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わけのわからぬ苦情

 西部の方のツアーはかなり人気になっている。ところがそれに伴いトラブルも増えてきた。



 苦情が来た。土産物屋に連れていかれてそこに滞在させられたというのだ。1時間ここで待つと言われ外に行きたいと言うと、いつ出発するかわからないからここにいろと言う。


しかも土産物はどうも品物の値段より高かったという。たぶんうちのツアーではないと思うのだが、万が一があるかと思いアランに調べさせた。


ちょっと興味があったのでアランが苦情を言ってきた客の聴取をするのを聞いていた。さすがに店主自身が表に出るほどではない。



 うちの社屋の会議室で相手はふんぞり返っている。アランが行って事情を聴く。何か揉めそうなので書記を同席させた。


「当方ツアーの企画を担当しておりますシルヴェスタ商会のアランと申します。このたびは当方のツアーで何かご不満があったと伺っております。お名前をうかがってよろしいでしょうか?」

「あ、俺はサーマンだ。今回はあんたらのせいでひどい目にあった」


「サーマン様、まず日程はどのようなものでしたでしょうか?」

「あのな、こっちはあんたらのせいで嫌な目に合っているんだ。謝罪が先だろう」


何か言質を引き出して金銭を要求する手合いかもしれない。簡単に謝罪というわけにもいかない。

「当方の不行き届きでご満足いただけないような事態がありましたら、大変に申し訳なく思います」

「あ、なんだ。そのありましたらって言うのは」


反発はあるがアランは上手く返している。言質を取られえも困るので、いちおうあったらの話だ。そういうことはないだろうが。


「はい、そのためにも伺いたいのですが、どのような日程でしたか?」

「あ? 15日に出て20日に帰ってくるツアーだ」


あ、それでもううちではない。15日発はあるかもしれないが、5日間のような短い日程はうちでは扱っていない。


ただそこですぐに返すと顔をつぶされたように思ってまた余計なことを言い出すのがこの手あいだ。


その点もアランは上手くやった。俺より客と直接かかわることが多いから経験値が多いのかもしれない。


「それでは当該のツアーを調べてみます。該当するものがありましたら、担当者を呼んで対応いたします」

そう言って、客を待たせておく。


アランがこちらに来たので話す。

「うちじゃなかったみたいだね」

「ええ、ただああいう人はすぐに否定されると激高することもありますから」


「そうだね。ちゃんと納得させて帰してくれ」

「ええ、心得ています」


いちおうツアーの台帳は用意したが、調べるふりをしてお茶など飲んで少し時間をつぶす。

いい感じの時間になってまたアランは客の前に出た。


「お待たせいたしました」

「ふん、それで?」


「該当するツアーを調べましたが、ちょっと見当たりません」

「何だと? 確かに行ったぞ。責任逃れはたいがいにしろ!」


「はあ。実はこの通り、ツアーの記録は全部ございますが、該当するツアーはございません」

アランはリストを見せつつ説明している。

「だが俺は確かに行ったんだ」


「それがですね。うちとは別の商会が似たようなツアーを企画しているようですが、そちらではないでしょうか?」

そう言うと客ではないが、その苦情を言ってきた人は明らかに狼狽しだす。

それで引き下がるかと思ったが、斜め上の方向に飛んでしまった。


「本当にお宅じゃないのか?」


「はい。こちらの日程は当方のツアーにはございません」

「間違いということもあるだろ?」


「それがですね。そもそも当方のツアーでは5日間のツアーは用意しておりません」

「いや5日でなかったかもしれない」


「当方のツアーではツアーの事前事後に何枚か配布物があるはずですが、お持ちでしょうか?」

「いやそんなものもらっていない」


完全にうちではない。それでもうあきらめて帰ってくれるかと思ったが何か引き下がれないらしい。

アランが打ち切ろうとするが、なぜか居座る。


「このたびは大変にお気の毒です。こちら当方のパンフレットです。当方のツアーはほとんどのお客様にご満足いただいております。ぜひ次回はご検討ください」

「いや、お宅が似たようなツアーを放置するから俺がひどい目にあったんだ。何とかしろ」


単に意地で言っているのが、ゆすりなのかわからない。


「はあ、残念ですがよその商会にもツアーを企画する権利がございますので、当方でそれをやめさせるわけにもまいりません」

「だがな、お宅がもっとそういうことを宣伝していれば俺はひどい目にあわずに済んだんだ」


何を宣伝しろというのだろうか。だいたいよそはうちより安かったりする。それで安かろう悪かろうになっている可能性が強い。


どうせ安いツアーに飛びついたからひどい目にあったんだろう。うちがどれだけ情報を出したからと言って、うちに来るとは思えない。


「それにつきましては、お客様のご助言を参考にしつつ、今後は広報に努めてまいります」

「うん。そうか。それならいい。ところでそちらの努力不足で俺が被った被害についてはどうなるんだ?」


「金品の授受につきましては当方は領府のご指導の下に行っており、直ちには差し上げられません。もしご希望でしたら領府とも相談いたしますが、いかがしましょう」


さすがに領府がそこまで言ってはこないが、ゆすりタカリについて商務部に相談したことはある。少し大げさに言っているが、それもいいだろう。


領府と聞いて相手は官憲あたりと勘違いしたらしい。


「えっ、あっ、う、うん、そっ、それならいい」

慌てて断りだした。


「それでは本日のお話はこの通りまとめました。内容をご確認いただいて署名をいただけますでしょうか?」


あとから思いついて何か言ってこられても困るので迫る。官憲をちらつかせたからか大人しくなった。相手は署名する。

「これでいいか?」


「あ、ありがとうございます。頂いた声をご参考にますます良いツアーを企画してまいりますので、今後はぜひご参加ください」

にこやかな笑顔で送り出す。


まったく競合が出るのは仕方ないが、評判が悪くなるようなことは止めて欲しいものだと思う。


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