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初回ツアーを無事終える


 クルーズン西部の旅行ツアーをはじめ、その初めてのツアーに添乗している。


(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)


シャンプの町で食堂の食材が足りないトラブルがあったが、何とか駆け回ってことを収めた。

その後もまだ初回なのでたどたどしいところもあったが、アランは何とか収めている。



 ただ誰かの特別な能力で何とかするのは上手くない。だいたいアランは役員でいつまでも添乗しているわけにもいかない。


今回は初回なのでいるだけだ。それは店主の俺もだけれど。仕事が属人化しないようにするためには誰でもできるようにしないといけない。


そう言うわけで失敗例と対応策についても記録を作っていった。記録があるとはいえ、そもそも失敗など起こらない方がいい。


何かトラブルがあってそれにうまく対応すると有能そうに見えるが、実際はトラブルを起こさない方が有能なのだ。だから失敗しそうなところはあらかじめ潰しておくに限る。



 もちろん失敗があっても何か新しいことをしたいとか、挑戦的なことをしたいと言うなら別だ。


そういうことをあらかじめ客と合意しておいて実際にトラブルが起きたら予定通りですねと言えばいい。


日程がきついとか高い山に登りたいとか行く人が少ない奥地に行きたいなんて場合だ。どちらかと言えば若い男性が多い。


若いかどうかや男かどうかは結果論であって、誰であろうとあらかじめトラブルが起こりそうな旅行にその旨伝えて募集して、実際に起こったら受け入れてもらうまでだ。


トラブルを希望しない人には時間に余裕があって経費も掛かってさほど挑戦的でないプランを勧めておけばいい。


そんな風にいろいろなメニューが提供できるように経験値をためておきたい。その辺も統括のアランはもちろんついているスタッフに伝えておく。



 トラブルと言えば馬車が脱輪もした。ただ脱輪自体は日常茶飯事だ。その時も客の協力ですぐに復旧した。


ただ金持ち向けの高級旅行だったら、少し余分に馬車を用意しておいて脱輪したら乗り換えてもらうとか、そもそも脱輪しないように整備の水準を高めておいた方がよさそうだ。




 その後も小さなトラブルはいくつかあったが、さほど問題にもならなかった。


俺の方は毎日は同行することができなかったので、適当に同行しつつギフトのホールで家に帰ってクロと遊びつつ、商会の仕事の方もこなした。


現地のスタッフはそれぞれの町でツアーから離れてそこに滞在する。それでツアー専属のスタッフだけツアーにずっとついて、クルーズンまで戻ってきた。



 俺は先にギフトで戻っていたが、彼らが滞在中に別便で戻ったことにして帰還した彼らに合流する。


ちょっとした飲食などを出しつつ感想なども聞く。ツアー帰りの人たちは終わってしまったことで少し寂しそうだったが、それでもなんとなく高揚していた。


「今回は当商会のツアーに御参加いただきありがとうございました。初めてのツアーで舌がお楽しみいただけたでしょうか?」

「なかなかよかったぞ」

「終わっちゃうのが惜しいな」

「また行きたいな」

「次はあの山も登ってみたくなったな」

「アランさんのリサイタルがよかったです」


思い思いに感想が聞かれる。ちょっと不穏なのもあるけれど、いちいち記録する。実はそのための魔法使いまで連れてきている。


始める前は不安だったがけっこう好評だ。ある程度余裕を見ながら組んでおいたのがよかったのだと思う。


アランにリサイタルのことを聞いたが、あくまで希望者だけとのことだった。まあ、それならいいか。



 現地スタッフの記録も終わった後の会の記録もいちいち取っておいてツアースタッフが回収する。あとは整理して再編集する。


ツアースタッフは添乗の仕事ばかりというわけでもないので改善点を考えたり、新たな企画を考えたりしている。


どの程度のトラブルがありそうか、リスクの見積もりのようなことまでしている。



 そういうことをするのは、次はさらに良くするためというのはあるがそれだけでもない。


このツアーが上手く行ったときに他の業者が参入するのが目に見えているからでもある。だいたい人がおいしい思いをしていればマネしたくなるのは人情だ。


特許のように先行者を保護しないとその後の発明が滞ると言うならともかく、こういうことで後の参入が妨げられることもない。だから目に見えにくいところでどんどん差をつけておいた方がいい。



 アランとツアースタッフにも意見を聞いたが、おおむねよかったと言っている。それは企画した甲斐があったと思う。

「ぜひまた次もやりましょう」

「次はあちらの山にも挑戦したいですね」

「次はあのトラブルをなくせます」

スタッフがいちいち前向きなのもいい。



 1回目はスタッフを多めに付けたのではっきり言えば赤字だった。だいたいまださほど話題にもなっていないからあまり高い値付けもしなかったし。


そもそも1回で収支をプラスにしようとは思っていない。これが呼び水になって少しずつツアー参加者が増えて儲かるようになればいいと思っている。


あまり最初からがつがつと採算を取ろうとすると、参加費がひどく高くなるか、それともツアー内容がひどくしょぼくなるか、どちらかになってしまう。


それで評判でも落としてあれはダメなどと噂されたら悪夢だ。



 そんなふうにツアーは幸先のいいスタートとなった。


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