。


「例の食堂から前と同じ条件で客を受け入れてもいいと話が来ていますが……」

「え? なにそれ」


違約金の支払いを求められて拒否し、官憲の圧力をちらつかされてようやく払ったというのに、かなり太い神経だ。それくらいでないと商売はできないのかもしれない。


だが基本的にはノーだ。もちろん恨みはある。それだけでなくうちの商会でもう現地に食堂を出してしまっているかこちらをまず第一の選択肢にするに決まっている。


それにいつ一方的に反故にされるかわからない契約など怖くて結べない。


とは言え、露骨に敵対する必要もない。こちらの都合がよければ、とつぜん向こうから切ってきても問題ない程度の小さな契約くらいはしてもいい。


こちらで対応できる範囲ならこちらに損のない限りは取引してもいい。こちらが損を被ってまで向こうを守ることはないけれども。


「じゃあ、前と同じ条件はダメだけど、こちらに都合がよければ使ってもいいよ。ただまたやらかすかもしれないから、小さい契約にしてね」

「わかりました。確かに怖くてそうそうは使えませんね」


いろいろ立ち上げ期は面倒があるし、それが過ぎてもまた面倒はおこる。一つ一つ解決していくしかないようだ。




 相変わらずクルーズン市内を自由に出歩くのは避けている。だがら西部と商会と家にばかりいる。

家に帰ってクロをさわろうとするが何かそっけない。もちろん触れるかどうかなどクロの気分次第なの


だが、それでも一定の要素はある。少し暖かくなってきたのでうっとうしいのかもしれない。


猫の気分についてはあまりによくわからない。もちろんはっきりいやだと意思表示することもある。それは表情でわかる。


ただ嫌だと示しながらそうでもないこともあったり、本当にそうであることもあったりしてまた難しいのだ。


もしかしたらそうでないときには、しつこい男にしぶしぶ付き合っているだけかもしれないのだけれど。


ときどき「ふにゃん」と怒ってきて引っ掻きはしないが逃げられることはある。そうすると神が「わかってないのう」などという。


そう言う神だって俺よりももっと怒られているのだが。猫は神を超えている。

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