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ツアー人気でまたゴタゴタ

 クルーズン西部地域のツアーは順調だ。募集する前から人が並び、売り出したとたんにあっという間に埋まるようになった。


ツアーに行った人の話を聞いて応募するケースも多いようだ。なにか怪しげな知識人がサロンで「西を見よ」などと言っているらしい。


以前には「冷蔵流通革命」とか「シーフードの時代」とかのコピーを聞いたこともある。いや商売にご協力くださっているのだが、何だか胡散臭い。




 そういうわけで役員たちにはまた何かわけのわからないご近所さんが旅行に参加させろと寄ってくるそうだ。


俺は例の子爵の工作員が怖いので馬車で移動したりして、あとはときどき西部にギフトのホールで行くだけなので、あまりそういう目には合っていない。


この前、シンディとマルコがこぼしていた。


「まったく参っちゃうわね。あった覚えのない『ご近所さん』が便宜を図ってくれなんて言うんだから」

「こっちも取引先から頼まれて断るのに往生したよ。だいたいそんな枠ないのに」


前の冷蔵庫やシーフードのときの悪夢がよみがえる。あの時も何にも関係のない友人知人が大量発生した。みなさんご苦労様としか思えない。


いちおう会議をして断り方などを工夫することにした。なんでこんな変な会議をしなきゃいけないのかとも思う。




 あのときと違い今回は司教や伯爵の方は何も言ってこない。彼らは行きたければ勝手に行くし、そもそも彼らは泊る宿も違うのだ。


彼らは貴族向けの設備も警備も上の宿に泊まる。だからうちがそれを取り仕切ることはできない。


それでもあの司教あたりは信者へのサービスにこちらを利用することもありそうだが、そうはなっていない。


だいたい冷蔵庫やシーフードと違いうちが独占で提供できるものでもない。何なら彼らでも提供できないわけでもないのだ。




 もちろん回数を増やしたいのだが、スタッフがそこまでいない。スタッフも増やしているが、増やしすぎのもどうかと思うのだ。


「スタッフの養成を急いではいかがでしょうか?」

そう言う風にアランから言われる。ただちょっとそう言う気にはなれない。


ずっと今の需要が続くなら増やすのもいいのだが、そのうちどこかで落ち込む。その時に首にしたり別の仕事をしてもらうのはこちらに負担だ。


「ずっといまみたいな需要があると思えないんだよね。落ち込んだ時にうちにとってもスタッフにとっても負担になるよ」

「なるほど、それはそうですが、うちが増やさないとよそに取られるのではないかと」


それも確かにその通りで悩ましい。ただあまり急ぎすぎるとスタッフの教育の質が落ちる。旅行ツアーではないが前世でそれで失敗した飲食チェーン店がいくつもあったのを思い出す。


「それにスタッフの教育がしきれないよ。教育が不十分なスタッフを出して不満足な旅行になったらうちの評判にもかかわってくるし」

「確かにすぐには育てられませんね」


できたばかりの商会なら評判が悪くなればすぐに潰してしまえばいいだろうが、うちはそう言うわけにもいかない。


そういうと評判が足かせになっていそうだが、高い評判をを得ることで取引でも好条件を得ていたり、価格付けを高くすることもできる。せっかく得たものを手放すこともない。




 なお値段を釣り上げて儲けたいわけでもないが、いまは値段は上げている。


「そんなに価格を上げていいものでしょうか」

「いいんじゃないか。それがいちばん応募者数を減らせるし」


あんなにたくさん応募に人が並ぶのは不毛だと思っている。生活必需品なら1人当たりの量を制限して配給っぽくするのもあるかもしれないが、単なる娯楽だ。


だいたいどうしても行く必要があるならば個人で行けないこともないのだ。実は別の理由で行きづらくなっていることも確かなのだけれど。


それに値上げに言い訳がつかないわけでもない。初期の投資で赤字がある。それに供給が安定しているときよりいろいろ無理をするので負担がかかっている。値上げ幅ほどではないけれど、実は経費も掛かってはいるのだ。




 前回の観光ガイドや冷蔵庫やシーフードに引き続いてまた騒動になりつつある。多少話題になって欲しいと思うこともあるが、騒動にまではなって欲しくない。対応に疲れるからだ。家に帰ってクロに話しかけてしまう。


「また騒動になっちゃったよ」


そう言ってもクロはお構いなしだ。知らない顔で寝たいときは寝て食べたいときは勝手に食べている。


寝ているところを抱き上げると、そのときは気分次第だ。抱かれたいときはおとなしくしているし、そうでないときはするりとすり抜けてしまう。なんであんなに滑らかにすり抜けられるのかとも思う。


「おいおい、お主の都合でクロ様を抱き上げるでない」


神がまた余計なことを言っている。もちろん程度問題はあるが、猫も好きなことをしているし、こちらだって多少は好きな時に触ってもいいように思うのだ。


クロ自身は俺たちのことなどどっちでもいいかのように好きなように食べて、好きなように寝ている。


ただちょっと気に入らないのは神の出したたぶんおいしいご飯の方は皿の底をなめるように食べて、俺の出したふつうのご飯はにおいをかいでそっぽを向いていることだ。


あまりぜいたくさせないで欲しい。


あ、神も気まぐれだった。前世で誰かが神は猫だよと言っていた。人の言うことなんか聞きやしないということだそうだ。


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