初回ツアーに添乗へ
東部の子爵から逃げて西部に目を向け、旅行ツアーの企画を進めつつある。すでに役員の視察も終え、従業員にも見に行ってもらっている。
現地の宿や食堂や馬車業者などとも契約してツアーの準備は整いつつある。さらにすでに参加者募集も行い始めた。
初めてのツアーは俺も行くことにした。実は俺が行くと言ったらさすがに店主が長く外にいるのはまずいと止められてアランに任せることにしていた。
だがやはりどういうものか見ておいた方がいいと思う。だいたいいまだって、例の子爵の件は片付いていないのだ。店に入るがあまり大っぴらに出歩いてはいない。
今回の旅程は2週間ほどだ。前世より時間がゆっくり流れていて、そんなにキツキツで旅程を組んではいない。
だいたい移動にも時間がかかりせっかく行ったら向こうでゆっくりしようという日程になっている。それぞれの町も大きくないが3日くらい時間を取っている。
さすがに全部の旅程だと商会の方が困るのでギフトのホールを使って向こうに移動して、やはり同じ手で帰ってくる。
添乗の仕事というよりはむしろツアーがどんなものかの視察というところだ。
「やっぱりさ、例のツアーの初回、俺も行くから」
「いや店主はさすがにずっと離れてもらっては困ります」
「フェリスね、あなた店主なんだから」
「ほら、まだシャンプとホールがつながっているからさ、ホールでシャンプに行くよ。それなら2日は短くなるだろ」
「そうは言ってもですね。2週間ずっと行かれたら困りますよ」」
(西)カンブルー ---- 峠 ---- グランルス ---- シャンプ ---- 峠 ---- シャルキュ ---- クルーズン(東)
「ちゃんと毎日帰るからさ、それぞれの町で滞在している間もできるだけこっちで仕事するし」
「ちゃんと帰ってきてくださいよ」
「そうよ。フェリスしかできない決裁もあるんだから」
「ほら、また俺が突然、いなくなることもあるかもしれないから、その練習だと思って……」
「そういう体制は十分整えてあります。ご心配なさらず仕事してください」
「そうよ。いつもその言い訳で仕事を逃れようったって、そうはいかないから」
やれやれ前世でブラックだったから今回は経営者に回ったのに、またブラック化しつつある。
募集も終わり20名の参加者が来ることになった。募集時点でそう言うもくろみだったためか若い人が多い。
大半は男だ。どうもまだ女1人で旅に出ようと言う風潮はないらしい。いちおう女性のみ参加可能として、部屋も別に取っている。
旅行費用は20万ほどだ。高額に見えるが2週間だからそうでもない。というのもそれほどの高級宿がないからだ。貴族用の宿はあるのだが、さすがにそれは使えない。
もしツアーが盛況になってきたら、そう言う宿を作ることも考えた方がいいかもしれない。
20人乗りの馬車はないので2台で行く。旅行前にあいさつしたかったが、顔合わせするとギフトで向こうに行ったときに彼らが不審に思うかもしれないのでやめた。
代わりにマルコが挨拶してくれる。彼らはまずゆっくりと途中の町を見ながらシャルキュまで行く。それからシャルキュの町を観光してからシャンプにいく。
シャンプにつくのは3日後だ。その日に向こうに行けばいい。
そう言うわけでホールでシャンプに出入りしつつ、クルーズンでの店主の仕事もした。シャンプの方はいちおう駐在員を置いている。
郵便が始まりつつあったし、いつものように洗濯なども立ち上げつつあった。そちらの仕事は部署ができているので、そちらから短期出張で見てもらっている。
もう全部俺とか役員が処理しなきゃいけない状況でもないのだ。最終的には俺なしでも動くようになってくれるとありがたい。
この辺、まったく逆に考える人もいる。自分はかけがえがなく、自分がいないと組織が動かないのが望ましいと思っているような人だ。
そんなの面倒で仕方ないし、本人が事故なくずっと働かないといけないなんて本人にとっても組織にとっても不幸だ。
平常業務はできるだけ替えが利いて、できるだけマニュアルが整備されて、できるだけ誰かが欠けても問題なく動いて行く方がよほどいい。
どうしても個性を出したいなら、平常業務ではなくまったく新しいところですればいいのだ。
ともかく両地域の仕事をこなしている。クルーズンだとまだ怖くて出歩けないので、向こうに行けるのはちょうどいい。
もちろんホールで移動するたびにクロの前を通るのでクロをモフモフすることができる。とはいえ、神が甘やかしすぎで大したことのないエサだと見向きもしない。
あるいは背中をなでられている間だけ仕方なく食べるが、それがないとそっぽを向いていたりする。あの神が甘やかさなければそんなこともないのに。
ともかくそういう風に仕事をしながら、旅立ったツアー客がシャンプに到着するのを待った。




