オーク出没(下)
なおこのオーク出没の状況で一番困るのは実は商人のマルクだ。オークがいるようでは荷車を引いて商品を輸送することは難しい。
荷車を引いている馬などあっという間にオークに追いつかれてしまう。
実はこの村は自給自足でやっていけないことはない。15年ほど前までは行商人しか来ていなかった村なのだ。だから外からの産物がなくても当面はやっていける。だがそれではマルクの店は干上がってしまう。
「いくらかたくわえもあるからすぐにどうこうなるわけじゃないんだけどね」
そうはいいつつマルコは不安そうだ。実際には2~3年くらいは暮らしていけるたくわえはあるようなのだが、依頼している輸送業者はたまったものではないだろう。
村では村長と自警団長と各集落の名主と司祭と村にいくつかある氏族の長老が集まって毎月教会で寄り合いのようなものが開かれている。
教会で開くのはそこが一番広い場所が取れるからだ。教会というのはそういう機能もあるのだろう。また司祭ほど高い教育を受けたものは片手で数えるほどしかいない。
オーク出没の時点ではそのうちどこかに行ってくれるだろうと高をくくっていた有力者たちも、さすがにレナルドの負傷を受けて緊急の会議を開く。
領主への兵の派遣要請をすることはすぐに決まったが、実は期待できない。魔物の出没は多くあり、はっきり言えばオーク3体程度では大したことではないのだ。まだ死者も出ていないこともあり、後回しにされる可能性が高い。
冒険者に依頼することも提案されたが、それには報酬が必要なこともとうぜん議論に上がった。
村ですぐに出せる金は数十万でそれだけではちょっと物足りない。そこで村人に寄付を募ることになった。
このときマルクは、村ではかなり裕福な方であるとはいえ、個人としてはけっこうな金額を寄付する。
ただそれをきっかけにマルクも商人として寄り合いに参加するようになったのは偶然の結果なのか打算の結果なのかはわからない。
村としてはオーク退治についてクラープ町にも協力の依頼を出すことになった。出没しているのは村と町の間の道なのだ。
この協力依頼にしても、冒険者への依頼にしても町に行かなくてはならない。ただそれは村の若い者が馬に乗って行けば事足りた。
馬が荷車を引いていれば、オークに追いつかれる可能性が高いが、馬に人が乗るだけならオークの脚力ではとても追いつかない。
村長から領主とクラープ町長とギルド支部のスコットへの手紙がそれぞれ届けられた。
そうやって一応の対策は打たれたが、状況は進展しない。領主は案の定、兵を送ってこない。町の方も及び腰だ。
町の周りにはいくつか村があり、セレル村はその1つに過ぎない。親類や友人がいるとか取引があるならともかく、それ以外ではあまり関わりのない者も多い。
セレル村との間の道でオークが出てもさほど困らないのだ。町も町でそれなりに問題はある。
町の有力者の話し合いでは、放っておけばそのうちいなくなるのでやり過ごせばいいとの意見と繁殖でもしたらもっと大変なことになるから早めに退治しろとの意見が出たが、結局は間をとって付き合い程度の金を出すことで落ち着いてしまった。
ギルド支部のスコットはさすがに世話になったレナルドもかかわる問題だけに早い便でクルーズンの本部へと依頼を回した。
ただ正直な話、依頼を受ける冒険者がいるとは思えなかった。報酬が100万で微妙に安いのだ。
町にはあまり被害がないため反応が薄く、村の浄財が中心なので大した金額にはならない。
実はギルドが手数料に1割取るので村で出している金は111万1111ハルクである。
この仕事には安全を考えると少なくとも3人は欲しい。クルーズンから往復で6日で、退治に4日滞在すると延べ30日で、1日3万強の計算となる。
それで危険もあり、他のパーティが先に退治する可能性もあり、そうなると報酬はもらえない。
この依頼はおそらくC級の格付けになるだろうが、まず上級冒険者は来そうにない。C級冒険者が来てくれるかどうかも、かなり微妙なところだ。
スコットは村の方にもこれでは来る当てがあまりなさそうであることは伝えてあった。
さしあたり取れる対策は講じられたが、何も起こらないまま時間が過ぎていく。




